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第8話・新たな剣/バルドの賭け

これからも頑張っていきます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!

とある国にある『季節の塔』。

ここに今、バルドという一人の青年が訪れている。

終らない『冬』の原因を聞くため、単身、山奥の村から出てきたのだ。

だがやっと会えた『冬の女王様』から聞かされたのは、『炎の邪竜復活』という、恐るべき事実だけだった。

この竜の弱点は、寒い場所。

だからこの国で、冬が続くようになっているらしい。

しかし彼女は大変に疲弊ひへいしており、いつ倒れてもおかしくは無い状況だ。

下手をすれば、冬という季節が巡らなくなってしまうかもしれない。


そこで彼は、この竜を自ら、どうにか出来ないかを女王に聞いた。

何か人間の自分にも出来る方法ぐらい、無いのだろうかと。

かたくなに話そうとしてくれなかった女王様も、とうとう沈痛な面持ちながら、その重い口を開いた。


「・・・ひとつだけ、方法が無くはありません。」


「お願いします、聞かせてください!」


彼女は何やらもったいぶっている様子だが、早く教えて欲しい。

人間の俺一人でも邪竜を相手取れる、その方法とやらを。

このままでは、村だけではない。

国の住民達も、いつか食べるものが無くなってしまうのだ。


「アレのもう一つの弱点・・・邪竜の尾を狙うのです。」


「お?」


邪竜の『お』をねらう?

お・・・

それは、もしや尻尾の事であろうか?

だとすれば、尻尾をどうするというのだろうか。

女王は説明を続ける。


「邪竜は巨大な生き物です。 その巨体は二本の足のほかに、尻尾でバランスをとっているのです。 これを切断すれば、アレは弱ります。」


「ま、待ってください、俺にそんな事ができるわけがありません!!」


その邪竜というのは、どうやらとても大きな生き物らしい。

尻尾でその巨体のバランスをとっているので、切られるとバランスを崩し、動きが鈍くなるよう。

それは森のクマなどでも言える事なので、理屈は分かる。

だが彼女は先ほど、こうも言った。

『邪竜は口から火を吐き、鉄の剣をも通さない炎の壁で全身を守る』と。

それは地上最強とうたわれた王国軍の攻撃ですら、効き目は無いとも言っていた。

対して俺は、山奥の村から来たしがない村人に過ぎない。

太刀打ちなど、できようはずも無かった。


「・・・あなたの腰に差している剣、それを少しお貸しいただけますか?」


「え・・・? これを??」


女王はバルドが腰に差している、得物に視線を向けた。

彼が現在持っているこの剣は、親から昔もらったものである。

使う事はあまりなく、狩りに使った後もロクな手入れはしていなかったので、だいぶ傷んでいる。

それこそこれは、ただの古ぼけた剣に過ぎない代物だ。

もちろん、俺にとっては親の形見の、大事なモノである。

これをどうしようと言うのだろうか?

半信半疑で、女王へと剣を差し出すバルド。


「大切なものを、ありがとうございます。」


女王は俺に礼を言うと、受け取った剣を鞘から抜く事はなく、そのまま床へコトリと置いた。


「あの、これから何が始まるんですか?」


「私の力で剣を冷気で包みます。 ご心配には及びません。」


俺に顔を向ける事もなくそう言い放った女王は、真剣な眼差しで目の前に横たわる剣に、両の手をかざしていく。

するとそこから、ふわりと雪や氷の結晶のようなモノが出て来る。

その光景は、実に神々しいものであった。

出てきたソレはそのまま、バルドの剣を包み、その姿がほとんど見えなくなる。

彼はその光景を、固唾かたずをのんで見守る。

しばらくするとキンッという氷が割れたような音が鳴り響き、剣を包んでいたものが晴れる。

そこから出てきたのは、バルドの持っていた飾り気の無いみすぼらしい剣ではなかった。

氷で美麗びれいに装飾され、見る者を魅了みりょうするであろう剣は、鞘に入ったその姿においても、芸術作品のように美しい姿をあらわにしていた。


「申し訳ございません、形を少し、いじらせていただきました。」


「これが、俺の剣・・・」


女王様から渡されたその剣は、見た目に反して触っても冷たさは感じなかった。

実に、不思議だ。

これも、女王様の力なのだろうか?


「これを使えば、邪竜に有効なダメージが与えられるはずです。」


「どういう事ですか?」


冬の女王様の冷気に包まれた俺の剣。

見た目は変わったが、本質は一本の剣のままだ。

あらゆる攻撃が利かないらしい邪竜を相手に、これで何が変わるというのか?

『与えられる有効なダメージ』というのを聞きたいところだ。


「先ほど説明をしたとおり、邪竜は冷たいものを嫌います。 触れればそこが、もろく弱くなるのです。 この武器ならば、アレの尾を絶つことが可能です。」


「す・・・スゴイ・・・!!」


鞘から剣を抜くと、出てきたのは青く輝く刀身。

スラリと伸びたそれは、刃の部分が鋭利にギラリと輝く。

たぶん・・いやきっと、前より切れ味も上がっている事だろう。

透き通ったその向こうには、確かに鉄の剣が見え隠れしていた。


「その氷は、私の冷気で出来たもの。 邪竜の炎で溶けてしまう様な事はありません。」


「もし・・・邪竜の尾を断ったら、その後はどうすればいいですか?」


これで尾を断てというのは分かった。

バランスを崩した竜は、巨体であればあるほど、自重で倒れてしまう事だろう。

そしてそれが出来る武器を、女王様が仕立ててくれた。

だがそれだけではそれ以上、どうこうなるとは考えにくい。

倒れるだけでは、意味が無いのだ。

それが死ぬかどうにかならなければ、この『冬』は終わりはしないのだから。

つまるところ、邪竜の『本当の急所』を教えてもらいたい。

バルドの質問に、かぶりを振る女王。

それはつまり・・・


「残念ながらそれ以上は何も・・・もう一度聞きます、これは危険な賭けです。 尾を断てても、その後どうすればよいか分からず、そのスキに邪竜が復活し、死ぬ事だって考えられます。 それでもあなたは、行きますか?」


「・・・おれは・・。」


この討伐は、無茶を通り越して無謀だ。

分かっている相手の弱点は、『冷たいところ』と、『尻尾を切られる』ことだけ。

そのどちらも、決定打にはなりえない。

下手をすれば、俺は何も出来ず死ぬかもしれない。

だがここで諦めても、じきに飢えて死ぬだけだ。

この地を捨て他の地へ行ったところで、永くは無いだろう。

俺の心は既に、決まっている。


「俺に何が出来るかはわかりませんが、精一杯、頑張ってきます。」


「そうですか・・・これから南へ向かって、吹雪を出します。 それに乗れば、南の地へすぐに着く事でしょう。 健闘を祈ります・・・」


俺一人で行けば、犠牲はそれだけ少なく済む。

死にたくは無いが、これからの戦いは、きっと想像を絶するものであろう。

竜を倒せなければ、皆が死ぬ。


気を引き締めねばならない・・・・


もし、邪竜の弱点が分かっていれば、そもそも他の女王様が赴く事だって出来ますから。


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