第15話・そして大地へ・・・
諸事情あって、今日か明日中に完結させる事となりました。
よろしくお願いいたします。
終った。
今、倒れた邪竜の心臓に氷の剣を突き立てる事に成功した。
ヤツの弱点である氷。
それで出来た武器を、急所に突き立てられれば、いくら邪竜でもひとたまりも無いだろう。
これで村は救われる。
達成感と、突然の空虚感から安堵と共に、剣の柄を握ったまま邪竜の背中にへたり込むバルド。
・・・これで、全てが終わった・・・・
その時、『岩使い』さんが大きな声を張り上げた。
溶けてていた体の修復は、終ったようだ。
「少年、早くそこから逃げよ! 『焔使い』はまだ・・・!!」
「え、何ですか!?」
あたり一面、邪竜の作った噴火で大きな音が鳴り響いていたため、その声はほとんど、バルドの耳には届かなかった。
・・だがその内容は、すぐに理解させられる事となる。
ズリ・・・
「え・・・?」
今、邪竜の背中が動いた気がした。
心臓に氷の剣を突き立てれば、死ぬはずだ。
おかしい。
だが考え空しく、バルドの理性が自分に訴えかける。
『ここは危険だ!』と・・。
ズリズリズリ・・!
「わわわわわ・・・!???」
大きく揺れる邪竜の背中に立っている事が出来ず、地面へと転がり落ちるバルド。
焔の海と化した、岩の上へ・・
「ううあ゛あ゛あ゛あ゛!!???!!!!!!」
「少年、しっかりするのじゃ!!」
氷の鎧を纏っていない、生身の彼ではこれに対処する術はなかった。
『岩使い』さんが助け出してくれたため、火だるまなどになるような事こそ無かったが、背中には大きなやけどを負ってしまった。
それに彼の剣も、邪竜の背中に刺さったまま。
彼がこれ以上、戦う事は不可能だ。
「ユルサヌ、スベテハカイシ、コワシテクレル・・・!!」
(「許さぬ、全て破壊し、壊してくれる・・・!!」)
「そ、そんな・・・・!」
咆哮と共に立ち上がる邪竜。
傷だらけの体は、先ほどのように炎に包まれてはおらず、その詳細な全容があらわになる。
闇のように黒い体に、ところどころに赤い筋が浮かぶ巨大な体躯。
見るからに獰猛そうな顔からは、恐怖を感じる。
背中から生えたコウモリのような翼は、まさにヤツを『邪竜』と呼ぶに相応しい。
目は全体が赤く光り、それはこちらを・・
いや、ここら一帯全てを見通しているような気がした。
怒りによって、わずかな理性すら吹き飛んでしまっているようだ。
「グオオオオオオオーーーー・・!!!」
今度は口ではなく、手から炎の塊を出す邪竜。
口からのモノより威力こそ大したことはないが、それでもかなりマズイ。
あの焔一つで、村が焼け落ちるであろう威力があるであろう。
邪竜の焔は、穴の外の岩場へも打ち出され、一帯を火の海へと変えた。
状況は、最悪だ。
対抗する武器はないし、対抗する術も無い。
逃げようにも、その前にきっとあの焔に、やられてしまう事だろう。
万事休すだ・・・。
「ごめんな・・・・くそぅ・・・!!」
最後に脳裏に浮かんだのは、村で待っている幼馴染のミカナの姿。
啖呵を切って村を出てきたくせに、この様だ。
村をどうにかしたくて、身の程も知らずに来てしまった。
その結果、邪竜を怒らせてしまった。
冬の女王様も、力をなくしかけていたから、時間の問題だろう。
そうなれば村どころか、国も邪竜によって、きっと滅ぼされる。
自分の無力さが、無性に腹立たしかった。
その光景を見て、『岩使い』さんは、ある事を心に決めた。
「少年よ、そのままここにおれ。 決して動くでないぞ?」
「え・・どういう事ですか??」
「ヤツは今、事のほか疲弊しておる。 精霊にはもう一つ弱点があってな、胸に光る『力の結晶』を使いすぎるとそれは砕け、やはり霧散してしまうのじゃ。」
「・・・。」
つまり生物で言うところの、体力を消耗しすぎると、死ぬと言う事と同じだろうか?
そういえば、『冬の女王様』も、同じ事を言っていた。
『力を使いすぎて、消えそうだ』と。
生物は体力を消耗しすぎると、その活動を停止する事となる。
『精霊』も、それは同じ事らしい。
それはきっと、邪竜も・・・
先ほどまでの戦いで、ヤツはきっと、かなり疲弊している事だろう。
口からは火を吐く素振りは見せないし、何より身に纏っていた焔が晴れているのが、それを顕著に現している。
・・だがそれは、これまでなれない戦いに身を投じてきた『岩使い』さんにも、同じことが言える。
彼も、かなり見た目はボロボロだ。
「岩使いさん、一体何をする気ですか!??」
「・・・そこを動くな!」
バルドにそれだけ言い残し、邪竜の下へ駆け出す。
勝機はあった。
バルドが背中に突き刺した『氷の剣』
残念ながら結晶に達するまでの攻撃とはならなかったのだが、それでも邪竜にとっては、決して小さくは無いダメージを与えていた。
全身に纏っていた焔が消えてしまったのも、そのためだ。
先ほどの体内の焔の爆発で、見えないダメージもかなり大きいはず。
怒りにかまけている今が、ヤツを倒す絶好のチャンスである。
「ありがとう、少年よ。」
今まで、ヤツが居ても手が出せなかった。
圧倒的力の差を前に、同胞の岩が溶かされてしまっても、その光景を傍観するほかに無かったのだ。
抵抗したところで、すぐに焔にやられてしまう。
だが彼が来た事で、それが変わった。
アレに有効なダメージを与えた上で、『余裕』をも剥ぎ取った。
危険さが増した反面、そこにスキが出やすくなる。
・・今までの戦闘で、ヤツはかなり消耗しているので特に、それが現れやすい。
それが、勝機となる。
これならば、今の自分の能力でも、十分に倒すことは可能だ。
「焔使い! 我が岩のつぶてを食らうが良い!!」
能力で、次々に邪竜へと大きな岩を投げつける。
それを邪竜は、事も無げに両手から繰り出す焔で、焼きつくす。
ヤツは今、飛んでくる岩の対処に夢中で、他の事への注意が完全に消失している。
これが、待ち望んでいたヤツのスキ。
これが、勝機。
「ぐぅうぬ・・・!!」
こちらも疲弊し、残された力はほとんど無い。
だがたとえ消えても、それは『死』ではない。
魔族は世界の一部。
たとえひと時いなくなろうとも、いつかまた、生まれるであろう。
新たな『岩使い』が。
それはもちろん、ヤツにも・・
いや、これは言わなくて良いな。
その時には、こうなる前に氷の下に、封じ込めれば良い。
生まれたての魔族ならば、きっと人間達だけでもどうにでもなるはずだ。
「岩よ、焔を貫け!! 邪悪を断て!!!」
ズボガン・・!!!
「グオアアアァァアアアァアアアァァァ!!!???????・・・・」
突如現れた石柱に貫かれる格好となった邪竜は、断末摩の咆哮を辺りにとどろかせた。
その石柱は、邪竜のちょうど胸の真ん中を貫いており、中にある『力の結晶』は、衝撃で粉々に砕け散る。
「はあ、はあ・・・・」
「グアアアアアアアアアァァアアアァァァァ!!!!!!」
力の源を破壊されてしまった邪竜は、苦悶しながら光の粒となって消滅していった。
後には、氷が全て溶け、元の鉄の剣に戻った、バルドの剣がカランと転がる。
そして、力を使い果たした『岩使い』もまた、苦悶の表情を浮かべながら、徐々にその体が金色に光りだす。
「岩使いさん! 体が・・・!!!」
力を使い果たした彼もまた、岩のように体にヒビが入り、徐々に足元から光の粒へと変わっていくのが見える。。
バルドは、負った怪我をよそに、彼の元へと駆け寄った。
だが消えていくソレを、どうにかする術は、彼には無かった。
「ああぁぁあああ・・・・」
何も出来ず、ただ地面に手をつく姿勢をとるバルド。
そんな彼に、微笑みを浮かべてくる岩使い。
「いいのじゃ、やっと『破壊の権化』を倒すことは出来た。 君は何も出来なかったこの老いぼれに、チャンスをくれたのじゃ。 ありがとう。」
「うぐぅぅう・・・!」
ここまできて、こんな事って・・!
やっと、邪竜がいなくなったって言うのに、これではそれも嬉しくはない。
悔し涙を流す彼に、最後に・・と消え行く体のうち、右手をバルドの背中へ当てる岩使い。
ここは、先ほど邪竜から落ちた時に、大怪我を負ってしまった部分だ。
「このぐらいのケガならば大丈夫。 消え行くぐらいならば、君にこの力を与えよう。」
「・・・・!?」
一瞬光る、岩使いのかざす右手。
それと共に彼の、ジリジリと焼き付けるように背中を襲っていた痛みは、溶けて行くように消えていった。
「岩使いさん・・・・?」
「大したケガでなくて良かった。 案ずる事はない、ワシが消えてもまた・・・」
言い終える前に、彼は光の粒となってすべてが、消えていった。
彼も邪竜も、大地へ還ったのだ。
岩使いが居た跡に残るのは、未だに燃え続ける岩と、嗚咽を漏らすボロボロの少年の姿だけだ・・・
あまり童話っぽくなくて、ごめんなさい。
作者の技量が、あまりに顕著に出てしまいました・・。
一応、埋め合わせはするつもりです。




