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自重しない魔拳士さんは旅をする  作者: Liberty
第二章 テスタ村の冒険者
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七話 冒険者はテンプレが基本ですよ?

 村を発ってから1週間、レイアの機嫌は頗る悪かった。

 異世界初日の快適なベッドとは違い道中の野宿では、虫や寝床に連日悩まされていた。


「レイア()!イライラしているのであればどうぞ私で発散を!」


 加えてリィルのこの変貌っぷりである。

 出会った時の清楚な様子はどこへいったのか⋯⋯。

 そう、彼女は盾役として活躍するうちに甚振られると悦ぶような体質になってしまったのだ!


 村を出てから獣に幾度か襲われた時に、「レイアさんの手を煩わせるまでもありませんよ!」などと単身飛び出していき、怪我だらけで帰ってきたリィルに、「馬鹿者!1人で群れに突っ込むやつがあるか!」とレイアが叱ったのだ。

 リィルを心配しての発言だったのだが、リィルは馬鹿と罵られた時点でトリップしていた。

 百合道へ足を踏み出していた時に、ましてや同性の中でも特に見目麗しいレイアに罵倒されたのだ。

 リィル(変態)が興奮しないわけがなかった。

 それからというもの、様付けをして罵倒を要求してくるリィルにレイアは辟易としていた。




 さらに行軍を続けること1週間、やっとレイア達は最寄りの街──テスタへ辿り着いた。

 レイアが我慢出来たのは森を抜けた平原で襲われる頻度が増え、リィルの欲求が満たされていたからだろう。


「あれがテスタの街か⋯⋯。存外まともな外壁を築いているのだな」


「きっと土魔法で作り上げたんだと思います。それでもかなり時間がかかりますが⋯⋯」


「ほう、魔法か。私も昔は魔法を使っていたのだよ。何故か飛ばすことは出来なかったがね。今はどうだか知らんが」


「レイア様は魔法も使えるのですか?」


「私は火魔法と無魔法が使えるんだよ」


「二属性ですか!?初めて見ました⋯⋯。滅多にいないそうですよ。ちなみに現在確認されてる中で最多は三属性持ちで、今の王宮魔導師筆頭が三属性持ちらしいです」


「ほう、そうなのか。是非一度手合わせしてみたいものだな」


「だ、ダメですよ!」


 2人が他愛もない話をしていると、いつの間にか門の前まで辿り着いており、門番らしき男に声をかけられた。


「嬢ちゃん達は新顔だな?身分証を見せてもらおうか。無ければ銀貨1枚を身分証を作るまでの保証金として預からせてもらうぞ」


 粗野な口調だが悪いやつではなさそうだ。

 その後門番の男に身分証について幾つか聞いてから銀貨を払い街に入る。

 話を聞いていた詰所から街へ出ると、活気づいた街並みに2人はつい呆けた声が出る。


 リィルはハイカ村しか知らないので仕方ないのだが、レイアは異世界っぽいという何とも適当な理由ではしゃいでいた。

 お上りさんよろしく街を闊歩していく2人に、街頭に引き寄せられた蛾の如くナンパ男が近寄ってくる。

 元男であるレイアも百合志向であるリィルも男には興味ないので皆すげなくあしらわれているのだが。


 ナンパを断りながら暫く歩いていると目的の建物が見えてきた。

 レイアはここ最近で一番目を輝かせている。

 そう、異世界定番の冒険者ギルドである。

 ここで冒険者登録をすれば誰でも身分証を発行出来ると聞いたので、レイアの好奇心を満たすついでに身分証の発行もしにきたのである。


 ギィと音の鳴る木製のドアを押し開けると、建物内の視線が集中する。

 鋭い視線に震えているリィルは怯んで⋯⋯いや、頬が朱いので興奮しているだけだろう。

 レイアは特に気にする様子もなく、辺りを見渡す。

 中に居たのは厳ついマッチョばかりなのだが、建物自体は想像していたより綺麗だった。

 キチンと掃除が行き届いているし、受付の人達も清潔感がある。

 だがその清潔感を冒険者達に求めるのは酷というもので⋯⋯。


「お?偉く可愛い嬢ちゃん達じゃねぇか!どうだ?俺達と朝まで飲まねぇか?たっぷり可愛がってやるからよぉ!」


『ギャハハハハ!』


 つまりはこういうことなのである。

 やはりテンプレは起こるべくして起こるものなのだ。

 後ろでリィルが、朝まで弄ばれて⋯⋯!などとほざいているがレイアは無視して言い返す。


「ほう?これまた随分と品のないお誘いだ。貴様の見た目に相応しいであろう粗末なモノでは到底満足など出来んぞ?出直してくるがいい」


「んだ⋯⋯とっ!てめぇぶっ殺してやる!俺はDランクだぞ!女は大人しく言う事聞いてりゃいいんだよ!」


「では私より弱い貴様は女以下だということだな。女々しく泣いて許しを乞えば非礼を帳消しにしてやってもいいぞ?」


 煽り続けるレイアに、男は顔を真っ赤にして今にも飛びかかりそうだ。

 そこへ待ったがかかる。


「おいやめろ!ギルド内での戦闘は御法度だぞ!」


 建物の奥にあった階段から降りてきたのは、無精髭を生やしスキンヘッドを光らせた強面のオッサンだった。


「嬢ちゃんも嬢ちゃんだ。あまり煽ってやるなよ」


「事実を指摘しただけだ。逆上するということは自覚があるのだろう」


 その言葉に男が喚いて殴りかかろうとしてくるが、スキンヘッドのオッサンに止められている。

 煩いのは最初に絡んできた男だけになっており、外野は皆オッサンの登場で大人しくなっていた。

 次に問題を起こしたら冒険者資格剥奪する、と宥める⋯⋯もとい脅しをかけられた男は渋々引き下がっていく。


「それで、嬢ちゃん達は何しにきたんだ?」


「門番にここで身分証を発行出来ると聞いて来たんだがな⋯⋯。まさか入った途端に絡まれるとは思わなかったよ」


 嘘である。

 期待していたテンプレ展開がまさに起こったのだ、レイアは内心ではしゃいでいた。


「それはすまねぇ、ギルマスである俺の管理不足だ」


 そう言ってオッサンは深々と頭を下げる。

 顔は怖いが律儀な人なのだろう。


(ギルマスか⋯⋯。懐かしい響きだ)


 まだこの世界にきてから2週間程しか経っていないのだが、ギルマスと呼ばれていた頃が懐かしく感じたのだ。

 オッサンは感傷に浸っていたレイアを見て首を傾げるが、それよりも、と続けた。


「冒険者登録だったか?確かに嬢ちゃん達はそれなりにやるみてぇだが⋯⋯。特に銀髪の嬢ちゃん、アンタ相当強いだろ?」


「さてな⋯⋯。兎に角まず登録をさせてくれ。門番に銀貨を預けてあるんだ」


「おぉ、そうだったな。強い奴は大歓迎だ。詳しいことは受付で聞いてくれ」


 そういってオッサンは建物の奥に引っ込む。

 レイア達は言われた通り受付に向かった。




 受付嬢にはコスプレのような猫耳が付いていた。

 果たしてあれに感覚はあるのだろうか⋯⋯と考えていると、冒険者ランクについての話になった。

 F〜SSSまであり、最初は皆Fランクから始まりCランクで中堅といえるくらいで、AランクやSランクともなると国がお抱えになるくらい強いそうだ。

 SSランク以上はほとんどの者が縛られるのを嫌っているそうで基本的に同じ場所に留まらないのだが、強さは皆一騎当千、英雄と呼ばれるに相応しいらしい。

 1つの大陸に5人いるかどうかくらいのようだ。

 なお、現在生きているSSSランク冒険者は2人しかおらず、2人共行方は分からないとのことだ。


「──ひゃっ!」


 そこまで話したところで受付嬢が急に声をあげた。

 何事かとレイアが顔を上げると、赤面した受付嬢の耳を何者かが触っている。

 腕を辿って誰の不埒な腕かを確認しようとする。

 その腕は手前に伸びてきており⋯⋯。


 レイアの肩に繋がっていた。

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