妹なんだが、俺の事が好きすぎて魔王になったらしい
西暦2015年。
世界は平和だ、大した事件も起きずに今日もその安寧を享受している。
もちろんそれを否定する訳ではない。こうやって休日にベッドの上で週刊雑誌を読み耽る事ができるのもひとえに世界が平和なおかげだ。
良くもなく、決して悪くもない。平均的な高校に入学して二年、平凡な一般男子高校生として生きてきた。これからもそうだろう、別にソレが嫌だとは言っていない。
平々凡々、それが俺の生き方だ。
目立たず、主張せずに生きる、それが俺の人生哲学なのだ。
「ああ、人生なんて無情だな………」
一人呟く。この通り俺は人生を悟りきった哲学者となってしまったのだ。
齢17にして世界を理解してしまった俺の心を動かす物はもはや何も無い。俺の心は死んでしまったのだ。
「お兄ちゃん! 魔王がやってきたぞー! おそれおののけー!」
バタンと大きな音を立て、突如少女が部屋に乱入してきた。
俺は感激に打ち震える。結衣ちゃんが部屋にやってきた。そう、結衣ちゃんがやって来てしまったのだ!
短く切りそろえられた黒髪、クリクリとした黒い虹彩が美しい瞳、小さく愛らしい口、天使のものかと錯覚さえするその笑顔。
この美少女オブ美少女こそが我が最愛の妹、"結衣"ちゃんである。
学校から帰宅してそのまま俺の自室に来たのだろうか? 現在中学校一年の結衣ちゃんは可愛らしいと地域でも評判の制服を着ており何故かマントらしき物を羽織っている。
黒に裏地が赤のドラキュラが着るようなタイプだ。
結衣ちゃんは身長150.2cm誤差±0.1cm! 同年代の平均に比べてチンマイその身長にマントのサイズが合わないのか足元がだぶついている。
うん、可愛らしい。
死んだ心が歓喜の声をあげているのが分かる。心の死は天使によって救われたのだ。
今すぐペロペロしたい、できることならペロペロしまくりたい! もちろんクンカクンカもしたいモフモフなんて当然だ!
俺の体中を結衣ちゃんに対する愛と言う名の獣が暴れだす。俺はそれを抑える事に必死だ。結衣ちゃんに嫌われてはいけない、兄としての威厳が必要なのだ!
でも結衣ちゃんをペロペロできるなら嫌われてもいいかな? そんな悪魔の囁きに全力で抗いながら普段見せる優しい兄の仮面で結衣ちゃんに話しかける。
「やけに可愛らしい魔王様だね、そのマント似合っているよ。でも結衣ちゃんそんな物どうしたの?」
「わーい! ありがとう、お兄ちゃん! これは闇のマントなのだー」
結衣ちゃんから元気な返事が帰ってくる。マントを広げるように見せるその姿は正に聖母マリアだ。それが闇のマントだなんてとんでも無い! 俺の邪な心は既に浄化されちゃったんだよ結衣ちゃん!
「さぁ! お兄ちゃん! 魔王結衣様がやってきたぞー! どうするー?」
ビシリッ! こちらを指さした結衣ちゃんが高らかに宣言する。
軍門に降りたい! すぐさま魔王結衣様の軍門に下りたい! ペットです! 俺は結衣ちゃんのペットなんです!
水を得た魚のように暴れだす愛と言う名の獣を全力で抑える作業に戻る。
「結衣ちゃんの軍門に降る」、それは甘美なる極上の蜜だ。俺を誘惑して止まない。
しかし安心しろ結衣ちゃん! 俺は威厳を決して失わない! 結衣ちゃんが尊敬するお兄ちゃんとしての役割を果たして見せる!
俺は心の中で血涙を流しながら愛を駆逐する。そして紡がれるは威厳の言葉。
「結衣ちゃんが魔王ならお兄ちゃんは勇者だな、 勇者お兄ちゃんだぞー」
勇者お兄ちゃん、ここに爆誕である。どうだ結衣ちゃん! お兄ちゃんを尊敬したか!?
「キャー! よくぞここまで来た勇者お兄ちゃん! 私が魔王だー!」
「魔王結衣ちゃんを倒して世界を守るぞー、かくごー」
結衣ちゃんはノリノリだ。笑顔が眩しい。
俺の脳内にある結衣ちゃんフォルダは既にデータ量がヤバイことになっている。しかしそれでも俺が結衣ちゃんとの思い出を保存しない事はありえない。
何故なら、それは義務であり使命だからだ。
そして許してくれ結衣ちゃん。愚かな兄を、そして世界を許してくれ。
世界に、そして俺に価値なんてないのに、それでも威厳の為にそうせざるを得ない結衣ちゃんのお兄ちゃんを許してくれ!
俺は結衣ちゃんに近づくと必殺おでこチョップの構えを取った。
もちろん怪我をさせないよう細心の注意と最低限の力で持って行われる。
必殺と名付けられる所以はチョップの瞬間、咄嗟に目をつぶってビクッとしちゃう結衣ちゃんに俺の心が必ず萌え殺されるからだ。
「待てー! 待つのだ勇者お兄ちゃん!」
俺が心を鬼にしてチョップを行おうとすると、両手を前に押し出し、体全体で"ダメー!"と表現をする結衣ちゃんに阻まれた。結衣ちゃんフォルダがまた充実する。
しかしどういう事だ結衣ちゃん! ここまで来て、もしや俺に触れられるのは嫌と申すか! そっそれはそれで……ごちそうさまです。
「うん、待つよ」
お預けはご褒美です。俺は服従の意を簡潔に伝える。とりあえず、結衣ちゃんがこう言う時は何かしらの考えがあるのだ。
結衣ちゃんのおはようからお休みまで、むしろお休み後も理解している俺は訓練され尽くした犬の如き所作で結衣ちゃんのOKを待つ。
「ありがとう勇者お兄ちゃん!」
お礼をちゃんと言える良い子のお手本である結衣ちゃんはそう笑顔で言うとポケットからゴソゴソと何かを取り出した。
(ん? あれは………世界地図?)
結衣ちゃんが懐から取り出したるは世界地図であった。
結衣ちゃんの懐を楽しむとは全くもってけしからん地図である、いくら出せば売ってくれますか?
そんな俺の嫉妬を他所に、結衣ちゃんは世界地図を広げるとこちらに見せつけてくる。
「ふふふ、勇者お兄ちゃんよ! 魔王結衣様の部下になるのだ! 今なら世界の半分をプレゼントしよう!」
な! なんだと! 結衣ちゃんからのプレゼント! なんと魅力的な響き!
……と言うか結衣ちゃんはいつの間に世界を手に入れたのだろうか? 勝手に人の物をプレゼントしたりしちゃ駄目だよ結衣ちゃん。
しかし結衣ちゃんにはなんと答えようか? 話に乗って上げるのは当然として、でも折角なんだしちょっと意外性が欲しい。
そう考え、ふと面白い事を思いつき――心の中でニヤリとほくそ笑みながら結衣ちゃんに答える。
「うーん、世界の半分かー、微妙だなー」
「えっ! えっと……そ、そうだ! 世界の四分の三にしてやろう! お兄ちゃん特別仕様だぞー! 魔王結衣ちゃんの物になるのだー!」
結衣ちゃんの変化は劇的だ。断られると思っていなかったのだろう。焦ったように追加のチップをベットしてくる。
でも結衣ちゃん? 何度も言うけど世界は貴方の物じゃあないんですよ?
「四分の三かー、それは大奮発だね魔王結衣ちゃん」
「そうでしょ、そうでしょ、お兄ちゃんだけのすぺしゃるえでぃしょんなのだー!」
「でもなんだか微妙だなー。このままだと勇者お兄ちゃんは魔王結衣ちゃんの提案を断りそうだなー」
「えー! そんなー! じゃあ、じゃあ………」
結衣ちゃんが困った顔をしている。
なんと言う外道、なんと言う鬼畜。かつてこれほどまで、結衣ちゃんに下劣な行いをする者がいただろうか? いやいまい、いるはずがない。
許してくれ結衣ちゃん、これは必要な事なんだ。
心の中で滝の如く流れる涙、俺はその音を聞きながらも結衣ちゃんの返答を待つ。
「わかったよ欲張りお兄ちゃんめ! 仕方ない、世界全部をあげよう! 世界はお兄ちゃんの物だ! さぁ結衣だけの物になるのだ!」
結衣ちゃんが決心した様子でこちらを見つめて宣言した。やけに気合が入っている。
しかしその言葉を待っていたぞ結衣ちゃん! 君ならばそう言ってくれると信じていた! 次は俺の番だ! 結衣ちゃんへの溢れんばかりの愛を伝えるぞ!
ってかアレ? 世界を捧げてまで俺が欲しいってこれもうゴールしちゃってるんじゃね? 後はウェディングだけじゃね?
そう思いつつも結衣ちゃんへと愛の言葉を準備する。
結衣ちゃんの愛は痛いほど伝わった、今度は俺が世界の中心で愛を叫ぶ番なのだ! もちろん、世界の中心は結衣ちゃんである。
「世界を全部くれるんだ、それはすごい。でも勇者お兄ちゃんが本当に欲しいのはそんなものじゃあないんだ」
「えっ? 世界より欲しいものがあるの? それは何だ! 白状するんだお兄ちゃんー!」
細工は流々、後は仕上げをご覧じろ! 今までのやり取りは全てこの瞬間の為に存在するのだ!
「それは世界よりも大切な妹、君の事だ結衣ちゃん!」
宣言する。結衣ちゃんはポカンとした表情でしばらくこちらを見つめていたが、しばらくするとその愛らしい頬を紅く染めながら潤んだ瞳でじぃっとこちらを見つめてきた。
破壊力が強すぎるよ結衣ちゃん………君のお兄ちゃんは間違いを起こしそうだ。
でもどうだ、参ったか!
「私……?」
「そう、結衣ちゃんはお兄ちゃんの大事な妹だからね、世界なんて安い安い」
実際世界なんて安い、世界を対価に結衣ちゃんを手に入れようと思うならざっと単純計算して地球57個は必要だろう。もちろんオプションを付けることによってその価値は更に上昇する。
「お……お………おにいちゃーーーん!!」
「結衣ちゃーーーん!!」
結衣ちゃんが飛び込んでくる、必殺"結衣ちゃんダイブ"が俺に炸裂したのだ。結衣ちゃんは俺に抱きつきながらグリグリと頭を押し付けてくる。一瞬にして俺の心が萌え死んだ。
グヘヘ、ご褒美ありがとうございます。
そうしてひとしきりグリグリを堪能した様子の結衣ちゃんが頭を上げる。笑顔が眩しい。
止めろ結衣ちゃん! 太陽に近づきすぎると死ぬんだ!
俺は今、愚かにも太陽に届かんとして堕ち死ぬイカロスと化していた。
「感動したよお兄ちゃん! 確かにお兄ちゃんからの溢れんばかりの愛を受け取ったよ! 完敗! まさしく完敗だよお兄ちゃん! わかったよ、世界全部、そして……そして………結衣をお兄ちゃんに捧げるよ!」
な、何たる幸運! 何たる至福! 神の国はここにあったのか! これはもうアレだ! ペロペロオッケーの合図ではないのか! むしろニャンニャンタイムではないのか!? 思わず結衣ちゃんを抱きしめたままベッドにダイブしそうになった俺だが、ふと思い直す、まさか………結衣ちゃんは俺を試しているのか?
そう、そうなのだ! そうに違いない! 俺は結衣ちゃんに試されていた! 天上の誘惑に耐え兄としての義務を全うできるかどうか!
危ない、危なかった! もう少しで俺は結衣ちゃんとラブ・レボリューションする所であった。
ありがとう、ありがとう結衣ちゃん! 目を覚まさせてくれて本当にありがとう!
そして活目せよ! これが結衣ちゃんが望んだお兄ちゃんだ!
「ありがとう結衣ちゃん、お兄ちゃんは幸せものだね」
「どういたしましてお兄ちゃん! "お兄ちゃんの為に魔王になった"かいがあったよ! それでは! ふつつかものですがどうぞよろしくお願いいたします!」
死んだ、俺は今日、ここで死んだのだ。
"不束者ですが"、ふつつか! 不束じゃないよ結衣ちゃん! むしろ"つつか"だよ! よく分からないけどビックリする位"束者"だよ結衣ちゃん!
そしてゴールイン! おめでとう! みんな祝福をありがとう! 俺は今日死んだ、そして生まれ変わったのだ!
これはもう完全にOKサインだよね! 結衣ちゃんと共に新世界の歴史を紡ぎだす創世記だよね! 後は人類生誕の神秘を二人で再現するだけだよね! 現代のアダムとイブだよね!
そうしてベッドへのダイブを決意した俺だったが不意に結衣ちゃんが俺から離れる。
え? ここまで来てお預け? マジで?
「そうだ! こうしちゃいられない! すぐに報告に行かなくちゃ!」
心底嬉しそうな表情で結衣ちゃんが話す。
報告? 誰に報告するの? ちょっと結衣ちゃん、事態がお巡りさんのお世話になるまで発展するのはノーサンキューだよ。
発展して欲しいのは結衣ちゃんとの関係であって、臭い飯フラグじゃないからね?
「お兄ちゃん! お兄ちゃんの結衣はちょっとお出かけしてくるね! お母さんに言っておいて!」
そう言うやいなや、結衣ちゃんはビューッと擬音が入りそうな勢いで自室から出て行く。行動力には定評のある結衣ちゃんだ、先程まで二階の俺の部屋に居たのがもう階下に居るようだ。
慌てて結衣ちゃんに声を掛ける。まさか……お巡りさんじゃないよね? 信じて良いよね、結衣ちゃん?
「え? ちょ、ちょっと結衣ちゃん? 報告って誰にするのさ!?」
「こくれーーーーん!」
「夕飯までには帰ってくるんだよー!」
はーい! と言う元気な声が聞こえてくる。
流石結衣ちゃん返事も可愛いね! しかし結衣ちゃんはあんなに元気よく誰に報告しに行ったのだろうか?
んー、黒蓮さん。だったかな………。はて? 結衣ちゃんにそんな名前の友達居たかな?
◇ ◇ ◇
「ミスタ、それではこちらの書類にサインをお願い致します」
「え?」
日本語で話しかけられ、唐突に我にかえる。
あの後ベッドで横になり再度雑誌を読んでいた俺であったが、急に室内へ黒服の恐ろしいお兄さん達が来たかと思うと拉致されたのだ。
ついに国家権力の前に愛が屈するのかと思われたが、どうやら違うらしくとても丁重に扱われた。そして車だの飛行機だのを乗継ぎ気がつけばこれである。
いま俺は、国連の大会議室中央にて、合計して数百人は居るであろうと思われる各国の代表者やマスコミの皆さんの視線を一心に浴びている最中であった。
「もう! お兄ちゃん、ぼうっとしちゃダメだよ! 早くサインをして! 記者団の皆さんがお待ちかねだよっ!」
地上に舞い降りし翼の折れた天使、結衣ちゃんが話しかけてくる。相変わらずの魔王様ルックだ。
あの………もしかして結衣ちゃん。ガチだったんですか?
俺の混乱を知ってか知らずか結衣ちゃんは手元にある書類をさぁさぁ! と言わんばかりに押しやってくる。
チラッと見たが「世界譲渡に関する承諾書」とか書いてある。内容や書式も知る限り正式な物だ。
……あかん、これガチや。
「えーっと、何語で書けばいいのかな?」
「日本語で問題ありませんよ、ミスタ」
「えっと、わかりました………」
先程、書類を渡してくれた外人さんがやや慣れていない様子の日本語で説明してくる。
うむ、テレビで見たことありますよ。確か国連の一番偉い人ですよね?
偉い人は俺が日本語で書いたサインを確認するとそれを両手で掲げるように来場者に見せる。
途端、前の方に座っている各国の代表者らしき人々から割れんばかりの拍手が、そして後方に座っている記者団からは嵐のようなフラッシュが焚かれた。
苦い笑いが隠せない、俺は色々といっぱいいっぱいであった。
「やったね! やったよ! お兄ちゃん! これで世界はお兄ちゃんの物だよ! もちろん………結衣も……お兄ちゃんの物だよ、えへへ」
結衣ちゃんが、元気良く、そして恥ずかしそうに話しかけてくる。流石結衣ちゃんである、こんな場でも俺の心を鷲掴んで離さない。
でもね結衣ちゃん、ちょっとお兄ちゃんとお話ししようか?
「ね、ねぇ、結衣ちゃん。お兄ちゃんちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「なぁに!? なんでも聞いてよお兄ちゃん! お兄ちゃんの結衣になんでも聞くのだ!」
「ど、どうやって世界の皆さんを納得させたのかな?」
『ルード事務総長、モニターに観測衛星が写した映像をお願いします』
『かしこまりました、魔王結衣』
結衣ちゃんが英語で偉い人に指示を出す、紡がれる言葉はまるで母国語の様に流暢だ。
そして偉い人ゴメンナサイ、偉い立場なのにうちの結衣ちゃんが顎で使っちゃって。
偉い人が何やら手元にあるPCを操作したかと思うと、突如天上から巨大なモニターが降りてくる。
ややあってモニターに映像が写る。
……宇宙だろうか? 黒い背景に地球が見えるぞ。だがおかしい、ありえないものが見える。
それには金属で出来た菱型の塊に大小様々な筒のような物が付いていた。左右に羽のように広げられた構築物は青く輝くその色から恐らく太陽光発電装置だと思う。
地球に向けられる様に付けられた巨大な棒状の物体は淡く発光を続けており嫌な想像しか起きない。
そしてふと近くに写る普段見慣れた人工衛星と比較し、俺はその大きさに唖然とする。
それは、宇宙空間に浮かぶ、直径数十キロにはなろうかという巨大な建造物だった。
「………何これ?」
「宙対地攻撃用決戦要塞『魔王城』だよ、お兄ちゃん! 静止衛星軌道上から地上のあらゆる地点への制圧攻撃ができる優れものなんだ! ボタン一つで現代にソドムとゴモラを再現できるんだよ! 結衣は頑張りました!」
俺の呟きを漏らさず聞き取った結衣ちゃんが自慢げに教えてくれる。
凄いね結衣ちゃん、頑張れば静止衛星軌道上にあんな巨大な建築物を作り上げる事ができるんだ。頑張れば人間なんでも出来るんだね。
事態に追いつけずマヌケな表情でモニターに写る魔王城を見る俺を他所に、突然に映像が移り変わる。
映されるのは四つのシンボルマーク。さっきとは打って変わって地味だ。だがどうしたことか? なんだか何処かで見たことがあるぞ。
「後は結衣ご自慢の魔王直属四天王! 『メンサ・インターナショナル』『ユダヤ財団』『シークレット・ガバメント』そしてっ!『国際連合』だよっ!」
うわーい! 四天王まで持っているなんて結衣ちゃん凄いね! ってか四天王と言うわりに全員組織なんだね! 人物が一人も居ないよ結衣ちゃん!
そして結衣ちゃんが紹介する四天王さん? がまた半端じゃない。
「人口上位2%のIQを有する者のみ加入を許される天才者集団」、「世界の経済を牛耳っているとされる書類上存在しない財団」、「多くの国の政府を裏で操り、世界を支配している秘密結社」、そして「表の世界意思そのもの」。
結衣ちゃん、君は何と戦おうとしていたんだ? まさか俺じゃないよね?
最愛の妹、その反抗期疑惑に若干ビビリ始めた俺を他所に結衣ちゃんは楽しそうに続ける。
「そしてそしてっ! 高性能AIを積んだ『自律思考兵器群』、安全性の確立が成功した『超能力兵士』、細胞の安定化処理が施された『次世代生物兵器』、これら魔王軍の皆さんに手伝ってもらったんだよ!」
モニターが結衣ちゃんの説明に合わせて慌ただしく切り替わる。
うんうん、知ってる知ってる、ゲームで見たことあるからね。てかゲームでしか見たこと無いよ! 実現されてたのかこれ!?
何故か魔王の配下にも関わらず科学兵器ばっかりな魔王軍の皆さんの勇士を確認しながら、俺は結衣ちゃんへの返答を考える。
「そっ、そうなんだ、すごいね結衣ちゃん。お兄ちゃんが知らない間にそんな事になっていたんだ」
「えへへ! お兄ちゃんにはビックリさせようと思って! お兄ちゃんの周りには魔王権限で緘口令を出しておいたんだよ! 破れば擬似観測に成功した"魂"に対する処断が為される、ひっじょ~に重いものだったんだ!」
緘口令にしては処罰が重すぎだと思うんだが。処罰者は出たのだろうか? 出ないに越したことは無いけど。
お兄ちゃんはその純粋な想いがとっても重いよ結衣ちゃん………
それにしても、もうここまで来たら後は突き進むしかないだろう、結衣ちゃんは突っ走りすぎた。
昔から猪突猛進なところがある結衣ちゃんだが今回はちょっとやりすぎだと思う。
一緒にゴメンナサイしても恐らく許してもらえない。ならばあとは俺の覚悟だけだ。
そして俺も結衣ちゃんのお兄ちゃんだ! 覚悟を決めたぞ結衣ちゃん!
「分り易い説明ありがとう結衣ちゃん。じゃあお兄ちゃんが世界を貰うとしてまず何をすればいいのかな?」
一応聞いておく、まぁ実際にする事等ないだろう、それに権力持ってやりたい事もないしね。
逆に全権限が俺にあるとすれば都合が良い、「世界平和を」とか美辞麗句を並べて細かいことは四天王さんに丸投げすればまた何時もの様な日常が戻ってくるだろう。
そうして後は唯ちゃんとのラブ・レボリューションを待つだけだ。
あ、婚姻法の改正位はいいよね? 世界は俺の物だし。
あー、なんだ全然問題ないじゃないか! なんだかんだで明るい未来が待ってるじゃないか! 俄然元気が出てきたぞ!
そうして俺は数時間ぶりの笑顔を結衣ちゃんに向ける。
ただいま結衣ちゃん! 君のお兄ちゃんは復活だ!
「とりあえずは先日調査が完了した異世界への軍事侵攻だよっ! お兄ちゃん!」
………あかん、何言っちゃってるの? マイシスター。
「えーっと、どういう事?」
未だ脳の処理が追いつかない俺はそれだけを伝える。結衣ちゃん本当に反抗期なのかい? 最近お兄ちゃんいじめがヒドくないかい? お兄ちゃんのヒットポイントはゼロよ!
「あっ! ごめんねお兄ちゃん! 緘口令のせいでお兄ちゃん知らなかったんだよね!」
そう可愛らしく舌を出して"やっちゃった"アピールをする結衣ちゃんだったがすぐに先程からは考えられない真剣な表情で偉い人に話しかける。
公私の分別はキッチリ付けるタイプなんだね結衣ちゃん。
『ルード事務総長、次元物理学者のルシュコフ博士と文化学者の李教授をお呼びし、異世界バーレンハイムについて説明して貰ってください。お兄ちゃんへの同時通訳は私が行います』
『すぐに準備いたします、アークロード結衣』
またもや偉い人を顎で使った結衣ちゃんが異世界とやらの説明準備に入る。
同時通訳とか言っていたけど名前から察するにロシア人と中国人だよね。凄いね、いつの間にマルチリンガルになったんだい結衣ちゃん? 貴方まだ中学一年生でしょ? スペック高すぎない?
そうして、偉い人に顎で呼ばれた博士と教授が俺の為に説明をしてくれる。
これほどまで真剣に、先生と呼ばれる類の人の話を聞いたのは初めてだ。結衣ちゃんに無理やり俺の初めてを奪われた。
……うーん、マーヴェラス! あ、駄目だ、真剣に聞かないと怒られる。
どうやって異世界を観測したか、異世界へのアクセスはどうやってやるか、ややこしい話しは正直覚えていない。
だがどうやらバーレンハイムと言う世界はよくあるファンタジー世界の様だ。
特徴的なのは奴隷制度が盛んで文化成熟度が未熟な現在多くの人々が迫害を受けているという事。そして魔法があったりエルフとかドワーフも居るって事! 凄いね異世界!
当初友好的な関係を求めていたこちらの世界だけどあちらの文化が未熟なせいか梨の礫、それどころか魔法文化の無いこちらを下等と称して使節団が攻撃を加えられる事もあったそうだ。
んむ、確かにそれは許せない! 是非とも正義の名のもとに裁きの鉄槌を下して、真の平和と秩序を広めて欲しい!
そうして平和を築いた後に異世界産の資源や技術をを根こそぎ掻っ払うのだ。
………ってかそれが目的だろうが!!
果たして結衣ちゃんはこの事実を知っているのだろうか? 蝶よ花よと俺に育てられた結衣ちゃんである。
未だに子供がコウノトリが運んでくると信じていてもおかしくないピュアガール結衣ちゃんが、そんな世界の汚い部分に触れるなんて、俺は到底許容できない。
場合によっては俺が身を呈して結衣ちゃんを守り切る! 結衣ちゃん! 汚れ仕事はお兄ちゃんに任せて、君はどうか綺麗なままで居てくれ!
「バーレンハイムの事は分かったよ結衣ちゃん。でもね、戦争って言うのはとっても大変な事なんだ。結衣ちゃんは今回の軍事侵攻についてどう思っているの?」
さぁ! 結衣ちゃん! 穢れ無きその心をお兄ちゃんに魅せてくれ! 世界に希望は残されていると、人類は審判の日に救われると、そう教えてくれ!
「アメリカは正義と言う名の国民統制の為に、EU・ロシア・ブラジルは経済圏の拡充の為に、中国・インドは増加する人口の移住地として、そして日本はエルフや獣っ子保護の為に! みーんな賛成だって! 常任理事国全部賛成でしかも軍事・経済面での上位国もこぞって賛成を表明している。リスクとリターンはありえないほどロー&ハイ! 結衣も魔王軍的にもオールオッケー! これはもう残っているのはゴーサイン出す事だけだよ! お兄ちゃん!」
あ、はい、全てご存知なんですね、結衣ちゃん。
我が天使は知らぬ間に大人の階段を登っていたようだ。けど安心して結衣ちゃん、お兄ちゃんはいつまでも結衣ちゃんのお兄ちゃんだよ。
結衣ちゃんの唐突な大人宣言にしばし茫然自失とした俺だが、どうやらショックに思考停止するあまりうなだれていたようだ。
結衣ちゃんにみっともない所は見せられない! 慌てて姿勢を正してキリッとした表情を結衣ちゃんに向ける俺であったが、その様子を目ざとく見つけた結衣ちゃんが途端に輝かんばかりの笑顔を向けてくる。
え? どうしたの結衣ちゃん、さっきのが何かあった? え、もしかしてゴーサインだと思った? 違う違う、違うんですけど!? ちょっと、どれだけ血が流れるかわからないんだけど! そんな簡単に決定しないで! 待って! 結衣ちゃんー!
「やった! じゃあお兄ちゃんの許可も貰えたことだし、ここで異世界への軍事侵攻の発動を発表しまーす!」
「ちょ、ちょっと、結衣ちゃん!」
「最高軍事責任者はもちろんお兄ちゃん! 参謀として不肖、私アークロード結衣が付きます! マスコミの皆さん、この場での質問は回答致しかねますので詳細については後日公告されるプレスリリースを御覧くださいね!」
結衣ちゃんが矢継ぎ早に捲し立てる。ご丁寧に世界での使用頻度が高い複数の言語で別々に復唱している。そしてどれもとても流暢で母国語としている人でさえ舌を巻くほどだ。
と言うか結衣ちゃん? 貴方3ヶ国語だけじゃないかったのね、今の魔王ってマルチリンガルが標準なんだ。
マスコミが焚くフラッシュの嵐は留まるところを知らない。
ああ、明日の朝刊に俺の写真が載ったりするのだろうか? こんな事なら美容室行っておくんだった。
うん、現実逃避だよね、逃げちゃダメだよね、立ち向かわないといけないよね。
結衣ちゃん、俺頑張るよ、人間やれば出来るって結衣ちゃんが教えてくれたんだもんね。でもね、さっきから心の涙が止まらないんだ。
「後各国の皆さんは抽出可能な軍事兵器・部隊の一覧と自国の戦闘ドクトリンの提出! 四天王の皆さんは直ちに専門機関を立ち上げて占領後統治を含めた侵攻作戦の立案を行なってください! それでは! 頑張って異世界を結衣の大好きなお兄ちゃんに捧げましょう!」
「ゆ、結衣ちゃーーーーん!」
結衣ちゃんが立ち上がり宣言する、結衣ちゃんはテンションMAXだ。どうやら本気で俺に異世界を捧げる気らしい。
そうして先程まで静かにしていた各国代表が全員起立し、見事な連携を持って同時に復唱を行う。その声は国連の大会議室に一斉に響き渡る。
「「「異世界をお兄ちゃんに!」」」
どうやら、我が最愛の妹、"結衣ちゃん"は、
俺の事が好きすぎて本当に魔王になってしまったみたいだ………。
異世界侵攻完了の後は宇宙由来の異生命体との戦いがお兄ちゃんたちを待ち受けていたりするとかしないとか。
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