832 修学旅行前日
今回サクラ
「修学旅行行くらしいんねんけど…4泊5日。」
「その間留守にするんじゃな。」
「留守って…まぁそうやけど。」
「5日…6日分ぐらいの下着は用意しておいた方がいいじゃろうな。後は…服は私服か? それなら、5日分、荷物を減らしたければ…お前は空間収納出来たか? 出来るのなら話は早いんじゃが…」
「空間収納何それ。」
「これじゃ。」
母さんは空間に穴の様なものを開いてその中に手を突っ込んだ。
「こんな感じのやつじゃな。まぁ、見た感じ持ってなさそうじゃな。」
「そりゃな…」
母さんは中から飲み物を取り出してぽいっとゴミ箱に捨てた。
「賞味期限切れじゃな…いくらかまだあるようじゃな。欲張って損した気分じゃ…」
「ガッツリ損してるから…」
「ムム? まぁいいじゃろ…今度整理整頓しないといけないようじゃ。」
母さんは小さくため息をついた。片付けをするのが面倒になる程なのか…
「着替えをかさばらないようにしたいのなら、3着を着回すのじゃな。」
「汚ない?」
「大丈夫じゃ、その位あれば十分じゃよ。制服じゃなくていいんじゃろ? なら、それで大丈夫じゃ。」
「ふ~ん…妙に詳しいけどなんでなん?」
「母さんも昔は学生だっただけじゃよ。」
「そうなんや。」
「カランとは同じ学年じゃったな。」
「ん??? 母さんと姉さんが?」
「そうじゃな…リリアナは見た目若いから問題ないじゃろ? それで学園に行ってたのじゃよ。最も、お前とは違い、全て1位を取り続けておったがな。お前も常にトップに立ち続けるべきなんじゃよ。」
「そりゃその方がいいやろうけどさ……無理があるやん? うち、母さん程の優れた人ちゃうし。」
「謙虚じゃな~、優れてるんじゃよ、リリアナの子じゃぞ? 優れていないわけがないじゃろ?」
「なんていう理不尽! 傲慢やん!」
「そうじゃな…それがあったのを忘れてたのじゃ、じゃが、あれは生意気になるのが問題なんじゃよ。」
「何の話してるかわからんけど、手伝ってくれるんやんな。」
「ヴァルキリアにでも頼めばいいじゃろ。」
名前地味に違うような気もするけど…ヴァルキリーじゃなかった? あんまグチグチ言うと母さん気悪くするしな…そっちでええか、顔も母さんから離れてきたし、美形のままやけどな。
「何で家のことまで任せんとアカンねん…それに、あれは母さんがどっかやったやん。」
「妖精界に連れて行っただけじゃ…流石に妖精には技としなかったのじゃがな。鍛錬していると思うのじゃ、真面目そうなやつじゃったからな。全く、いくら母親が美人じゃからって、リリアナそっくりにする必要はないじゃろうに…」
「母さんじゃなくて、あっちで今コーヒー飲んでる方な? 母さんは…なんていうか、可愛らしいような感じもまだあるし…」
「リリアナは美人じゃろ? 美少女までなら許してやるのじゃ。」
「どういうこっちゃ…」
母さんはかなりの…それも絶世の美少女なのは確かだが、何もそこまで自慢げに言わんでもええやろ…嫌味に聞こえるし。
「しかし、双子ちゃんは静かすぎて困ったものじゃ…お前の時はしょっちゅう泣いておったのにな。おかげで、育てるのが大変じゃったのじゃぞ?」
「へぇ~……そうやったんや。」
「どうじゃ? 母さんは凄いと思ったじゃろ?」
「いや、自分の子供を育てるのは当然じゃない?」
「……それはそうじゃが、サクラはリリアナで良かったか? ちゃんと育てられておるか?」
「いきなり、ネガネガしてどうしたん? いつも自信満々やのに…」
いつも母さんは自信満々、自分のことを絶対に間違えていないと思いこんでいるのかと思う程に、ガンガン突っ走てるような感じの人だ。そんな母さんが、珍しくネガネガし始めた。
「リリアナは母親の情を理解できておらんからな…母親の顔なんてとっくの昔に忘れた位じゃ。死んだやつのことをウジウジ言うつもりは無いが…せめて、子供の育て方位は教えてほしかったものじゃ。」
「うちがこうしてるんがその結果じゃないん?」
「そうじゃな、お前がリリアナのことを嫌うはずが無いのじゃ! 当然じゃな、なにせお前はリリアナの子供なんじゃからな!」
「うわぁ…急に手のひら返し。いつも通りに戻った…」
「なんじゃ? 不満か?」
「いや、不満じゃないけどな……」
奥でさっきからコーヒー飲みながらこっちを見てくる大きい母さん…紛らわしいから呼び方変えていいかどうか聞くといつも、お母さんかママ、お姉さんと呼びなさいとしか言わない。なんて呼ぶのが正解なんや…
「まぁ、準備はこれで良しじゃな! 明日じゃったな?」
「うん、まぁ…明日やな。」
「もっと、早くに言うべきじゃったんじゃぞ? 連絡の手紙とか出てたじゃろ?」
「父さんに見せたで?」
「ム……そういえば、部屋の掲示板に何か張っておったな…」
母さんはそういって、コルク板の掲示板のあるリビングの壁の方に歩いて行き、一枚の紙をもって帰ってきた。
「ムムムム……リョウが持ってきておったのか、紛らわしいのじゃ。まぁ、今回はリリアナに非があったようじゃが、次は母さんに持ってくるんじゃぞ? 約束じゃからな?」
「わかった。」
「……そういえば、クラブとか言って入ったとか言っておったな。」
「作ったに近いけどな。」
「そうかそうか…」
「肝心な話なんやけどな…空中競技やのに、うちとアヤメ飛べへんねん…まぁ、魔道具の一種で飛べるっちゃ飛べるんやけどな…自力で飛んだ方が効率いいやん? だから、母さん飛び方教えて。」
「もう、夜遅いのじゃ…空を飛ぶ方法だけは教えてやれんこともないのじゃが…あいつに聞いたほうがわかり易いと思うのじゃ。アイツ、先生気取りじゃからな。」
母さんはそういって、メイドと談笑しながらコーヒーを飲んでいる母さんの方を指さす。
「リリアナは、もう寝るのじゃ…双子ちゃんも寝たようじゃしな。」
「おやすみ。ありがとう。」
「うむ。おやすみじゃ。」
母さんは大きなあくびをした後、お前も早く寝るんじゃぞと言って双子ちゃんの寝ている寝室に向かっていった。
「なぁ、ちょっといい?」
「大丈夫よ、話もちょうど落ちが付いたところだったからね。聞いてたわよ? 飛び方を教わりたいんだってね。簡単よ、飛ぶコツは…そうね、イメージが重要よ。どのくらい速く飛びたいのか、どのような感じで飛びたいのか…ってね。リリアナちゃんは、昔は羽を生やして飛んでたわ。今は羽なしで飛んでるみたいだけどね。」
「羽?」
「妖精化って能力でね、サクラちゃんも出来る筈なんだけど…どう?」
「あー…できんこともないけど、物凄く疲れんで?」
「魔力で羽を作るんですもの、そりゃ大変でしょうよ…リリアナちゃんの場合は察してくれる?」
「うん…」
母さんは魔力えげつない量あるってことね…許容オーバーなんてしないじゃろと言ってたぐらいやしな。
「それで、普通に飛ぶ方法だけど…基本は魔力を使って飛ぶ感じね。魔力を推進力に変える感じで。その方法でリリアナちゃんは飛んでるわ。速度に関しては魔力が物を言うから…リリアナちゃん程の速度は出ないと思うわ、元々リリアナちゃん化け物じみた速度で動けるから、更に速く動けるようになるのよ…長距離をね。」
「母さんって素で速いってことなん?」
「サクラちゃんも随分と速いみたいだけど、比べ物にならないわよ? 目視不可の速度だから…」
「目視不可? 目に見えへんってことやんな!?」
「ええ、気が付いたら後ろから回し蹴りが飛んでくるもの…とっても痛かったわ。」
「母さんらの戦闘の話を聞きたいわけじゃないんやけど…」
「おっと、話が脱線してたわね。簡単に飛ぶ方法は魔力を推進力に変換するのよ。これが最も、簡単な方法ね。エルに聞けば、推進力について詳しく教えてくれると思うわ。エルはそういうの得意だったはずだからね。」
「エルか…わかった、明日の朝一にでも聞いてみるわ。」
「そう。じゃあ、そろそろサクラちゃんは寝ないとね? 明日朝早いでしょ?」
「そうやな…じゃあおやすみ。」
「おやすみ、サクラちゃん。」
小さく手を振っていたが、席から立つ気配はない・・・まだ寝る気はないのかこの人は。




