表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

無題(文語詩)

作者: 鱈井元衡

 我ら いまだなき受難(わざはひ)に遇へり


 闇に染まれる天よりは かぼそき一条の光だに見えず


 屍骸(しかばね)(くそ)に満ちたる地には 果てなき恐怖(おそれ)恥辱(はづかしめ) 万物に君臨(のぞ)めり


 我らが敵は甚だ残酷 我らを貶むる者は彼ぞ


 我らが敵なるその驕語(かた)らく

 

「汝らに許されしは屠らるること

 汝ら努力勤勉(ゆめゆめ)抵抗(あらが)ふべからず

 我は汝らの生ける傲慢(かみ)なれば」


 しか言ひて敵は我らが肉体(からだ)姦淫(おか)し 汚歪(けが)し行きぬ


 我が目前(めまへ)なるなんぢよ なんぢはかかる屈辱に耐ゆべしや


 かかる暴君に いかなる(すべ)もなく


 沈黙(もだ)してその身を 奉献(ささ)ぐる外 無しとや言ふ


 泥水をすすりて 裸体(はだか)ながら殺風(かぜ)にしはぶくこの凄惨たるさまを


 愚者の安寧(やすらぎ)に溺れ 賢者の姦計(たばかり)舞踊(おど)らさるる愚劣(をこ)しき光景を


 なんぢは 目をそばめ 眺め視るべきか


 (いな) 我はさだめて許すまじ

 

 万人 我に向かひて

「彼は賢明なり

 彼は暴虐と困窮より我らを救ひ出だせる救世主ぞ

 汝 など彼の者に 従はで (まつろ)はざる」 

 

 と語れど 我ここに(つるぎ)を挙げん


 我はただ おのが道の為 生命(いのち)を失はんとも怖れぬのみ


 諸君 つひに叛逆の時は来たれり


 仮令(たとひ)敵いかに獰猛(たけ)残酷(むご)けれども


 仮令(たとひ)数多(あまた)の血に その身を紅に染めぬれども


 闘へ 今こそ圧政者に刃を向くる時なれ

 

 戦へ 深き悲嘆(かなしみ)は 当たりしものを 絶滅()やす紅蓮の忿怒(いかり)と化りて


 え触れぬ霧の如くなる 空虚(むな)しく深き憎しみは


 総物(すべて)を貫き 凍てつかする 鋭利(するど)き 刃とぞなりぬる


 犯せ 穢せ 壊せ 倒せ


 奴が創造(つく)れる物をば 悉皆(ことごとく)滅ぼすべし


 虚偽(いつはり)栄光(ほまれ)()り 様なき像貌(かたち)を晒すべし


 されど君 忘却(わす)るるなかれ 我らが今 把握(にぎ)れる刃


 必ず 時に我らへ向かふ


 我らのもたらす災禍(わざはひ)は 奴らを辱し ただ腐臭漂ふ地に落とすのみならず


 我らが精神(こころ)も 野獣のごとく 変へぬればなり


 しかる様を 彼ら(ひと)嘲笑(あざわら)ひて曰はく

「視よ まことに彼らは喜びて共食ひする 獣なりけり」

 

 そやつらには疾く知らせよ

 

 之を撃つなかれ 我らの如くならしめよ


 嘲笑ふ者を嘲笑はるる者に 苦しむ者を苦しむる者とせよ

 

 誰しも心が奥底に 狂人(しれもの)たる素質を宿せばな


 我らは はやく狂人にて 智慧(さかしさ)ありと(おのづか)ら錯覚せる野獣なるぞかし

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ