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第2話・出発の序曲

早期の完結のため、頑張っております。

他作品執筆の影響などで、作業が遅れ気味ですが、どうかよろしくお願いいたします。

歩くたび、冷たい風が頬を打つ。

息をすれば、その吐く息は、真っ白。

視界に入る景色は、一面が白銀の世界だ。

これが冬ならば例年通りなのだが、今は時期的には春真っ盛り。

つまり今の気候は、異常であった。


「あのねバルド、そろそろ村の備蓄庫もカラになりそうなんだって・・・・」


「・・・・そうか・・・。」


隣を歩く幼馴染の少女に、相槌を打つバルド。

彼女の言う『備蓄庫』とは、この村の住民が冬を越すための食材などを溜め込んでいる、倉庫の事だ。

冬の期間、多くの雪が降り積もり、豪雪地帯となる一帯では、当然植物は育たない。

それをかてとする多くの森の動物達も、冬眠をしてしまう。

それに備え、秋ごろに多くの食料などをここへ保存し、冬を越すのだ。

だが冬が終わらくなって、一ヶ月以上が経つ。

倉庫の中身は、かなり心もとなくなっていた。

あと一ヶ月もすれば、完全に空っぽになってしまうのだと言う。

そうなれば、村の住民は餓死がしするしかない。

村を席巻せっかんする状況は、思ったより深刻だった。


「村長さん達の『用事』って言うのは??」


「詳しくは私も分からないわ。 ただ『バルドをここへ連れて来る様に』って言われてきただけだから。」


「そうか・・・」


村長さん達の言う、俺への『用事』

一応の好奇心から聞きはしたものの、何となくその内容は察しがついた。

この国には『季節の塔』というモノが、王都近郊の野原にそびえ立っている。

実際に見た事はないが、そこにはそれぞれの季節をつかさどる女王様と言いのが、それぞれの季節の期間中、住まっているらしい。

季節が巡らない。

それはつまり、この塔か女王様かで何かがあったと言う事。

これを村を代表して、俺に確認して来いというのであろう。


村に居るのは老人や子供ばかりだし、少人数居る大人たちは、いずれも妻子持ちだ。

家族の居る人間に、そんなリスクは背負わせられない。

対して俺は、歳は18と既に立派な大人だし、村には肉親なんて居ない。

俺と言う存在は村で今、一番何かあってもどうにかはなる人間なのだ。

卑屈な考えかもしれないが、それが合理的というものだ。


もちろん、彼らとしても苦渋くじゅうの決断だったのだろう。

だからここまで、判断の時期がずれ込んでしまったのだ。

しかしこのままでは、近いうちに村は全滅だ。


「バルド、どうしたの? 深刻な顔をして・・・」


「い、いや何でもない。 さ、村長さんたちが待っている。 早く中へ入ろう!」


狭い集落なので、少し話し込んでいるうちにすぐ、目的地の集会所に着いた。

ノックをして中へ入ると、中には俺たち同様、着膨れするほど厚着をした大人たちが、真ん中のテーブルを囲むようにして、立っていた。

室内のいたるところには、しもが降りている。

今は、燃料となるたきぎすら、貴重品なのだ。


「村長さん、遅くなってすみません。」


「いや、よく来たバルド。 わざわざ呼びつけてしまってすまないね。」


俺が入るなり、村民の輪の真ん中に君臨していた腰の曲がったおじいさんが、謝罪の言葉を述べた。

彼が、この村の村長だ。

生まれてからこれまでずっと、この村を出た事の無い生粋きっすいの村人で、三年前に先代の村長が流行病で亡くなりそのすぐ後、村人全員の推挙で村長となった。

一言で彼を言い表すとすれば、『村民のことを第一に考える、思慮深いおじいさん』である。


「ミカナも寒い中、彼をつれて来てくれてありがとう。 さてバルド君、早速『用件』についての話に入りたいのだが・・・ 彼女からもう、話は聞いているのかな?」


「いいえ。」


村長さんの質問に、首を横に振るバルド。

彼女は親父さんから、何も聞いては居なかったようだ。

いや、ただ本当に『聞いていなかった』だけかもしれないが。

それはこの際、関係ない。


「ですが、あらかたの察しはついています。 『季節の塔』の件ですね?」


俺から発せられた言葉に、目を丸くさせる他の村人達。

どうやら、ドンピシャのようだ。

それならもう、ここへ来るまでの間に覚悟は出来ている。


「そうか、分かっているならば話は早い。 バルド、君に王都で何が起こっているのか、それを見て来てほしい。 旅費は村人全員で出し合って、もう用意してある。」


そう言うと、村長さんが小さな巾着袋を差し出してきた。

持つと、ジャラッと音がする。


「中には、通行手形も入っている。 王都の門では、これを見せろ。」


「分かりました。」


話はトントン拍子で進んでいった。

村長さんから渡された巾着を、懐へとしまうバルド。

しかしこの場の全員が、それを良しとしている訳ではなかった。


「ちょ、ちょっと待って下さい!! どうしてバルドが一人でそんな事をしなくちゃいけないの!?」


村長の言葉に異議を申し立てたのは、他でもないミカナだ。

突如として幼馴染に言い渡された、『王都へ行け』という内容。

いくら冬とはいえ、途中で山賊などに襲われる危険があった。

しかも行くのは、言葉のニュアンスからバルド一人のようだ。

『季節の塔』の話は知っているし、この『冬』もどうにかしなければならないのは分かる。

でもその役回りを彼一人が背負うのは、何とも重過ぎる。


「・・・ミカナよ、これは村の総意として・・・・」


「村長さん、ミカナには俺から説明をしてもいいですか?」


取り乱すミカナに説明を始めようとする村長さんに、自ら『説明役』を買って出るバルド。

村長さんも俺の提案に、うなづいてくれる。

彼のお堅いの説明では、きっと彼女は納得しないだろう。

彼女なら親であっても、『だまされた』とか言って、話を聞かない可能性がある。

ここは話を受ける本人、つまり俺が話すのが最善の道と判断できた。


「ミカナ、このままでは村は、近いうちに飢えてしまうんだよ? そうなる前に、なぜ冬が終わらないかを誰かが確かめに行かなくちゃいけないんだ。 それは分かるだろう?」


「・・・・だからって、どうしてバルド一人なのよ?」


彼女が激昂げっこうしないよう、ゆっくりとさとすような口調で、説明をするバルド。

だがこれだけでは、彼女の疑問は全く、ぬぐえない。

それは、想定の範囲内だ。


「聞いてくれ、この村は貧しいんだ。 俺一人を王都へ行かせるだけで精一杯なんだ。 ミカナも俺が強いのは知っているだろう?」


自画自賛しているみたいで嫌な感じだが、彼女が納得するため、我慢して話を続ける。

俺は先ほども説明したとおり、剣を持っている。

昔これで父親と狩りに出かけ、クマを倒した事だってあるのだ。

それは親が亡くなった今、ミカナが一番よく知っているはず。

出来るのはあくまで、護身に毛が生えたぐらいだが、王都まで行くのなら、それで十分であろう。

しかし他の村民は、普通は武器など持ってはいない。

それを考えても、村で一番無事、ここへ帰ってこられる気がするのは、俺なのだ。

もちろん、道中何があるかは分からないが。


「大丈夫、たかが王都まで行くだけさ。 すぐに無事で戻ってくるよ。」


「グズ・・・・きっと戻るのよ!? 戻ってこなかったら、あなたの夢枕に化けて出てやるからね!??」


・・・それは逆じゃね?

何かあって死ぬとしたら、俺の方だぞ?

ギュ~ッと、彼女が握る俺の手に力がこもる。

痛い痛い、そんなに力をこめないでくれ!!

すると横から、申し訳なさそうな表情を浮かべたミカナの親父さんが姿を表した。


「バルド、すまない。 お前だけに村の責任を押し付けてしまうようで・・」


「どうせ誰かが行かなければならないんです。 むしろ村に恩返しが出来るので、俺にとっては願ったりかなったりですよ。」


俺には、村に恩がある。

三年前に両親をなくした俺に、他の村民達は手を差し伸べてくれた。

俺がここまで大きくなれたのも、そんな優しい村人達のおかげだ。

今がまさに、その恩を返すときと言える。


『王都へなぜ、冬が終わらないのかを確かめに行く』


村の未来が掛かった、責任重大な任務だ。

王都へ行くのは、十数年前以来のこと。

俺は不安をかみ殺し、前へと進む事だけを考える・・・



地球においても、ほんの百数十年ほど前まで、旅とは命がけのモノでした。

今回のこの話も、そのような世界観の上で成り立っています。

それでミカナ含め村民達は、バルドにこのような態度をとったわけです。


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