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ささくれ黙示録 ~ショートショート集・ソノ1~

ショートショート018 体験談

作者: 笹石穂西

 やあ、お待ちしておりました。いつもお世話になっております。ははは、こちらこそ、先日はすっかりごちそうになってしまいまして。申し訳ないです。ああ、経費で落ちたんですね。いえいえ、とんでもない。経費でもなんでも、ありがたいことです。普段はカップ麺だとか、そんなものしか食べていないものですから。


 ところで今日は、どういったご用件でしょうか。お仕事の依頼。それはそれは、ありがとうございます。急なお話ですが、どんな内容なのでしょう。はあ、エッセイ。分量と納期は。なるほど、それくらいなら時間的には何とかなると思います。ええ、かまいませんよ。


 ただ一点、不安がありまして。書く内容ですね。ほら、私は毎日毎日、こうして部屋に閉じこもって文字ばかり書いているでしょう。そんな私に、人さまにお話しできるようなことが、はたしてあるかどうか。


 そうですか、相談に乗ってくださいますか。実は私、エッセイというものはどんなことを書けば良いのか、よく分からないのですよ。良ければ、アドバイスをいただけませんか。いくつか体験談を軽くお話ししますので。ありがとうございます。それでは、始めますね。




 一つ目。ある夜ふけのことですが、家に強盗が入ってきましてね。金庫の中身をよこせと言うんです。それでぜんぶ渡しました。ははは、いえいえ、その後いろいろありまして、結局そいつは私の部下になりました。どうしてそうなったのかって。それは企業秘密ですね。お答えできません。



 二つ目。コマーシャルのマーケティングに、盛大にやられたことがありました。多いでしょう、コマーシャル。毎日毎日、がんがん流れる。あれで神経をやられてしまってね。強迫観念に駆られて、土地を買ってしまったんですが、痛い目に遭いました。



 三つ目。ある日突然、女の幽霊が現れて、しばらくつきまとわれたことがありました。あのときはいろいろと迷惑をかけられたものですが、とりあえずその詳細は省きましょう。幽霊を見たというだけで、今は十分でしょう。



 四つ目。これはね、ひどい話なんですよ。ある日、私は美人と知り合い、仲を深めていったんですがね。実はその裏で……えっ、これは書いても載せられませんか。ふむ、私のイメージが悪くなる危険がある。そうですか。私としてもうさ晴らしになるし、いい題材と思ったのですが。残念です。



 それから五つ目。そうですね、もうこの辺で最後にしましょう。ある日、それはもう不思議な本を手に入れたのです。それで、本に書かれているとおりにやってみたら、いろいろあって死んでしまいました。ええ、本当に。まいりましたねえ。




 はあ。嘘だとおっしゃるんですか。そんなばかばかしい事件にばかり、一生のうちにそう何度も遭遇するはずはないと。そうですね。おっしゃるとおり、私に部下はいないし、土地も無い。確かに幽霊なんてうさんくさすぎるし、美人との出会いがあったなんて話も、したことはありません。そして何より、死んでしまったのなら、今ここにいる私は何なのか。まったくもって矛盾だらけ、いったい、人生を何回やっているんだと。そういうことを不審に思っていらっしゃったんですね。なるほどなるほど。




 はああ。まったく、長い付き合いじゃあないですか。何をいまさら。ご存知でしょう、私の名前。




 なんだ、ちゃんと分かってるじゃないですか。




 そうです。エヌ氏ですよ。

星新一先生の、数あるエヌ氏の物語。

上の話は、そのうちどれのことなのか。

それはぜひ、読んで探してみてください。

話に惹き込まれて、そのうちどうでも良くなること、請け合いですから。

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