第13話・燃ゆる岩
邪竜の話し言葉が分かりにくいので、訳(?)を入れさせていただきました。
彼の話し方が、かなりカタコトなのです。
火山の中にぽっかりと開いた、暗闇を照らす明るい穴。
中には紅蓮の焔が渦巻いており、中の岩は熱で、燃えるか溶けるかしている。
これは噴火によって出来た、自然のものではない。
『焔使い』という竜の姿をした破壊の精霊が、自らの住処とも言わんばかりに一帯の光景を変えてしまったのだ。
ブオオオオオオオオオオオ!!!!
上げる咆哮はまるで、燃え盛る炎のようだ。
名前に相応しく、体は燃え盛る焔の鎧に包まれ、何者をも寄せ付けない。
この邪竜は先ほど説明したとおり、『破壊の権化』
理性はほとんどなく、ただ目の前のモノを破壊する事が、その使命。
数千年の眠りから覚めた竜にとって、封印されていた北はまさに地獄のような場所だった。
まるで、生きながらにして体を焼かれるような・・
それがさらに、わずかな竜の理性に『怒り』という感情をもたらした。
『すべてを破壊し、炎へ変える』
それだけを考えながら、ただ未だ手を出せない、北のほうへと視線を向ける竜。
「・・・?」
そのとき、邪竜は違和感を感じた。
地面が少し、動いたような気がしたのだ。
噴火などによるモノではなさそうである。
ものの数秒ほどそれを観察した竜は、危険を察知し、素早く上空へと飛び出していった。
途端に地面が、大きく陥没し、その下にあるマグマの姿があらわになる。
もう少しで、落ちてしまうところであった。
それと同時に、自分めがけて無数の岩が前方から飛んで来た。
急な事態に付いていけず、岩はそのまま巨大な竜へと直撃する。
「グウウゥ・・・!?」
特に痛みは感じないが、当たったときに少なからず、衝撃が走る。
何者かが、自分を狙っているのか?
岩が飛んで来た方向を注視する。
だがそこには、先ほどと同様に燃え盛る岩があるだけだ。
大きく息を吸い込み、体を大きく膨らませる。
それと共に竜の体のあちこちがオレンジ色に光りだす。
ガアア・・・と言う声と共に口を開けると、白く光る光球がのどの奥に姿を見せる。
・・そうして邪竜は、前方へ口から巨大な焔のブレスを吐き出した。
放たれた焔は、かなりの高熱を帯びているようで、当たった岩肌は次々に溶け、割れ目噴火のようにそこからマグマが噴出す。
さらに焔から飛び出す弾体がそこら中にばら撒かれ、そこからも小規模な噴火が起こる。
それはさながら、終末をも予感させるような光景だ。
なんと、美しい光景である事か。
悦に浸る邪竜。
「グフフフ・・・」
「相変わらずであるの、『焔使い』よ。」
「・・・・・?」
突如横から声をかけられ、そちらへと向き直る邪竜。
そこには、よく知る『魔族』の姿があった。
忘れもしない、『封印』の時にその場に立ち会っていた者の一人。
「イワ、ツカイ・・・」
「ほほう、ワシの名を覚えておったか。 久しぶりじゃの、千年ぶりか?」
「ナニシニ、キタ・・・?」
現在、自分は『愚か者』を始末し、桃源郷を作り上げたところだ。
ここでしばし力を蓄え、我はもっと強くなる。
そうして、世界を破壊するのだ。
邪魔をする者は、誰であっても許さない。
「『焔使い』よ、ここはワシの岩たちが住まう神聖な場所じゃ。 それなのに貴様は、だいぶ派手にそれを壊してくれたようじゃの?」
「コウギカ・・?」
火の海と化した地面に降り立ち、『岩使い』を見下ろす。
邪竜の疑問に、目に力をこめて毅然とした態度をとる『岩使い』
それを聞いた竜は細い目をさらに細くさせる。
「グハハハハハハ! ワラワセルナ、ワレハ『ハカイノゴンゲ』。 ソコニソンザイスルカギリ、ソノスベテヲハカイシテクレル!!」
(「笑わせるな、我は『破壊の権化』。 そこに存在する限り、その全てを破壊してくれる!!」)
「そうか、ならば貴様を岩に閉じ込めるまで!」
「ヤレルモノナラヤッテミルガヨイ! ソノマエニ、ハカイシテクレル!!」
(「やれるものならやってみるが良い! その前に、破壊してくれる!!」)
吹き上がるマグマと焔の海の中、『岩使い』と『焔使い』の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた・・・
それを少し離れたところから、固唾を呑んで見守るバルド。
手にしている氷の剣を握り締め、岩陰から戦いの模様を観察する。
『岩使い』のおじいさんが、岩で出来た弾のようなものを竜に投げつける。
それを竜は口から吐き出すブレスで包み、蒸発するように溶かす。
それによる焔の攻撃を、とっさに岩で作った壁で防ぐ。
初めて見る、命を掛けた本物の戦い。
バルドはそれを横目に、出て行く機会をうかがう。
『岩使い』がやっているのは、いわゆる囮。
邪竜の注意を一点に引き付け、その他の警戒をがら空き状態にする。
だがそれでも、邪竜は危険な存在だ。
相対的に見て、なるべく邪竜とは短い距離となった時に、手早く飛び出して有効なダメージを与えなければ、こちらに勝ち目は無い。
バルドのいる場所から見て、邪竜が後ろを向いた時が、その狙い目だ。
一気に間合いをつめ、氷の剣でその尻尾を切断。
倒れたところで、とどめに胸に剣をつき立てれば、竜は死ぬ。
これが『岩使い』と話し合った結果、実行に移す事となった戦いの概要だ。
「グオオオオオオーーーーー・・・ンン!!!!!!」
ジュバ!
ズドドオドドドオオオオオオオオ!!!!
焔のような咆哮と共に、何度と無く焔を口から吐き出す邪竜。
周りは噴火口だらけになり、熱さは尋常ではない。
それでもヤツは、攻撃の手を緩める気配は全く無いように見える。
これがヤツが『破壊の権化』と呼ばれる所以だろうか・・
「・・・くそっ! ダメか・・・」
だがどうして、なかなか邪竜は、真後ろを向いてはくれない。
一瞬向く事はあっても、一秒と止まらずにすぐ、動き出してしまう。
邪竜も一応は生き物だ。
動きを封じる事は、並大抵の事ではうまくはいかない。
だが同時に、それに安堵する自分もいた。
そうしている間は、自分はあの邪竜の前に出る事はなく、危険はほぼ、無いのだから・・
ボカアアアアァァァーーーーーー・・・ンンンン!!!
「・・・!?」
今までとは違う、何かが破られるような轟音に驚き、再び岩陰から顔を出すバルド。
彼の視界には、信じられない光景が映った。
「ハカイノジャマスルモノ、ハカイスル。 ワガシメイヲジョウジュスルタメ。」
(「破壊の邪魔する者、破壊する。 我が使命を成就するため」)
「ぐぬぬ・・!」
慣れぬ戦いに、『岩使い』の消耗は思った以上に、激しかった。
幾度と無く邪竜の焔を防いできた岩の壁が、とうとう溶かされてしまったのだ。
彼にはもう、新たな壁を作り出す『力』は残されてはいない。
焔の熱で、岩で出来た体は溶岩のようにされてしまい、修復には時間が掛かる。
それまで、待ってくれるような事はないだろう。
大きく息を吸い込み、口内をオレンジ色の光に染めていく邪竜。
もはや、万事休すだ。
「岩使いさん! 大丈夫ですか!??」
「・・!! 何をやっている、今は『その時』ではないであろう!?」
この緊急事態に、バルドはすかさず、岩陰から飛び出して身動きの取れない『岩使い』の元へと走って向かった。
邪竜は彼から見て、真正面を向いた体勢だ。
目指す尾は、かなり遠い。
「ナンダキサマハ?」
生成していた火球をいったん止め、とつじょ飛び出してきた人間に、驚きの声を上げる邪竜。
彼らの発す大きな声で、完全にバルドの存在は露見してしまった。
もはや、打ち合わせどおりの形での攻撃は、不可能だ。
「俺はバルド! 邪流め、覚悟!!」
氷の剣を両手で構え、突きの姿勢でドラゴンへと詰め寄る。
こうなれば目指すは、邪竜の胸、ただ一点のみ!
「ミノホドシラズノニンゲンメ。 ホネマデヤキツクサレルガヨイ!!」
(「身の程知らずの人間め。 骨まで焼き尽くされるが良い!!」)
「ま、待て・・!」
大きく息を吸い込み、ブレスを吐く邪竜。
その範囲は、とても広く、横へ回避する事はかなわなかった。
バルドは邪竜の焔を、正面から受ける形となる。
近くをかすった岩ですら、その焔を前に一瞬にして白熱化し、燃え出す。
『岩使い』の悲痛な叫びは、燃える岩を前に、塵と消えていった・・・
年内にほぼ、完結となります。




