872 親バカ子バカ
今回カラン
お母さんは…私の知る母よりも明るい、いや、心から笑っている。本当にうれしいと感じてることの方が多い。私の知る母はよく泣いていた…私には見られていないと思っていたのか、私の姿無くなるといつも泣いていた。私の前では心配を掛けないようにいつも笑っていたが…どうして泣いているのかはよくわからなかった私は、母の笑っている時が辛かった。
今のお母さんはいつも明るく、おっちょこちょいでドジで、アホっぽい。お母さんというよりは…昔の私がお母さんの事を気にする前のママと呼んでた時のお母さんに近い。
ママと私は今、リリアナの勝手に開いたトーナメントでお母さんと戦うことになった。べつに私はリリアナやララみたいに戦うのが好きなわけじゃない。かといって、戦うのが嫌だというわけではない。やらないといけない時が来たときのためにある程度…大体の敵とは対等以上に戦えるつもりだ。勿論、相手がママであっても引けは取らない自信はある…ただ、おかあさんの方は……観客に手を振ったり、ピョンピョン跳ねたりして、戦うというよりは見世物の戦いというのをするつもりらしい。
「かぁ~らんちゃん! カランちゃんとは喧嘩なんてしたことないから、とっても新しい感覚ですっごく、ワクワク? ドキドキ? してるのかな……」
エヘヘとお母さんは、恥ずかしそうに照れながら喋っている。
「私、カランちゃんの事思ってるよりも知らないのかなって思う時もあるの…母親なのにごめんね? ミレイちゃん産んでからはあんまりカランちゃんのこと見てあげれてないし…怒ってたりとかしない? 怒ってら謝るね? ごめんなさい。だから、怒らないでね?」
お母さんは、私が怒っていると思ったのか頭を下げて謝った。娘に対して頭を下げるなんて行為私はしたことないし、これからもしないと思うけど……
「大丈夫、お母さん。私は、怒ってないから…」
「カランちゃん!」
お母さんは目を子供のようにキラキラとさせて私を見る、今にも抱き着いてきそうな勢いで喜んでいる。本当にお母さんは子供っぽい…ドラマで見るときのお母さんとは全く違う。美人さんなのに、どうしてお母さんになると子供っぽくなるんだろう。
「エヘヘ…私、カランちゃんが出した本全部持ってるんだよ? 全部読んだし! カランちゃんの本売り切れてたりして大変なんだからね! 手に入れるのにも一苦労したこともあったし…」
「そうなんだ…」
お父さんから聞いてたから知ってたけど…お母さん、母親らしく振る舞おうとかそういうのじゃなく本当に好かれたいんだね。親バカって言うかなんて言うか…お父さんも含めて、館のみんな、親バカだ。子供も大人の事を凄く想ってるし、大人は子供のことをすごく想ってる。親バカ、子バカ、皆家族が大好きでその中にきっと私も含まれている筈……私も立派な子バカだから。
「親子対決始め!です!」
「かぁらんちゃん! 行くよ!」
お母さんは、氷の槍を作り出した。お母さんは結構槍を多用する…
私は、お母さんに対抗して炎の槍を作り、投げた。お互いの槍は丁度私とお母さん、2人の真ん中でぶつかりそこに落ちた。
「強度に差は無しか……」
お母さんは特に気にすることもなく次の攻撃を仕掛けてくる。お母さんの周りから氷の棘の様なものが無数に出てきて、私にめがけて突っ込んでくる。強度が同レベルのため、私の炎で周囲を覆っても完全防御とは言えない。いつ、破られるかわかったものじゃない。
「!?」
お母さんは突然目の前に現れた。瞬間移動? でも少し違うような…どういう手段を取ったのかはわからないけど、お母さんが炎で囲まれているはずのここに現れたのは事実。
「フフーン、かぁらんちゃんとは、経験が違うからね~あんなことや、こ~んなこともいっぱいしたし? カランちゃんに劣るほどお母さんはのんびりしてないよ!」
驚いた私を見て、やたらと嬉しそうなお母さん。
「私ね、子育て上手じゃないからカランちゃんがお利口さんに育ってうれしかったけど……今はこういう場所だから、ちょっと痛い思いしてもらうね? 私が優勝したら…フフ、家族で長期旅行。ウフフ、とっても楽しみ。」
シエルの自分の欲望まみれな願いよりも…かなり綺麗な願いで良かったと思ったが、そんなに長い間どこに行くんだろう…とも思ってしまった。
「私、体術も出来るんだよ? シエルみたいにあんなアクロバティックな動き出来ないけどね。」
「……」
お母さんがそういうことが出来るのなら…私の方が不利か、私の身体能力的には常人よりもかなり優れていて強い方だと思うけど、何ならかの体術、拳法といった奥義とかそういうの持っている人には勝てないと思う。心得が少しでもお母さんにあるならただ殴ったり蹴ったり投げたりするだけじゃ勝てない…
「ふぅん……」
「どうしたの? 怖くなっちゃった? いいんだよ? 私、とっても強いからね!」
ミレイちゃんの言動の大半はお母さんの真似…とってもミレイちゃんとお母さんの言動が似ていて笑ってしまいそうになった。
「でも、お母さん……この範囲内は私の領域と言っても過言じゃないわ。」
周囲を覆っている炎がお母さんにめがけて突き刺すように攻撃を始める。
「カランちゃんの方こそわかってないよ! なんて言ったって私、凍らせなれないのはリョウの熱ぐらいだけだからね!」
お母さんはそういって炎を握りそこから凍らせていく。私の炎は温度は自由自在に操れるが…お母さんの氷は熱では溶かせない。壊すのは出来るだろうが、強烈に堅い。私の炎も同じ強度だが、外から覆われたら……
「だから言ったでしょ? 私の方が経験豊富って」
お母さんは首をかしげながら言った。その後はゆっくりと私の方に近づいて来た。徐々にお母さんの方が有利な地形に変えながら…お母さんが進んでくるとお母さんの足もとから凍り始める。周囲を覆っていた炎はいつの間にかお母さんの氷におおわれてしまっているし…自分で逃げ場をなくしてしまった。
「妙に冷えてきたね……こんなに早く冷えるわけないんだけどなぁ…」
お母さんは周囲の変化にすぐに気が付いた。
「そっか、リョウと私の子供なんだもんね。ミレイちゃんが私とリョウの身体強化系の能力をくっ付けたみたいな能力なわけなんだから、私とリョウの熱の操作系の能力をくっつけたみたいなのをカランちゃんがもってるのね。そっか……お母さんと同じ、マイナスの熱操作もできるんだね。」
「壊れない氷の秘密?」
「それは、違うよ。壊れることはそうそう無いし、熱で壊すのは出来ないけど……そうだね、壊れないのはそれだけ私が頑張ってるからかな? カンナちゃんは私の氷の特性をその炎に持ってるんでしょ? 炎と氷が混ざったみたいで好きよ、私は!」
お母さんは手に青白い炎を灯しながら喋る、混ざったみたいで好きよと言った時にお母さんは両手に氷と炎をそれぞれだし、それをパチンと合掌するかのように合わせた。そして……
「私にも、出来るのよ? 固有魔法程柔軟な動きは出来ないけど、私とリョウはそういった才能がとっても凄いの! 頭が柔軟だろうね。想像力豊かって言った方がいいのかな? だから、こういうこともいっぱい! やりたい放題出来るのよ!」
お母さんは片手を上に上げ、そこから竜の様な炎でできた何かで、壊せないと豪語していた、自分の氷をいともたやすく壊しだした。
「どう? 龍も自由に作れるのよ!」
あとはねー、うん、鳳凰! などと言ってお母さんは巨大な、美しい鳥。炎を纏った神鳥を作り出し、カランちゃんに突撃! などと言うと私に向かって2体が突っ込んできた。
「……お母さんがそういう魔法を使ってくれたから助かった。」
エルが5年近く昔にブラックホールという魔法を教えてくれた…エルが言うには、物体系の魔法であれば理論上全部破壊可能です! ただし…扱いには注意が必要ですよ! などと言ってたけど…本当に出来るんだ。お母さんの作った竜と鳥はブラックホールの中に飲み込まれた。
「あ! うーん…カランちゃん意外と魔法沢山出来るんだ。文豪少女のわりに…」
お母さんは魔法戦では時間がかかると踏んだのかいきなり、カランちゃん覚悟! と言って突進してきた。
「私の必殺技よ!」
お母さんは私の眼の前で突然、7,8mぐらいの高さまで跳躍した。踵落とし、先程のエーアイが使っていたわざと似ているが、お母さんの上に上げた足に角度が付いている。エーアイは垂直に落としていたが、お母さんは若干斜めに落とすのか…
「あ、あぶな…」
2歩ほど引いたらお母さんの踵落としからは当たらずに済んだ。
「あ! 避けちゃダメ!」
「避けないと危ないよ……」
「もう!」
お母さんはさっさと次の攻撃にうつる。
回し蹴り、平手打ち、ローキック、ハイキック、色々な攻撃パターンで私をじわりじわりと追い詰めてくる。
「フフーン、かぁらんちゃんもまだまだだね! 子供に負ける程私は、お子様じゃないよ!」
「お子さま関係ない・・・」
「いいの!」
お母さんに変な口出しはしないほうが良さそうだ……危ない。
「隙あり!」
「ッ!?」
まさか、反則じみたことはしないだろうと思っていたけど……してきた。お母さんはカンチョーをしてきた。お尻が痛い。
「フフン! お尻がら空きよ!」
「お母さん、アイドルなのにヒドイ!」
「誰にも見られてないんだからいいのよ!」
確かに…ここは私のさっきの炎の残りが邪魔で誰にも見られてないだろうけど……ちょっとからかって仕返ししてやる。
「グスン、お母さんのせいで、お尻の穴が2つになっちゃった…グスン。」
「え!? えと…お母さんね、カランちゃんちょっと緊張してるから笑わしてあげようと思ってふざけただけなの…ごめんね? こんなことするつもりじゃなかったんだけど…」
お母さんはおろおろと私の傍まで寄ってきた。可愛いからあのくらい許してあげるけど……痛かったからなぁ~フフン、ここでちょっと痛い目見てもらおうかな?
「エイ! 私のお尻にあんなことした罰だよ! そもそも、お尻に穴が増えるわけないでしょ? バカだなぁお母さんは……だから、子供っぽいって言われるんだよ?」
お母さんの頭にチョップ! ちょっと痛いだろうけどお尻にカンチョーも痛いんだからね! と思ってたらお母さんが倒れた……気絶? あれ……思ってたよりもお母さんの防御力って低い・・・…?
「おーっと! 再び姿が見えたかと思えば! カランお嬢様の強烈なチョップ! これにはたまらずマスターもノックアウト!」
えと……
「お母さんごめんね? お母さん意外と打たれ弱かったんだね。知らなかった……」
まさかの展開だったけど……ごめんね、お母さん。




