小夜物語such a small tales in long nights 第22話 森の家の少女 The girl of the house in woods
人生というもの、、、
短い夢の様なものですよね?
優しいお母さんのおっぱいを吸ってまどろんでいた幼児の頃
それもあっという間に過ぎ去って、、
気が付けば冷たい世間の荒波に放り出されていたっけが、、
でもそれだって
過ぎ去ってみれば
みんな夢の中、、、
思い起こせばきりもない。
ああ懐かしい少年時代よ。
私の生まれたのは敗戦後間もないころ、
産まれた場所は、、都から遠い山村僻地だった。
そこは「開墾地」と通称されていたっけ。
直ぐ近くには森が迫り
山肌がまじかに見える、
まったくの山村。
しかも終戦後間もないころ、
私の家はそこで水の便も悪く放置されてきた
この開墾地で畑作農家だった。
私の祖父がここへ開拓農民として入り
父もその跡を受けて細々と畑作をしていた。
この地は、、水が出ないのです。
川もなく、、もちろん用水路なんかあるはずもないです。
井戸を掘っても水脈が無いので、、出ません。
まあ
そうだからこそここは誰も耕作しようとせずに長年放置されてきたわけですが、、、。
稲作ができないって、、当時では致命的な欠陥ですよね。
今なら、まあ、高原野菜とか、、花栽培とか、、方法はいくらでもあるでしょうが
昭和20年代ですよ。
稲作以外は、ありえませんものね?
さてそんな僻地山村の私の家は
もうすぐ森が迫っている
森はずれにありました。
家のすぐ後ろに大きな栗の木があって
秋にはそれを取って、
生栗をそのままがぶりと食べるのが楽しみでしたね。
焼いたり、、茹でたりなんかしません。
生で、渋皮を「肥後の守」(当時の少年の必須アイテムの小刀です)でむいてそのまま食べる、
ああ、あの味、、おいしかったなあ。
私の家のお隣は100メートルも離れた森の縁を廻ったところにありました。
そこは村はずれでそこからさらに下るとぽつぽつと農家が立ち並んでいるのです。
その私の家のお隣り、、といっても相当離れていますが、、
その藁ぶき農家には老人と、、15歳になる孫娘が棲んでいました。
老人は祖父ですが、さてその娘の父母はどうしたのでしょうか?
母に聞いたところによると
なんでも父親は若い時から東京へ出稼ぎに行っていて
母親という人はその東京でどっかの呑み屋?で知り合った女給だそうで
結婚してこの開拓山村に連れてきたそうですね。
でも東京暮らしの女給さんには
あまりにもカルチャーショックが大きすぎたでしょうことは想像に堅くありませんよね。
この娘が生まれて数年して、、
この村に良く行商に来ていた男とできて、ある夜娘を置いて駆け落ち、、夜逃げしてしまったそうです。
私もうっすらとその行商さんを覚えていますがなかなか講釈の旨い男でしたね。
さてそんなわけで嫁に逃げられた男は、、その後、、やけになったのか
ある日、東京に出稼ぎに行ったきりもう二度とこの村には戻っては来ませんでしたね。
そういうわけでお隣さんの藁ぶき農家には祖父と孫娘だけがのこされた、、
というわけです。
でも私の印象に残るこの娘は鄙にもまれな器量よしの少女だったなあ。
母親の血を受け継いだのでしょうか?
なんかあか抜けていて、、
村娘とは違っていました。
私の母はそんなこのお隣さんを何くれとなくお世話してあげていました。
私もついて言ってこの少女と仲良しになったものでしたね。
私は12歳でした。
そして少女は15歳でした。
野原で走り回ったり、花を摘んだり
アケビ狩りにいったり
秋茱萸を食べたり
そんな実に野性的な遊びですよ。
そしていつしかこの少女は12歳の私にとってあこがれの君になっていたのでした。
ところがある日のことです、
その少女がある日急にいなくなってしまったのです。
急にというのは変ですが実は私が夏休みで
東京の叔父の家に2週間も行っていて
そうして帰って来て
お土産を持ってお隣の家に行ってみると
娘の姿がなかったのです。
おじいさんに聴いても私をじろりと見るだけで
話してくれませんし
急いで帰ってきて母に
聞けば
急な見合い話で
遠縁にあたる他県の農家に嫁いで行ったとか、
娘は確かその時16になったばかりだったと思います。
かくして私の初恋はあっけなくも終わりとなり、、、
それも今思えば、、
みんな夢の中、、、
それからまったく音信はなく、、
娘がどうしたのかどうなったのか
私の知るところではなかったですね。
私はその後
勉強に精を出して
何とか大学まで進学して
苦労して卒業はしたけれど
どこも就職先がなく途方に暮れたあの頃、、、
やっと見つけた就職先は遠い見知らぬ他県だった。
仕方なくそこへ就職して
異郷で苦労、苦労で、、辛抱で、、、
でもある日、
気が付けば、、
定年を迎えていたっけ。
振り返れば仕事人生も
みんな夢の中、、、、。
あたりを見回せば、、、
すっかり使い古した自分と
やつれた古女房がいるばかり、、
父も
母も
もう15年前に亡くなってるし、、、、
ああ、
もう自分は、使い終わった人間だよ、
少し動けば目が回るし
心臓はバクバクだし、、、
ああでも
そんな自分のことも
まるで他人事みたいに
思えるもうひとりの?私がいるのさ
そうさ、
この世の
出来事も
みんな夢の中、、、
そうして、、
あの開拓村の少年時代も、、、
森の家の少女の淡い思い出も
みんな
夢の中、、、、。
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