5.もう一人の大切な人
その日の夜、俺は海里とレストランで食事をしていた。
「ねぇ、昼間はあんなこと言ったけど、本当は誰か好きな人がいるんじゃないの?」
「…」
俺は動揺し、何も言えなくなっていた。
「違うの?」
「…い…いや…」
まともに顔が見れない…いや見れるはずがない。
「あたし分かってた、付き合ってって言った時から…分かってた」
「…何がだよ?」
少し涙ぐんだような彼女の目、それを見て、余計に動揺してしまう俺がそこにいた。
「最初から、あなたがあたしなんか、好きじゃなかったってこと」
「そ…それは」
言葉が詰まってうまく言えない。
「いるんでしょ?好きな人?」
「…あ…ああ、いる…」
俺はもうこれ以上嘘はつけないと思い、正直に打ち明けた。
「初めてだったんだ、あんな風に人を好きになったの…」
「…」
海里は目を潤ませ、黙ったまま口を開かない。
「悪かったとは思ってる、だけど…今の俺には泉奈しかいないんだ」
彼女は黙ってこちらを見つめている。
俺もそれ以上は言えなくなり、ただ時間だけが過ぎた。
そして、彼女が口を開いた。
「…あなたが好きになったんだもん、きっといい人なのね」
「ああ」
海里はどこか寂しげな瞳をしていた。
「どうしたの?」
「それが…相手は中学生なんだ」
彼女か一瞬、何が起きたのか分からないというような顔をした。
「相手は公園で知り合った中学生なんだ」
「…」
獣を見るような目で俺を見る彼女
「ち、違う、そんな怪しいのとは違う、ただ俺は…彼女の純粋さにほれたんだ」
少し疑ったような海里の視線が、俺の胸に突き刺さる。
「初めてだったんだ…人を好きになったの…」
俺はいつの間にか頬を涙でぬらしていた。
それを見て彼女も分かってくれたのか、優しい目でこう言った。
「…初恋か…」
彼女のどこか遠くを見つめる目、俺の心が締め付けられる。
「…お…お前のことも好きだ…だけど、今の俺にはあいつしかいないんだ…」
うっすらと笑顔を浮かべる海里
「たとえ、あなたに好きな人がいても、あたしはずっとあなたを好きでいる。もし、あなたがあたしを忘れても、あたしはあなたを影から見守り続ける…」
「…海里」
彼女は優しい笑顔で言った。
「最後に一つだけ…これからもずっと…友達ていたい」
「ああ」
俺は今までにないほど力強い返事をした。
「かんばってね」
「がんばるよ」