無題(文語詩)
我ら いまだなき受難に遇へり
闇に染まれる天よりは かぼそき一条の光だに見えず
屍骸と糞に満ちたる地には 果てなき恐怖と恥辱 万物に君臨めり
我らが敵は甚だ残酷 我らを貶むる者は彼ぞ
我らが敵なるその驕語らく
「汝らに許されしは屠らるること
汝ら努力勤勉抵抗ふべからず
我は汝らの生ける傲慢なれば」
しか言ひて敵は我らが肉体を姦淫し 汚歪し行きぬ
我が目前なるなんぢよ なんぢはかかる屈辱に耐ゆべしや
かかる暴君に いかなる道もなく
沈黙してその身を 奉献ぐる外 無しとや言ふ
泥水をすすりて 裸体ながら殺風にしはぶくこの凄惨たるさまを
愚者の安寧に溺れ 賢者の姦計に舞踊らさるる愚劣しき光景を
なんぢは 目をそばめ 眺め視るべきか
否 我はさだめて許すまじ
万人 我に向かひて
「彼は賢明なり
彼は暴虐と困窮より我らを救ひ出だせる救世主ぞ
汝 など彼の者に 従はで 順はざる」
と語れど 我ここに剣を挙げん
我はただ おのが道の為 生命を失はんとも怖れぬのみ
諸君 つひに叛逆の時は来たれり
仮令敵いかに獰猛く残酷けれども
仮令数多の血に その身を紅に染めぬれども
闘へ 今こそ圧政者に刃を向くる時なれ
戦へ 深き悲嘆は 当たりしものを 絶滅やす紅蓮の忿怒と化りて
え触れぬ霧の如くなる 空虚しく深き憎しみは
総物を貫き 凍てつかする 鋭利き 刃とぞなりぬる
犯せ 穢せ 壊せ 倒せ
奴が創造れる物をば 悉皆滅ぼすべし
虚偽の栄光を破り 様なき像貌を晒すべし
されど君 忘却るるなかれ 我らが今 把握れる刃
必ず 時に我らへ向かふ
我らのもたらす災禍は 奴らを辱し ただ腐臭漂ふ地に落とすのみならず
我らが精神も 野獣のごとく 変へぬればなり
しかる様を 彼ら嘲笑ひて曰はく
「視よ まことに彼らは喜びて共食ひする 獣なりけり」
そやつらには疾く知らせよ
之を撃つなかれ 我らの如くならしめよ
嘲笑ふ者を嘲笑はるる者に 苦しむ者を苦しむる者とせよ
誰しも心が奥底に 狂人たる素質を宿せばな
我らは はやく狂人にて 智慧ありと自ら錯覚せる野獣なるぞかし