802 ホワイト
今回ラミア
最近は、夕食の時間でも、まだ暗い。後、1,2カ月もすれば、夕食の時間も明るくなってくるだろう。私は、部屋に帰ろうと廊下を1人で歩いていると、声が聞こえた。女の人とお父さんの声だ。
「それじゃあ、夕食まで少しだけゆっくりするから…」
「はい。」
お母さんがオシャレをしていて、全く気付かなかったが、お母さんだ。ここからでも、たまにキラッと耳元が輝いて見えるので、耳飾りでも付けているのだろうか?
「…わざわざ、ここまで来てくれてありがと。」
「ご主人様のメイドでございますので。」
「そうだね。」
たまに見かける光景かと、帰ってお母さんでも待っておこうかとその場を立ち去ろうと思ったその時、お母さんが動いた。ドアノブに手を掛けドアをお父さんが開けようとがしたとき、お母さんが後ろから抱き着いた。私は、サクラ姉さん程、耳は良くないが、耳はいい方ではある。ここからでも十分すぎるほどにお母さんが言っていることが聞こえてくる。
「あ…あの、ご迷惑でしたよね。」
「え? そんなことないよ?」
お父さんは、抱き着いているお母さんの腕をさすりながら答えた。お父さんはとても、緊張でもしているのか、少しだけ落ち着きがない。まるで、お母さんが何を言おうとしているのか知っているようにも見える。
「……好きです。」
「ん?」
「ご主人様のことが好きです、大好きです。愛しております。」
「えっと、俺もだよ?」
「…ご主人様のことを、異性として、1人の男性としてでございます。」
「嬉しいけど…いきなりだね。」
「そうですね、私はあまり感情的にはなれなかったので、色々と抑えて初めてご主人様のことを…こんなことを言う私のことはお嫌いでございますか?」
「そんなことないよ。」
お母さんは、お父さんに告白した。私は、お父さんがお母さんに発情して…とか、お父さんの性処理でとか、私の出生でいい噂は聞いたことがない。だから、お母さんに恥をかかせないような立派な人になろうと思っていたのだが、実はお母さんはお父さんのことを心の底から愛していたのか…私は他の姉妹達となんら変わりないということだろうか。
「…あ、あの、ご主人様?」
「なに?」
お母さんは一度お父さんから離れてから再び近づき今度はお父さんを呼び振り向かせた。お母さんは少しだけヒールのある靴を履いていて、お父さんと同じぐらいの背丈になっていた。
「…少しだけ、我慢して頂けますか?」
お母さんはその後、お父さんの返事を聞かずに口付けをした。30~40秒ほどの短い時間だが、お母さんはお父さんの舌と絡め合わせようとしていたと思う。でも、途中でやめて、少し離れた。
「……あの、す………少しだけ、整理させてください。」
「ダメって言ったらどうするの?」
「それは……ご主人様のされるがままに。」
「……エーアイがかなり積極的で、少し驚いてるんだけど。」
「ご迷惑…でございましたよね。二度とこのような真似は致しませんので…どうかご内密にしていただけませんか?」
「どうしよっかな~」
「……」
お母さんは、顔を赤くしてもじもじしている…困ってるわけじゃないのか? どういう状況なのだろう? お母さんは、お父さんに告白してキスして、このことを誰にも言わないでほしいとお願いしたら、お父さんが、意地悪してきているという判断で間違っていないかな…
「……」
「あ、あの…」
「今日一日でエーアイに骨抜きにされちゃったかも…」
「それはどういう…」
「あまりこんなこと言うと、女たらしって言われそうなんだけど…」
お父さんはお母さんを引寄せた。それと同時に視界が真っ暗になった。
「!?」
「シィー」
お母さん? お母さんがなぜか…ホワイトという、お母さんそっくりの人かな?
「ラミアちゃんがまだ見るには少し早すぎます。でも、エーアイはこれまでにない程に興奮しているみたいですね。あの子も罪な女になったのね…ご主人様を誘惑するなんてね。」
「…お母さんが誘惑したの?」
「最初から見てたんでしょ? さっきの態度から見ると、ご主人様もあながち…取りあえず、子供が見ていいものではありません。」
「お母さんは?」
「私が代わりにしますので、ご安心下さい。」
「…お母さんよりも、お母さんみたい。」
「これでも、2児を育てましたからね。子育ては2度ほど経験済みです。」
「子供は元気なの?」
「元気でしたね…」
一瞬だけ、寂しそうな顔をお母さんは…違った、そっくりのメイドさんはした。聞かないほうがいいこともあるんだとお父さんが言ってたし、聞かないでおこう。
「ふーん…」
私は一度だけ、チラッとお母さんの方を見たが、既に二人の姿はなかった。
「どうやら、お母様は夕食は要らないみたいですね。」
「どうして?」
「大人の事情です。まぁ、エーアイは料理は出来るので大丈夫でしょう。」
「あの…なんてお呼びすればよろしいでしょうか?」
「…本当にエーアイにそっくりですね。」
「え?」
「いえ、お気になさらずに。」
「……」
他のメイドさんとは違い、大体真っ白なメイド服を身に着けていて、いつも落ち着いた印象がある。やたらとお母さんに絡んでくるのも気になる。
「…ちょっと前まで私の前に現れなかったのに、どうして最近出てくるようになったの?」
「…エーアイ、あなたの母親が危なっかしくなったからとでも言っておきます。」
「本当は違うの?」
「知る必要はありません。」
他のメイド達とは違って、妙に私に対しても馴れ馴れしい。お嬢様とも、ラミア様でもない…ラミアちゃんとさっき呼んだぐらいだし…ちゃん付けで私を呼ぶのは、コチョウお姉さんぐらいなのに。
「気を悪くされたのでしたら、謝りますが…私は貴方のことをずっと見てましたから、娘の様にも思ってますので、少々失礼な態度を多くとってしまいます。」
心でも読めるのか、この人は私の考えていることに対して答えた。
「顔に出てるんですよ。あなた達親子は非常に似てますね、見た目は瓜二つでサイズの差程度しか見分けがつかない程です。」
「…お母さんが小さい時から知ってるの?」
「あなたの母親に小さかった時はありません。強いて言えば、今が通常の人で言うところの思春期に当たりますね。」
「お母さんが?」
「現状をあなたは理解しているのではなかったのですか?」
「……うん。」
「この話はこのくらいにしておきましょうか。」
…少し胡散臭いが、私がどうこう言っても何か変わるわけでもないし、大人しくこの人のいうことを聞いていた方が賢い。歩いてるだけでも、歩き方が完璧…この人の方こそ、お母さんと瓜二つではないか…背丈も、歩き方や、小さな素振りとか、顔や体形も外見や行動の1つ1つまで、そっくりだ。
「どうかされましたか? 少し怖い顔をされてますが。」
「何もない・・・」
「そうですか? あなたは母親と違って感情が非常に豊かなのですね。」
「さっきから、お母さんの事バカにしてるの?」
相手に不快を与えないように気を付けながら、一応聞いてみた。
「そうですね……少し違いますが、非常に近いです。随分と母親想いなのですね。私の子供は私に対してそんな風には思ってなかったでしょう。母親という認識程度でしたからね。最も、その孫、曾孫に仕えたりするような奴のことはどうでも良かったのでしょうね。」
「……」
この人の過去を知るつもりは無いし、今後も探ろうとは思ないが……この人は過去に相当なことがあったのだろう。自分にそっくりなお母さんを見て、自分を見てるようで可愛らしく、なんという表現をしたらいいのかわからないが、近くで見ていたいという感情が強く出ているような気がする。
「あなたには、関係のない話でしたね。夕食は他のメイドが呼びに来ると思いますので、それまで部屋でくつろいでいるといいでしょう。」
「勉強する…」
「……よろしければ、私が見ましょうか?」
「どうして?」
「いえ…これといった理由はありませんが。」
「ラーシャがいるから、要らない。」
「そうですか…」
お母さんが勉強見ると言った時に断った時と同じような表情をした。
「お部屋の前までついて来てくれてありがとう。」
「いえ、こちらの方こそ、私の話を聞いてくださりありがとうございます。」
部屋に入ろうとドアを開けて一歩程進んだが、他のメイドさんとは違う表情で私を見ている。あの見た目でそんな表情をされると、お母さんに悪いことをしているみたいでなんだか気分が悪い…
「…入っていいよ?」
「私がすることはなさそうですが。」
ラーシャ達が綺麗にした部屋を見て彼女は言った。
「私に勉強を教えるのがある。」
「……私のことが気になられたのですか?」
「そんなんじゃないけど…」
「やはり似た親子ですね。」
私は、中途半端な言葉遣いで話されるのが一番気になるのだが…私に何か特別な感情を持っているのは確かだが、どうしてだろう。




