887 冷酷、残酷
今回ラミア
「…どこから来てどこに向かうのか。あなたは考えたことはありますか?」
「どういう意味?」
「全ての生物に言える、最大の謎でございます。」
「難しい…」
「どこから来てどこに向かうのか…」
「……お姉さんはその答えを知ってるの?」
「ご主人様に言われた事を探してるだけでございます。」
「どうして私に?」
「…子供特有の豊かな発想力に頼っただけでございます。」
「よくわからない…」
「取りあえず、あなたは…目の前にいる私を倒すことを考え行動することを勧めます。私は、大リリアナ様がカンナお嬢様を鍛え始められたのを見て、あなたもその必要があると考えただけでございます。」
「どうして…」
「答えは単純、あなたの方が劣っているとだけ言っておきましょう…近い将来。明日にでもあなたはカンナお嬢様に劣る存在になりえるということです。」
「……カンナが私の前に現れる可能性を言ってるの?」
「驚きました。意外にあなたも考えが回るのですね。」
お姉さんは、とても驚いた風には見えないが、驚いたと言った…表情はお母さんと瓜二つで涼し気な表情をしている。目線は私ではなく、お母さん達が見ている席の方を見ている。見ているのは、お父さんなのか、お母さんなのか、それともカンナなのか…
「カンナお嬢様は、遅かれ早かれ他のお嬢様の害となる存在になるのは解ってはいましたが、ご主人様の愛娘の一人に無礼を働くわけにはいきませんからね…」
「カンナが邪魔者?」
「…シエル様、妖精の方が人との間に子供を作ることは、何らかの害が発生するのです。ミズキお嬢様であれば、成長障害といった形で現れました…カンナお嬢様には、何も現れませんでした…それが、答えです。」
「言ってることが矛盾してる…邪魔者になる理由は? どうして、害が出てないのに害?」
「…エル様が情報を隠されておられるのでしょう。エル様が隠されるほどの重要な情報を……」
「お姉さんは知ってるの?」
「それはお答えできません。それよりも、あなたは何も準備をされておられないのですね。」
そういうと、お姉さんは突然魔法を放ってきた。
「……あなたには、敵と戦う場合を想定して戦ってもらいます。」
そういうと、お姉さんは、地面を盛り上げ、人形の様な形に作り替えていった…その人形の見た目はまるで、ミレイちゃんの様…
「ミレイお嬢様を模して造らせていただきました。人造人間とまでは言いませんが、これは自分の考えで行動し、攻撃や回避運動を取ります。あなたにはこれを倒していただきます。」
いつもに増して、冷たく、見られただけで背筋が凍りそうな冷たい瞳でどこかを見つめている。明後日の方向…ここではない、どこかを見つめるその瞳はより一層冷たさを増した。
「…どうしてミレイちゃんを?」
「本人にそっくりに仕上げることによって、あなたには冷酷さ、残酷さといったものを身に着けてもらいます。妹様が相手であろうと、容赦はしない冷酷さを…妹様であろうと、場合によっては殺すことも視野に入れてこれからは行動していただけたらと。」
「え……お姉さんはお父さんを殺せるの?」
「勿論でございます。場合によっては、それも視野に入れております。エーアイには、出来ない判断でしょうが、その必要はあります。私はエーアイの100倍近い年月を生きております。いえ、あのエーアイと比較すると1000倍以上ですね。そんなことはよいのです。さぁ、始めてください。」
お姉さんはそういって、今度は普段の私やお母さん、お父さん、他の家族の人と一緒の時の様な穏やかで温かい目つきでこちらを見ている。本当に私のためになると思って言ってるし、やってるんだ…
ミレイクローンは、ミレイちゃんとは違って。表情に変化はない。
「ぼさっとしてないで、やらないと!」
「……」
お姉さんは少し離れてこちらの様子を見ている。横から攻撃してきたりとかはなさそう…
「……おねーちゃ!」
ミレイクローンはミレイちゃんそっくりな喋り方、声、調子で喋り始めた。顔に表情が少しずつ出てきた。
「おねーちゃ! ミレイと遊ぶ!」
本当にそっくりに作られている…あれが、魔法で作られた存在…ふと目を離すと、殴りかかってきた。
「ずごーん!」
……効果音を自分でいう当たり、ミレイちゃんの再現。ミレイクローンの再現度は中々に高い…
「おねーちゃん、よけちゃった!」
「……」
ミレイクローンは容赦なく、私に殴りかかってくる。その見た目からは想像もできない威力の殴打。かわしても物凄い風圧で襲い掛かってくる。
「……ラミア、攻撃をしなければ、じきにそれは馴染み、本当に自我を持ちますよ?」
「自我?」
「自分が、なぜこんな存在なのだろうか…自分が本物になり替わろうか、といったところでしょうか?」
「…ミレイちゃんが危ない?」
「お嬢様に危険が及ぶかまではわかりかねますが…その可能性も否定はしません。」
いざとなれば、お姉さんが破壊するのだろうけど…
「むぅ! おねーちゃんはミレイと遊ぶの!」
また、襲い掛かってきた。ミレイクローンは、見た目だけを再現しただけで性能はミレイちゃんには到底及ばない。所詮は人形…作られた存在は、その程度の存在。
「……ミレイお嬢様を模して作ったつもりでしたが…再現度が足りませんでしたか。」
「何度作っても無駄。人形を壊すことに戸惑うことはない。」
「そうでございますか…」
お姉さんは私をお嬢様とみるのか娘とみるかの境目にずっと置いているらしく、言葉がいつもメイド言葉と普通のお母さんと話すときのことばが入り混じっている…
「お姉さんは優勝したら何を望むの?」
「……その時に決めます。あなたには関係のないことです。」
何か、イラつかせてしまったらしい…冷たい対応をされた。




