序章
これはとある1人の高校生の物語。
頭脳中間、容姿中間、運動やや苦手、彼女居らず童貞の普通の高校生。
朝は少し寝坊して親に呆れられ、慌しく家を出る。
遅刻ギリギリでパンを咥えながらの登校。
面倒臭くでツマラナイ授業を睡眠学習を始める。
途中で叩かれてクラスに笑われる。
放課後には友達とゲーセンやら本屋やら寄って遊ぶ。
家で晩飯食って風呂入って漫画読んで……次の日を迎える。
これが男の日常で、男はこの生活が卒業まで続くものだと思っていた。
が、一説にはパラレルワールドと呼ばれるものがある。
人生という道の中で現れる分かれ道で、選んだ選択肢によって変わる「もしもの」という仮定を隔てた別次元である。
そしてこれは彼にも大きく分かれる別次元が多数存在する。
ある次元では……
「何だよ…何だよこれ……」
そう呟く男の前には、木屑やらコンクリートの欠片やらで辺一面を埋め尽くしていた。
その瓦礫の山……男が通っていた学校が跡形も無く潰れていた。
何故学校が潰れてしまったのか。
地震か?
ヘリの墜落か?
それとも戦争が始まったのか?
現実的に考えるなら他にも色々あるだろう。
が、理由は大量の破片等が語っていた。
無数の鉤爪の跡。刃物で削り切れた跡。カーキ色の様な得体の知れない液。
どれもこの世にあるとは思えない痕跡ばかりだった。
そんな悲惨な学校(だった物)の前に男は
「一体…何が起きたんだ…」
動けず、何も考えれず、現実と受け止めれず。
乾いた風が強く吹き荒れる。カタカタと破片と破片のぶつかる音がその場に響く。男は動かない。
次第に雨が降り始める。無防備な背中を小さく、少しずつ濡らしていく。
それでも男は動かなかった……
雨が降り続く中、男の後方から近づく一つの影があった。
まるで音を出さぬようゆっくりと、ゆっくりと近づいてきている。
男から大人一人分の距離間でそれは止まった。
それは先が潰れて鋭利状になった棒を握り締めている。
それは鋭く、光が無い目で男を見据えていた。
それは黒くボロボロの衣を羽織っていた。
それは棒をゆっくりと頭上まで掲げ……唸り声をあげた。
「クォォォォォ」
声に反応して、男は後ろを振り返る。
黒い衣を被ったそれ……顔が骨だけの化物を見た。
だがそれと同時に化物が、素早く飛翔。
衣からチラリと白く汚い何かが………足であろう部分、腹であろう部分が白骨となっている。
骸骨が落下と同時に棒を男に向かって振り下ろす。
暗い空から光が落ち、2人の姿が一瞬だけ白く塗り潰される。
この瞬間、世界の時が止まった。
「グッ………うぅ………」
木霊する呻き声。バタリと倒れ込む。
雨は更に激しさを増す。その日、全てを洗い流す勢いで雨が降り続いた…。
これは、彼がある選択肢で選んでしまった世界の結末であり彼の運命である。
彼を襲った敵が実は良き友の成れの果て、はたまた将来を誓う生娘、もしくは世界に誕生させた両親。この違いも全てパラレルワールドの理論とな「ちょと待てって!!」何ですか煩いですね。
「パラソルだかなんだが知らんが何が言いたいんだ!!」
崩壊の世界を生きる可能性もある彼。
………宮島 矢朔は狼狽する。
(突然変な声が聞こえると思ったらムズイ話をし出すわ映像が流れるわで頭痛てえよ……)
矢朔は靄のかかった空間にいた。
そして何処からもなく聞こえる声の主を探すよう辺りをキョロキョロとしていた。
前後左右どころか上下見渡しても全く同じ景色が続く。
変わった物は何も無い。
___何ですか、折角あなたの能力の説明をしに来てあげたというのに!ナレーターに突っ込みを入れるのは無粋ですよ!!!
どこからかまた声が聞こえた。
先程の説明口調とは一転、逆ギレ気味な内容が空間に響いた。
左手で顔を抑えつつ矢朔はため息をついた。
(能力ね……。つまり“あの現象”の事なんだな……)
何か勘づいた矢朔。
(あの日………)