第9話・焔使い
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ごつごつとした岩肌。
黒く鎮座するソレは、炭のように触れば、ボロッと崩れてしまうほどモロい。
辺りには草一本、生えてはおらず、生命の息吹はまったく感じられない。
時折ブシュウウウ!!っと、白い蒸気が上がるのが確認できる。
どうやらこの辺り一帯は、火山の中のようだ。
その中を、氷の鎧の様なものを身に纏った、剣士が通る。
「あっつ・・・・」
『冬の女王』に南の大地へ送ってもらったバルドは、額ににじむ汗を右の手でぬぐう。
周りの熱気に当てられ、体の露出しているところがジリジリと焦がされるようだ。
今までの人生の中で、今が一番暑いかもしれない。
それだけ、ここら一帯は非常に暑かった。
「しかしスゴイなこれ・・・・さすがは女王様の冷気だ。」
全身に汗をにじませつつ、バルドはペタペタと自分の凍った服を触り、感嘆の声を上げた。
出立の際、女王様が『邪竜の火炎攻撃にやられぬように』と、彼の服にその冷気を当て、氷の鎧を作ってくれたのだ。
さすがは『冬の女王様お手製の氷』である。
これだけの暑さだというのに、少しも溶けた様子は無い。
それは彼が腰に差す、剣にも同じ事がいえた。
腰に差している剣を引き抜くと、中からは青く輝く氷の刀身が姿を現す。
空よりも青く輝くソレは、まるで宝石のように煌く。
「で、その邪竜って言うのはドコに居るんだ?」
剣を再び鞘へとしまい、周りをうかがうバルド。
視界には、黒い岩以外、何も映らない。
ここへ来たのが、約数時間前。
それ以来ずっと探しているのだが、なかなか邪竜は、その姿を現さなかった。
南の大地というのは、存外に広い。
その広大な場所に居る邪竜という存在一匹を見つけ出すのは、砂漠に落ちた一本の針を探すほどに難しいだろう。
いくらソレが、大きな生物だといっても。
だが見つけられなければ、何も始まらない。
村の蓄えが底をつくまで、残された時間はわずか一ヶ月。
それまでに邪竜を倒せなければ、自分が今している事は、まったく意味を成さなくなってしまう。
自然、彼の歩む速度も上がる。
「どこだ、早くしないと・・・!!」
「そんなに急いでどこへ行きなさる、少年よ。」
「!?」
突如、背後からおじいさんのようなしわがれた声が聞こえてきた。
ここは、岩に囲まれた異形の住む異界の地。
人間など・・まして自分を呼び止める者などは、いないはずだ。
しかし振り向くとそこには、仙人のような姿の黒色のおじいさんが、大きな岩に腰掛けて居る姿があった。
声の主は、このヒトでまず、間違いないだろう。
柔らかい笑みを浮かべるおじいさんの姿に、少しだけ警戒を緩めるバルド。
だがそれと共に、自然と困惑の表情が浮かぶ。
今さっきそこを通ったときは、誰も居なかったはずだが・・・?
「おじいさん、ここに住んでいるんですか?」
「質問に質問で返すのは感心せんが、その質問には『肯定』と答えておこう。」
ふぉっふぉっふぉとバルドに笑みを浮かべながら、白く伸びるひげをなでるおじいさん。
彼からは敵意を全く感じなかった。
言い表すならば、森でクマと鉢合わせた際に向けられる、睨まれている様な、威圧するような雰囲気。
それをこのおじいさんからは、全く感じなかった。
すっかり警戒を解き、質問に答えるバルド。
「北の国から『邪竜』を倒しにやって来ました。 居場所を知りませんか?」
「ほうゥ・・・『焔使い』をやるか。 これはまた面妖な・・・長生きはするものじゃて。」
先ほどまでとは打って変わり、眼光鋭く彼を見据えるおじいさん。
敵意とはまた違った威圧を、彼へと放つ。
それにより、口が縫い付けられるような感覚に陥るバルド。
村近くに頻繁に出没する熊とは、ワケが違った。
「アレはお前のような人間の子供に、倒せるようなモノではない。 死ぬ前に、故郷へ帰るがいい。」
低い声と共に宣告される、『自分には邪竜は倒せない』という事実。
ここまで来て、それはないだろう。
「待ってください、俺は村の皆のために、ここまで来たんです! ここで帰ることは出来ません!!」
「ほっほほっほ、勇ましい事じゃ。 ならばその『決意』とやら、とくと見せてもらおうではないか!!」
「ぐ・・・ゥゥ!!???」
先ほどより一層、強い威圧にさらされるバルド。
今回のそれは、先ほどとは段違いだ。
呼吸をするのすら難しい、今の直立の体勢すら今すぐ崩されてしまいそうな、向けられる鋭く重い眼光。
幾度と無く、意識を刈り取られてしまいそうになる。
自然と呼吸が荒く、過呼吸ぎみになるバルド。
だがおじいさんの向けるそれは、しばらくもすると解かれていった。
その瞬間、大きく息を吐き出し、深呼吸をする彼。
それをニコニコと笑みを浮かべながら見守るおじいさん。
「ふ~む、どうやら生半な思いで来た訳ではないようじゃな。 だが『決意』だけでヤツは倒せぬぞ? 貴様は居場所も知らぬ邪竜を、どうして倒す??」
「はあ、はあ・・俺は・・俺は邪竜を倒すんだ。 そうでなければ、俺の住んでいる村が、国が、無くなってしまうんだ!! お前にはそれが分かるか!??」
バルドの剣幕に、感心するおじいさん。
彼は腕力も瞬発力も並以下だが、内に秘める『気持ち』はどうやら、ホンモノのようだ。
おもしろい人間に会ったものだと、内心ほくそ笑む。
「その身に纏った氷の鎧に剣・・・人間の物ではないな? 魔力が満ち満ちておるわ。」
「・・あ、あなたは一体、何者なのですか??」
バルドの全身を見渡し、氷で出来た鎧等から発せられる『魔力』と言うものに、既視感を覚えたおじいさんは、彼にいぶかしむような視線を向ける。
これまでの言動などから、このおじいさんから『ヒトならざる者』の気配を感じ取ったバルドは、危険と分かりつつ、おじいさんに質問をした。
そして帰ってきた答えは・・・
「ワシか? なんじゃ人間達はそんな事まで忘れたか、人間の一生とは儚いものよのぅ・・・」
ゴクリとつばを飲み込むバルド。
先ほど解いた警戒も、最大限まで引き上げる。
彼の一挙手一投足からは、決して目を離さない。
「ほっほっほっほ、そんな警戒など不要じゃ。 ワシは君に危害を加えるつもりは無いからの。 そう、ワシの存在を聞きたいのじゃったな。 ワシは魔族じゃ。」
「まぞく・・・・?」
おじいさんの口から出た単語に、驚きを隠せないバルドであった・・
『緻密な設定資料などが無いと、こうなる。」
再び・・・
また同じ轍を踏んでしまいまいした・・・。