852 事情
今回サクラ
「見てこれ! こうやって、写真で見るとうちの胸あるなぁ…そう思うやろ?」
「はぁ…確かに、周りのご友人様や、ミズキお嬢様と比べれば、発育はとても進んでおられるようで。」
自分の水着姿の写真を撮ってもらっていたのでそれを今、ホワイトに見せたりして、軽く自慢している。確かに、我ながら中々の魅力的な体になってると思う。水着で何割か増してるだけかもしれへんけど、それでも、少しは体の方は成長しているらしい。それでも、いま目の前にいるこの人と比べたらまだまだやろうけどな。胸もうちよりでかいし…毛も生えてるんかな? それとも手入れしてるんか…
「どうかされましたか? とてもお悩みな顔をしておりますが…」
「いいや、別になんでもないよ。それにしても、羨ましいぐらいの体つきやなって思っただけや。」
「女性の方が好みでしたか? 意外ですが…」
「違う、違う! 羨ましいって話な? わかるか?」
「申し訳ございません、私の勘違いでございました。」
「まぁ、わかればええよ…」
変な勘違いされて、ミレイとか、あの辺の連中と一緒にされるところやったわ…
「あ、見つけた。」
「ヒッ!」
うちと、ホワイトの間に槍が物凄い速度で飛んできて、壁に突き刺さった。思わず、変な声をうちは上げてしまった。その槍も、ガラスのように透き通っていて、宝石のようにキラキラと光を反射させている…だが、地味に漂う冷気…これは、この槍は、氷でできているのか…形も形で、造形美とでもいえばええのか、とても美しく、装飾用の槍と大差ない…いいや、装飾用のやつよりももっと、ずっと、ものすごく、美しい。まさに、美を追求した形状をしている。そんな槍を、いいとも簡単に投げたりするのは1人しかおらん。コチョウ姉か…いきなり、投げてくるあたり何か気にくわないことでもあったんやろうな。それでも、娘集団に攻撃したのは割と初めてな気がするな…
「……コチョウ様、これはどういうお考えなのでしょうか?」
「私、すっごく怒ってるのよ!」
「いえ、そういう意味の質問ではありません。何を考えてこれを放たれたのか…という質問を私はしたつもりでしたが…」
「ふぅ~ん…当てるつもりは無かったけど……」
コチョウ姉と目が合った。元々、T字路の様な通路で喋っていたため、コチョウ姉の場所からはうちの姿が見えへんかったんか…コチョウ姉はとても焦った表情で、うちのところに駆け寄ってきた。
「サクラちゃん! ごめんね! 怪我とかしてない? はぁ…よかった。ごめんね、怖かったね。危ないから、もう少し離れてくれると助かるんだけど…」
「え? うん…わかった。」
コチョウ姉に言われた通り、少しだけ離れた。そのまま部屋に帰ればよかったんかもしれへんが…何が起きてるのかは興味ある。だからこそ、離れずに何が起きているのかを見続けている。
「…私が怪我で済むのでしたら構いませんが、お嬢様を怪我をさせたとなると、いくらコチョウ様でも、おとがめなしというわけにはならないでしょう。今回は運よく一大事には至らないで済みましたが」
「違うよ…計算じゃ、あなたが弾く予定だったんですもの。近くにサクラちゃんがいたから一歩引いただけにしたんでしょ。」
なにやら、険悪なムード…今から、何をしようというのかはわからないが、喧嘩…もう少し喧嘩よりも上のことをするつもりらしい。
「それは、コチョウ様の勘違いでは?」
「あなた、私が来てたの知ってたんでしょ? あなたと喋る人なんて、メイドかベラドンナくらいかなって思ってたから迷わず攻撃したけど。まさか、サクラちゃんと喋ってるなんてね…面識はないかと思ってたのに。」
「先程までは、なかったと思いますが、サクラお嬢様の方から私にお声がけしていただきました。」
ラミアの母さんと思ってしゃべりかけてんけどな…出産終わったん? え? 違う? なにが? 別人…ふぅ~ん、そうか…まぁええわ、それよりもこれ見てや! ッテな感じで、うちの自慢話を始めてんな…
「あなた、シエルをイジメてるんでしょ? どういうつもりなのか教えてくれる?」
コチョウ姉の方が5…いや、8cm位小さいが、下から少し見上げる程度で、ホワイトを睨んでいるんだろう。うちからは、コチョウ姉は完全に後姿しか見えないが、ホワイトに物凄く近づいている。
「イジメ? 私は何もしておりませんが…」
「嘘! シエル、とっても悲しでたわ! それよりも、あなたがやったって言ったもの! シエルが、リョウに近づいただけで、どっかいけって、厄介払いしてたんですってね!」
「確かに、ご主人様に喋っているところを何度も妨害いたしましたが…ご主人様が変な気を起こさないように、私が少し、出過ぎた真似とは思いましたが、シエル様に嫌味を言って、どこかに行くように仕向けたのは隠しようもない事実です。ご主人様に嫌われるのも致しかない事と割り切ってやっておりました。」
「…そんなに、リョウに近づいて欲しくなかった理由は何?」
「シエル様だったからではなく、誰であろうと私はそうしていたと思います。ベラドンナであれ、リリアナ様だったとしても。ご主人様に誰かが近づくことを許容できませんでしたから。」
「どうしてよ、リョウは別にシエルの旦那でもあるんだから、いいじゃない。それこそ、あなたの所有物でもなければ、旦那でもないわ。あなたの昔の話では、旦那だったのかもしれないけど。今のリョウとは関係ないわ。」
コチョウ姉は普段のアホっぽい仕草は一切なく、ただただ、下からホワイトを見つめている。今にも何か手を出しかねないような雰囲気だが…
「確かに、コチョウ様の仰る通り、私はご主人様からすれば、タダのメイドか、それ以下の存在でしょう。ですが、それはご主人様からの主観で合って、私からすれば」
「そういうことじゃないの…どういうつもりなのかを聞きたいの。言い訳は要らないわ。」
コチョウ姉は相手の会話を遮って、自分の意見を主張し続ける。
「…わかりました。エーアイが妊娠しているにもかかわらず、ご主人様はベラドンナとお戯れしておりました。私には、どうしても許容できませんでしたので、ご主人様に一度、言わさせていただきました。ご主人様はわかったと、仰りましたが、私は信用できませんでしたので、とにかく、ご主人様に近づいてくる異性に対して追い払うような行動を取っておりました。これでよろしかったでしょうか?」
簡単にかみ砕いて説明していたのか、うちにも理解できた。そういうことはあんまりないかと思ってたが、案外あるもんやねんな…女のドロドロの感情ってやつが。変な女が近づかないようにしていたということだろうか…それとも、父さんがそういった行いをしないようにする為か…確かに、一度そういうことをしているのを知っているのであれば、信用しきるのは難しいやろうな…
「わかったわ、そういうことにしておいてあげるけど…ならどうしてそういった態度でシエルの事追い払ったの? 事情説明すれば、シエルなら直ぐに帰っていったと思うんだけど? シエルは臆病で、ビビりの泣き虫、ネガティブ野郎だから…」
シエルの事無茶苦茶言うな…てか、自分もめっさ、喧嘩しまくっとったやん…シエルの可愛らしい顔に傷つけてさ…治るのでいくらでもされて構いませんとかシエル言ってたけど、鏡見た時落ち込んどったで…
「そういった態度をとったのは…少し私の自意識過剰が原因と言いましょうか。」
「なによ、それ。」
「ご主人様にチラチラとみられるのが気になりましたので…」
「ふぅ~ん…自分が、リョウに好かれてるって思ったから? どうしたら、シエルにそんな態度をとろうと思うの?」
「私の評価を落とすのと同時に、シエル様のことを失礼ながら、可哀想と思っていただくことでご主人様の中での私の評価を落とし、シエル様の事少しでもっ良く思っていただくのには最善の手だと思いましたので。」
「思ったじゃなくて、そういう計算だったんでしょ? あなたの場合は、演算? どっちでもいいわ、でも、そんなことしたなら一言謝っておくべきだったんじゃないの?」
「そうですね…ですが、そこで謝罪をしてしまいますと、シエル様はきっと、私が本音で言っているとは思われず、今とは違った対応をされていて、また違った結末になっていたかと…」
「そ、そうかもしれないわ。でも、終わってからでもいいから謝っておくべきだとは思わないの?」
「それは思います。ですので、今はエーアイがご主人様を連れて帰って来たので、私はシエル様の所に伺うところでした。」
マジか…なんか、うちが悪いことしたみたいな感じになってない? 大丈夫? うちが引き止めたってことやろ? これ…
「…そう、それでサクラちゃんに呼び止められて喋っていたのね。そうね、メイドだものね…お嬢様のいうことはある程度聞かなければならないのよね。」
「……」
コチョウ姉はチラッとこっちを見たが、恐らく下からホワイトの顔を見ていた時とは全く別の表情でこちらを見ていた。どう考えても、あの可愛らしい顔が人を睨んでも怖くはない・・・可愛らしい顔のままなのでは? だから、さっきからやたらとデカい態度とビッグマウスなのか…
「それで今に至ると…いいわ、信じてあげる。あなたの事だから、全部計算の内ってこともあり得そうだけど…それはそれでいいわ。私、あなたの事なんて、なんとも思ってないもの。ベラドンナには感謝はしてるけどね。なら、シエルの所に行ったら? ミズキちゃんの誤解も解けたから私シエルの部屋から出てきたところだったから、早くしないと、シエル、ミズキちゃんミズキちゃんって親バカこじらせるわよ。」
「承知しました。」
ホワイトは急ぎ足で、シエルの部屋の方に向かっていった。
「……サクラちゃんには変な姿見せちゃったね。」
「? あーうん、意外な一面見れた。コチョウ姉があんなんいうねんね。」
「まぁ…本当は軽く睨まれて怖くておしっこちびりそうだったけど……大丈夫だったよ!」
うわー、本音なのかはわからんけど、虚勢やったのは事実かー
「…? どうしたん?」
「いや…リョウに会いたいかなーって思っただけ。何でもないよ? ミレイちゃんどこ二いるのか知らない? いつもだったら、おかあしゃん! ミレイ、しゅっごくまってたヨ! きょうね! ミレイ、らみあおねーちゃんと、かんなおねーちゃんがあそんでくれたヨ! たのしかったヨ! とか言って走ってくるのに、今日は全然いないんだもん…私ちょっと寂しい。」
「う~ん…あ、リリアナの屋敷に遊びに行ってるらしいで…あ、近くまで来てるみたいやわ。声聞こえるし? ざわざわがうるさいなって思ったけど、また母さんが何かやらかしてるらしい…」
「あれ…ここ窓とかないよね? どうして、そんな外の状況わかるの? 館内なら、ざわざわし始めたら響いてくるからわかるんだけど…全くしてないよね?」
「一応ハーフやからな…多少は五感優れててもおかしくないやろ?」
「な、なるほど…」
ハーフエルフってだけで、成長も早くて、五感も優れていて…エルフという高位種族とのハーフだからこそなのか…




