913 逃走
今回ホワイト
私は先程の露出度の高い服を買った。ご主人様には似合っているといわれたので私が着ても大丈夫でしょう。
服や、日用品などを買いながら、ご主人様の傍を歩いている……少し胸騒ぎがしますが、大丈夫だと祈りたい。
「エーアイどうかした? 人の顔ジロジロ見て……」
「いえ、何でもありません。」
ご主人様の傍に居たり、顔を見つめていると胸が痛い。この時間のご主人様は、この時間の私…エーアイが居て、私が邪魔するわけにはいかない。そうは思っていても、エル様の顔がチラチラ浮かぶ……私と同じ未来人でありながら、過去の自分に負けじとリョウ様の妻となり、お子さまもいて……私とエル様では、元々いた時間でエル様は結婚も子供いなかった…私には旦那も子供達もいた……
これで私が、私が今のご主人様に手を出せば、ビッチとか尻軽とか言われても仕方がないとは思いますし、そもそも手を出すつもりはありませんし……
「次どこに行く?」
ご主人様は妙なところで勘は鋭い。恋愛に対しての勘はどうかはわかりませんが、私が何を考えてるかぐらいであれば勘でばれてしまうかもしれませんね…
「ご主人様の行きたいところであれば、私はどこにでもお供します。」
「なら……映画とか?」
「映画でございますか? わかりました。」
荷物は全て収納できるので収納していますが、小さなバッグだけは自分の手で持っている…手ぶらで買い物というのも少し寂しいですからね。ご主人様は手ぶらのようですが…
「映画どれにしようか……」
映画の数はまだ少なく、5つしか上映されていない。それだけ、脚本家や演出、更に足りていないのは女優や、俳優などが不足している…既に引退されたコチョウ様の主演の作品が2つ、出演しているのが更に2つ。コチョウ様は時間が足りないといってたまに分裂したりしていたが、コチョウ様は働き過ぎだったと今ならはっきりと誰でもわかる…コチョウ様に大きなストレスだったんでしょうね。
「コチョウって本当に売れっ子だったんだ…」
「信用されてなかったのですか?」
「いや……あれが、どんな風になるのかなって…」
「でしたら、あの作品はどうでしょうか? シエル様がコチョウ様やリリアナ様などを出演させていますが……」
「なんでシエルが?」
「エル様とご一緒に作られていました。」
撮影や照明などの仕事も自分でやったり、自分の下についてる妖精を使ったりして撮られてましたが…中々好評らしく、結構お金が入ってきてますよとエル様とシエル様が喜ばれているのを何度か見かけましたね…
「仲いいんだ…」
「シエル様、エル様はとても仲がいいですよ? まるで双子のように、息もぴったりですしね。」
「へぇ~、じゃあこれにしよ。」
映画を見終わると、ご主人様は少し満足げにされていた。ストーリーや、演出もよく、とてもうまい作品になっていましたが…女性向けに作られてましたね。男性である、ご主人様が満足されているところを見ても、男性にもわかってもらえるような内容になっていた……シエル様、エル様はとても、優れたお方です…
「ちょっと、他の女連れてどういうつもりよ! なんで、デートなんてしてるのよ!」
映画館から出ると、コチョウ様がミレイお嬢様とカンナお嬢様を連れて買い物をされていた。私たちを見るや否や、お2人を連れ、駆け寄ってきた。
「ちょっと、あんまりなんじゃない? いくら、エーアイが美人だからって鼻の下伸ばしちゃって、あんまりだわ!」
「別に、何もしてないんだからいいじゃん……」
「良くないの!」
コチョウ様は最近、ご主人様と出掛けられたり喋られたりしているところを見かけない…それは前々からでしたが、コチョウ様からすれば、好きな人との時間よりも自分の子供達との時間を優先した結果ということなんでしょうが…妻でも愛人でもなんでもない私がご主人様の横を歩いているのはやはり、気に入らないですよね……
「エーアイが困ってるだろ、それにこんな道端で騒ぐなや。」
「無理よ! だって、私は全然相手にされないのに、どうしてエーアイはいいわけ? エーアイなら、ホワイトじゃなくても、エーアイがちゃんとした嫁でいるでしょ?」
「買い物一緒にしてただけだろ。」
「だから、それをデートだって言ってんのよ!」
「わからずやだな…」
「それはリョウの方よ!」
コチョウ様が私を見ると同時にコチョウ様の矛先が私に向いた。
「エーアイも酷いわ! 折角、相談とかいっぱい乗ってあげたのに……出し抜いたのね! 裏切られた気分よ!」
「で、ですが……」
「何よ。」
コチョウ様は私がそういうつもりじゃないといっているにも関わらず、ずっとご主人様に私が告白するようにと説得をされていた……てっきり私は、ご主人様と関係を持っても何も思われないのかと思ってましたが、実際はそうではなく、私がご主人様とデートすることすら許して下さらないということでしょうか…
「お、応援して下さると……」
「そんな話なかったのよ! 目の前でイチャイチャされて、私……私はリリアナほどそんなに自分はだいじょうぶなんて思ってないもの……私よりも美人がリョウの傍に居たら、リョウは私なんて興味なくなっちゃうでしょ? それに私は、感情的になりやすいのよ! だから、本心で言ってるつもりじゃないからね……エーアイの事は大好きだよ! リョウよりも! ってのはおかしいかな…でも、大好き!」
「ありがとうございます…」
「でも、イチャイチャされるのは嫌……だから、言いがかり付けて、離れるように思ってたんだけど……もういい。好きにして。」
コチョウ様は何がしたかったのか全く分からないまま、買い物続きしよっかといって、ミレイお嬢様とカンナお嬢様を連れて買い物を再開された…ミレイお嬢様のサンダルが相変わらず歩くたびにプップップッなっているが、可愛らしく見える。
「……あいつは本当に嵐だな。何が起こるかわかったもんじゃない。映画の中みたいにずっとかわいければ、救いようがあるんだけどなぁ……あいつ直ぐに怒るし、切れるし、泣くし、落ち込むし、八つ当たりもしてくるし、ちょっとしたことでも喜怒哀楽が激しいんだよ……」
「あまり悪くいわれるのは……」
「ごめんごめん……でも、嫌ってるわけじゃないから。コチョウ位かわいい子に好きって言われて嬉しくないわけがないからなー、後は凄い優越感がある! エーアイが傍に居ても凄いんだけど、コチョウの場合は有名人って要素が追加されるから、優越感だけでいえばリリアナ位あるよなー…」
「あの、ご主人様……こういうことを聞くのは野暮かもしれませんが、ご主人様は……リリアナ様の事が一番好きなのですか?」
「え!? いや……考えたこともなかったけど、ずっと、ある程度は好きってぐらい?」
ご主人様はリリアナ様の事が好きなのかはわからないが、私の質問が異性としての好きかどうかを聞いているものだとわかってもらえたのは良かった……一度、ベラドンナのことを聞いたときは上手くごまかされましたからね。
ベラドンナといえば、リリアナ様とは違い、一時ご主人様が本気で惚れたことのある…………
「ど、どうしたの? 大丈夫? えっと……はい、ハンカチ。」
ご主人様は何故か私にハンカチを寄越してくださった…
「……?」
「いや……」
ジェスチャーでご主人様は目の辺りから線を引くような動きをされた……
「も、申し訳ございません……きょ、今日はこれで!」
「え?」
戸惑うご主人様を放置して自分の部屋まで転移した……
「勝手にあなたの部屋に入っていてすいません。今は部屋全体の掃除をしようと思いまして……なぜ、涙を流しているのですか? 何か悲しい事でもありましたか?」
部屋に戻ると掃除をしている最中のエーアイがいた…
「いえ、何でもありません。」
ご主人様のハンカチで涙をぬぐって、ベッドに飛び込んだ……
「ご主人様に見られました……」
「……心配されていらっしゃるのでは?」
「そうかもしれません…でも、少し時間が必要そうです…もし、私のことで訪ねてこられたら、私のフリでも、何か適当な理由を付けて追い返して頂いて構いません。後程、ご主人様のハンカチを返しに行きますので……」
「わかりました。」
しばらくは、枕に顔を沈めたまま何もすることが出来なかった……
昔に比べて、それこそ、今のエーアイと比べてメンタルはかなり弱ってしまっている……昔もベラドンナが告白されたと聞いたときも、勝手に泣いてましたっけ……ご主人様が無くなれた時が一番泣きましたね。3年近く凹んでましたし…どうしても、ご主人様の事になると感情が出てしまうようになってしまった。




