1.桜の舞う公園で
あれはまだ桜の咲く春だった。その日、俺は夜の公園を散歩していた。
人気のない公園、俺は一人ベンチでたたずんでいた。
「今日も疲れたな〜」
溜め息混じりにつぶやいていると、俺の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「ミル、おいで、ミル」
声のする方に目をやると、そこには猫を抱き上げる女の子
俺はハッとした。まだ中学生ぐらいの女の子、純粋な笑顔で猫の頭をなでる姿は、まるで天から舞い降りた天使のようだった。
俺がしばらくその子を見つめていると
「こんばんは」
俺の視線に気付いたのか、こちらに微笑む少女
「あっ…こんばんは」
ぎこちない返事、それでも彼女は俺に話しかけてくれる。
「お散歩ですか?」
「は、はい、そ、そうなんです」
またもやぎこちない返事、俺は不意に彼女に挙動不審と思われていないか不安になった。
「そうなんですか?私もこの子とよく来るんですよ」
彼女は猫にほうずりしながら言った。
「あぁ、そうなんだ」
俺は緊張のせいか、笑顔を引きつらせていた。すると、彼女は心配そうに俺の顔を覗き込み
「大丈夫ですか?具合…悪くないですか?」
「い、いえ、だ、大丈夫です」
そう言うと、彼女はニッコリと笑い
「良かった〜何もなくて」
ほっとしたような彼女の表情、その表情を見て、俺の緊張も次第にほぐれていった。
少しの沈黙が続き、ぼんやりとつぶやく彼女
「夜の桜もきれいですね、なんか風情があって」
俺も彼女の視線の先を見る。
「ほんとだ、今日は満月だから余計にきれいに見える」
俺たちはしばらく夜桜見物にふけっていた。
ふと、彼女が思い出したようにこう言った。
「あっ、もう、こんな時間だ」
時計を見るとすでに9時を回っていた。
「じゃあ、私帰りますね」
「ああ…」
なんか素っ気ない返事をしてしまった。
彼女は猫を抱き、公園を出ようとしていた。
俺がぼんやり見ていると、こちらへ振り向き
「また会えるといいですね、じゃ、また」
「…また」
手を振る彼女に作ったような笑顔で手を振る俺
何をそんなに緊張しているのだろうか?相手は女といっても中学生ぐらいだ。
俺とは10歳以上離れてるし、それに…俺には付き合ってる奴だっている…
俺は家に帰り、一人あれこれと考えていた。
だが…女がいるといっても…好きという気持ちはほとんどない。
ただ告られたから付き合っているという感じだ。
…何だろう?この気持ちは…人を好きになるって…こんな気持ちなのか?しかし、俺が誰かを好きになるなんて…