888 異変
今回エル
「少し厳しくし過ぎなのでは?」
「…あのくらいが丁度いいのです。あの子のためにも…」
席に帰ってくるなり、エーアイ様同士で仲良く話をされている…ラミアお嬢様のさっきの戦いについて話されているらしい…
「……エル?」
「ミズキちゃんどうかしましたか?」
「カンナちゃんが、ミズキの教科書返してくれない。」
「え? 教科書なんて持ってきてたんですか?」
「お休みの間に勉強しないと……」
「あー夏休みとかでしたね。だから、こんな所にずっと…それにしても、真面目ですね。」
「エル…カンナちゃん、返してくれない。」
「カンナちゃんが? どうしてですか?」
「ちょっと読みたいって言って、ずっと持ったままなの! 返してくれるように言って!」
「ちょっとした準備時間の間は暇ですからね…カンナちゃんはどこに?」
「あそこ。」
カンナちゃんは、二冊の本を見比べている。何かを比較しているのか…
「返すように言ってきますね。ミズキちゃんも一緒にきますか?」
「うん。」
ミズキはじ可愛らしく頭を大きく縦に振った。可愛い…
「カンナちゃん! ミズキちゃんに教科書返しなさい!」
「やだ。」
「カンナちゃん!」
「お母さん、見てわからない? 私、今忙しいの…ほっといて。」
「カンナちゃん、私も怒りますよ?」
「お姉ちゃんも、姉のくせにお母さん連れて来て、どういうつもり? 見せてあげるって言ったじゃん。何が不満なの?」
「ミズキが読みたいの! カンナちゃんがそんな風にしてたら読めないでしょ!」
カンナちゃんは大きめの紙を開き、そこになにかのグラフ、考察……いや、なにかの理論? なにかを検討…実験の結果も書いている。
「じゃあ、返す。これでいい? お母さん。」
「え? はい…」
何のデータを作ってるんだろう…
「あの…カンナちゃん、それは?」
「お母さん、うるさい。」
「お母さんに、そんな口答えするんですか? 私、怒りますよ。」
「……あっそ、勝手に怒ってれば?」
「カンナちゃん!」
「……そうやって、怒ってればいい。お母さんに捨てらてもいいもん。お父さんの子になるもん。」
「どうして、そんなヒドイこと言うんですか?」
「私、お母さんの育て方に反発してるから…かな?」
「別に、魔法を使うのを拒んでたわけじゃないんですよ? やりたいなら、好きなようにさせてあげるつもりですし…」
「……お母さんはラミアの試合中の会話聞こえた?」
「え? あの歓声の中そんな声を聞くのが出来るのは、リリアナ様ぐらいですよ?」
リリアナ様は、周波数みたいなので聞き分けているらしく、超高音のノイズが鳴っていたとしても、ただうるさいのが聞こえるけど、別の音も聞き取れるみたいなものなんですかね。
「あっそ。何か話してるのが……気になっただけ。お姉ちゃん、これ返す。」
「あ、ありがと。じゃない! カンナちゃん最初から返してよ!」
ミズキちゃんはチョロチョロと元居た席に戻り教科書を読み、ノートを書き始めた。本当に勉強したかったんですね…
「……」
カンナちゃん、悪い影響を受けたわけじゃない・・・ですよね。
「お母さん、そんな目で見てなに? 私にまだ怒り足りないの?」
「もう、怒らせるような真似はしたらダメですよ……」
「うん……」
大リリアナ様が悪い影響を与えるのは難しいと思いますが……カンナちゃんが作ってるの、ただの教科書の内容とかを纏めてるのかと思って特に気にして見てませんでしたけどこれって……
「カンナちゃんは魔法の作り方でも模索してるんですか?」
「違う。」
「え? でも…これ……」
「ただの、途中の過程で出てきた理論の1つ。こんなこと、わざわざ、誰かに教わる必要もない。お姉ちゃんの教科書借りたのは、魔法の別の可能性を見いだせる可能性を模索するために見ただけ。特に役には立たなかったけど、また一つ知識が増えてその結果次の段階に進んだ…直接的には役に立たなかったけど、間接的に役に立った。」
「カンナちゃんはどうしてそんなことしてるんですか? 大リリアナ様がやれって?」
「あの人は、魔法を使うこと、私のしていることの逆の事をしろという。私は、魔力の…魔法の原点から0から違う魔法を作ろうとしているだけ。」
「……それは、ダメですよ? 危険思想って、もし…もし、ベラドンナ様やエーアイ様に思われたら脅されますよ? いくら、リョウ様との間に生まれた子供といえど、危険分子は排除する。裏切り者は許さない位のレベルでの…崇拝していると言った方がいいぐらい、お父さんのことが好きなんですよ?」
「知ってる。でも、危なくないから大丈夫。」
「それに、原点から違う魔法って体内から魔力を使うか体外からの魔力を使うかの差で2つしか…もしくはその両方を使うかの選択肢しかありえません。」
「……それは、お母さんの頭が足りてないだけ。」
「……カンナちゃん、突然どうしたんですか? おかしくなっちゃいましたか?」
「おかしくなんてなってないよ。私は、私。カンナ、ただのカンナ。悪戯好きで絵をかいたり、本を読んだりするのが好きな幼い少女。ただのカンナ。それが私…」
「何か哲学の本でも読んだんですか? 影響受けやすい子とは思ってましたが…」
「お母さん、魔法発動までの過程を教えて?」
「魔力を炎とか水に変換、放出。これが、一番単純な説明でしょうか?」
「じゃあ、回復魔法とかは?」
「人の再生能力の向上、若しくは外部からの干渉によってその傷を治す。といったものでしょうか…」
「魔眼の使用停止は?」
「魔力を流さないだけですけど…魔眼を使えないようになる方法は昔教えましたよね? 今更どうしたんですか?」
「自分の目が何なのかを知っただけ。」
「…そうですか、カンナちゃんが思ってるほど、悪い眼じゃないですよ…」
「知ってる。」
カンナちゃんじゃなくなったみたいまるで…前の私のいた私の本来のいるべき世界のリョウ様にそっくり。私が何か…でも、あっちの物は持ってませんし…あっちのリョウ様は既に死んでますし。私が居なくなってから少なくても1000年は時間が経ってるはず…だから、ホワイト様がここにいるわけですし…ホワイト様にはリョウ様を捨てて、別の安全な世界のリョウ様のところにいった裏切り者と思われてるかもしれませんけど…
「カンナちゃん、何か見たんですか?」
「いい。」
「もしかして、カンナちゃんは聞こえたんですか? さっきの試合中に話してたって言う会話。それが原因ですか?」
「違う。私、聞こえなかったって言った。嘘はついてない。」
「大リリアナ様が聞いたんですね? 何か、まずいワードでも口にしたか……」
「違う。」
「じゃあ、どうして、そんな狂気じみたことしてるんですか? 何かあったとしか思えません。もし、それ以上に続けるなら、私…無理矢理、それこそ、力ずくでカンナちゃんを押さえますよ…」
「お母さんはそんなことしない。」
「私はカンナちゃんのお母さんですよ? 子供に説教や、躾の1つや2つ位出来ます。なめてますよ後で痛い目見ますよ?」
「お母さん、私に本気で一度も怒ったことない。」
「カンナちゃんがいい子だから怒る必要がないだけです。」
「私、お皿割ったりしても少し怒るだけ。」
「怪我したらどうするんですかって怒りましたよね?」
「……お母さんは、一番悪い事をした私にそれらを隠した。」
「何らかの探りを入れると記憶が消える魔法ですか? 確かに掛かってるみたいですけど、そんなの知ってる私からすればどうってこと」
「お母さんは、知らない。苦悩も何もかも、内緒にしてそれを……」
「確かに最良な判断ではないでしょう。本来であれば、カンナちゃんは私と離れて更生プログラムでもやらされていたのでしょう。」
「どうしてしなかった?」
「…親バカが過ぎるとああなるんですよ。」
「私と離れたくなかったから?」
「そうですね。」
カンナちゃんは昔話をして…こういう、自分のしていることを知られたくないときは昔の事を話し出すのはあっちのリョウ様に似ていますね。こっちのリョウ様は隠し事下手くそですからね…誰もいないときにそれらをしている。それらをやっていることをばれているのも勿論知っているんでしょうけど…
「そんなこといいんです。カンナちゃん、母親としてはおかしな質問ですけど…あなたはカンナちゃんですか? どこか…カンナちゃんっぽくないです。」
「……私はカンナだよ、お母さん。」
カンナちゃんはいつも通りの可愛らしい顔で私を見つめた。目と目を併せて初めて気が付きましたが、カンナちゃんは魔法が覚醒してたんですね…与えるだけの魔法みたいですけど。




