第12話・邪竜見ユ!
これからも、頑張っていきます。
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俺の手には、一振りの剣がある。
これは両親がまだ生きていた頃にくれた、形見の大事な剣。
だが現在は『邪竜』を倒す事ができる、唯一つの武器となっている。
氷で出来た青く透き通る剣体の中には、元の古ぼけた剣が見えている。
だがその、さらに先には、赤く燃えながら溶けていく、岩が映し出されていた。
「少年よ、そこいら中が燃えておる。 気を抜くでないぞ?」
「は、はい!」
周りの熱気で、汗がとめどなく流れ落ちる。
地面に滴り落ちる汗の雫は、ジュッと音を立てて瞬時に蒸発する。
女王様が冷気で包んで作ってくれた、氷の鎧ごしでも、サウナのように暑い。
周りの熱で、今にも倒れてしまいそうだ。
おれは今、『岩使い』という精霊の案内で、岩場にぽっかりと開いた焔たぎる釜の中にいる。
ときおり燃える岩が、こちらへ転がり落ちてくるのを避けながら、ひた進む。
ここに倒すべき、『邪竜』が住まっているとは『岩使い』さんの弁だ。
広がるその光景は、まさに絵本などで昔見た、『地獄絵図』に相応しいものだった。
あちこちから焔が上がり、流れるように溶け落ちていく岩。
これらすべて、『邪竜』の仕業らしい。
「確認なんですが・・・心臓を貫けば、邪竜は死ぬんですよね?」
「正確には『大地に還る』と表現するのだが、その認識でも間違いではない。」
バルドの質問に、難しい回答をする『岩使い』
彼は先ほど言った。
『精霊は、心臓を貫かれれば、消えてしまう』と。
そして『邪竜も、種類は違うが「精霊」である』と。
女王様からは得られなかった、とても決定的な情報だ。
それが出来れば、俺にも邪竜が倒せると、少なからず希望が湧いた。
そして先ほど紹介したとおり、俺には邪竜にダメージを与えられる『武器』がある。
これでヤツの心臓を串刺せば・・・!!
「・・・のう少年よ。」
「は、はい! なんでしょう!?」
決意を新たにするバルドに、『岩使い』さんが声をかけてきた。
焔を背にしたその姿は、どこか物悲しそうな雰囲気すら感じられる。
一体、何だろうか?
「・・いや、なんでもない。 それより少年よ、見えたぞ『焔使い』が。」
「!!」
ついに・・・ついに、目指す竜の姿が見えたらしい。
ゴクリとのどを鳴らし、『岩使い』の向ける視線の方向へ、岩陰から目を向けるバルド。
そこには、今までと同じように、溶解しながら燃える、岩肌が映った。
それ以外、これまでと変わったところは、特に見受けられない。
「邪竜・・・?」
キョロキョロと、辺りを見回すバルド。
その視線は、一向に定まらない。
一体『邪竜』は、どこだ!??
そんな彼に、おじいさんが焔にあがる一筋の黒い煙を指差してみせる。
「アレが『焔使い』、今は火の中にその身を隠しているようじゃ。 目を凝らして見てみよ。」
「・・・?」
ゴシゴシと両目をこすり、ジッと、『岩使い』の指差す方向を見る。
熱によって白熱化し、ドロドロと崩れていく岩。
その中に、踊るようにひときわ大きな焔が、立ち上っている。
それをくすぶるように昇る黒煙に、一瞬、何かの形が浮かんだような気がした。
あれは・・
「見えたようじゃの。 アレが『焔使い』、君が倒すと言う邪竜じゃ。」
「アレが・・・!」
焔に隠れた邪竜。
その全容は、ほとんど見えない。
だがバルドは臆する事もなく、腰を低くした姿勢をつくって剣の柄に右手を添え、臨戦態勢をつくる。
アレさえ倒せば、『冬』は終る。
寒い冬が終り、暖かな生命芽吹く春がやって来るのだ。
今にも、岩陰から飛び出さんばかりの覇気を放つ彼。
「まあ待ちなされ、君は『焔使い』をどうして倒すのか。 それを決めてからでも、遅くは無かろう?」
「う・・・・」
『岩使い』に制され、言葉を詰まらせるバルド。
彼の言うとおり、このまま何の策もなしに飛び出しても、どうにもならないだろう。
弱点などは分かっているが、現状はそれに止まる。
ここで策を講じなければ、俺は間違いなく飛び出した瞬間、殺されてしまうに違いない。
あの邪竜に。
「邪竜の尾を断てば、体勢が崩せると聞いたのですが・・」
「『冬使い』の知恵かの。 たしかにアレは体が巨大だから、理にかなってはおる。 だがどうしてその尾を断つのじゃ?」
「・・・・。」
俺は戦いには疎い。
今まで家でやってきたのは、重い木刀の素振りと、狩りだけ。
今回の『邪竜退治』は、それらとはわけが違う。
焔に身を包んだ、何者をも寄せ付けない焔の化身。
それが、邪竜。
事実として今、見えている竜の体は焔に包まれている。
冷静になって見ると、それは『恐怖』という言葉を具現化したような光景だ。
アレが今から、俺が倒そうとしているモノなのか・・
「怖いか、少年よ。」
「こ、怖くありません!」
足をすくませるバルドに、微笑みを浮かべてみせる精霊。
ここで足を止めているわけにはいかない。
あの竜を倒せなければ・・・!!
ダンと、地面で踏ん張って見せるバルド。
それが逆に、彼の恐怖の感情を表しているように見えた。
「いや、それでいい。 先ほどの君は浮き足立っていたようだったからの。 アレでは『焔の』は倒せんよ。」
「・・・・。」
手に握る氷の剣を見つめるバルド。
青く透き通る剣の向こうには、なめるように岩を溶かしていく焔の塊が見える。
あれが目指す、邪竜だ。
俺の持つものは、氷で出来た剣と鎧ぐらい。
本当に対処が可能なのか、不安に駆られそうになる。
「大丈夫、『冬使い』の力は絶大じゃ。 どう言われたかのかは知らんが、彼女の氷は、アレの炎で溶けるようなものではないぞ。」
「・・ありがとうございます。」
それを聞いて、少し肩の荷が軽くなった。
つまり奴の胸に剣をつきたてても、問題ないという事。
それだけこの剣がまとう氷は、火や熱に強いらしい。
生身の俺がどう、この状態で戦い、邪竜を倒すかが目下の問題だ。
どうしようか・・・・
岩陰で考え込むバルドを横目に、溶け落ちていく岩を哀しげな表情で見つめる精霊。
彼は『岩使い』という岩に関連する精霊だ。
『焔使い』により燃えていく岩を見て、何か思うところがあるのだろう。
すると彼は何かを決心したかのように、再びバルドの方へと向き直る。
「ワシの能力で、岩を『焔使い』に差し向けよう。 それで奴の注意を引き付ける。 そのスキに君は、背後から回って尾を断つのじゃ。 倒れたところで胸部に剣をつきたて、結晶を砕けば、アレは消える・・・・。」
「岩を囮に・・・ですか?」
「・・・真正面からでは、アレには太刀打ちは出来ぬのじゃ・・・!」
「・・・・。」
精霊は誰に言うでもなく、ただ吐き出すようにそう言い放った。
バルドはそれを、ただ眺める事しかできなかった・・
次回より、戦闘シーンに入ります。
童話・・・っぽくないなァ・・・・・(汗)




