序話 たったひとつの証
初めまして。処女作ですので至らぬところや、誤字脱字などもあると思います。
そんな時は生暖かい目で見て頂けると幸いです。
暇つぶしに書いた作品なので更新速度は不定期になります。ご了承ください。
それはとあるMMORPGでのこと。
その日、闘技場は熱狂に包まれていた。
『うぉおおおおおおおおおおおお!!!』
観戦していた者は、皆パソコンの前だというのに怒号の如き歓声をあげていた。
今日は公式主催のPvP大会本戦が行われていた。
数多の猛者達が予選という名の篩にかけられ、勝ち残ったのはたった16名。
大会は終盤も終盤、決勝戦が終わったところであった。
決勝戦のフードを被った人物の最後を飾った攻撃は、観る者全てに驚嘆の声をあげさせた。
拳に焔を纏い技能で殴りつけるというシステム上有り得ない攻撃の仕方に、皆最初はチートだと勘繰った。
しかし公式主催の大会故、チートなど許される筈もない。
詰まるところこれは仕様なのだ。
"魔法と技能の同時行使"
そんな事が成せるのは、全サーバー含めても100とない神器の力故だ。
その考えに至ったプレイヤーは、皆目を輝かせた。
ほとんどのプレイヤーが手に入れる事はおろか、見ることすら出来ない装備なのだ。
某掲示板などはあっという間にスクリーンショットや録画映像で埋まる事となった。
そんな中、冷めた顔で闘技場の選手専用通路を歩く者が1人、控え室に戻りフード付きの装備を外す。
フードの下から出てきたのは、銀髪金眼の少女のアバターであった。
「最後に奥の手を使っちまった⋯⋯。まあボス戦くらいにしか使ってなかったからいいけど」
優勝を果たした少女を操っていた彼の口から呟いて出たのは悔恨の言葉だった。
目立つこと間違いなしの奥の手である最後の攻撃方法は本来使う筈では無かったのだ。
しかし決勝戦というだけあって、勝ち進んできた相手は強敵だった。
それもその筈、決勝の相手は対人戦最強と迄言われている有名なゲーム実況者であった。
あくまで名の知れているプレイヤー中最強という注釈が付くが、それでも全プレイヤー中トップ5には入るであろう程の人物だ。
その為、出場すると伝えてあった少数のフレンド達からは、賛辞の旨を伝えるチャットが届いていた。
「まっ、終わったものは仕方ないな! 賞品貰って憂さ晴らしにパーっと呑みにでも行くかな!」
フレンドへの返信をしながら、彼はそう独りごちる。
プレイヤー達の間ではフードの人物に対する様々な憶測が飛び交った。
この大会はプレイヤー名だけでなく、仮名でも登録することが出来たのだ。
フードの人物が登録していた名前で世間に知られている有名プレイヤーはおらず、結局少数のフレンド以外誰一人として、何者なのかを完全に特定することは出来なかった。
そしてその謎多さ故に、根も葉もない噂ばかりが蔓延っていた。
しかし彼らはすぐに真実に辿り着く事となる。
フードの人物ととあるトッププレイヤーが、その日以降二度とゲーム内に姿を現すことはなかったのだ。
それは幾度として行われたPVP大会最初の出来事。
後にも先にも魔法と技能を同時に扱うことが出来た者は、彼女ただ1人だった。
初代チャンピオンという肩書きを得た彼女は消息を絶ち、一切の現実に関する情報は明かされなかった。
プレイヤーの中には現実での付き合いがある人が複数いたにも関わらず、だ。
ただデータという表面上のものだけが残った彼女は、まるで空白の抜け殻のようだった。
あたかも中身など最初から存在していなかったかのように。