表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第一話、「ステーク」7


「なあ……信じてみねえか

たとえ神も仏もいなかったとしても…………

仮面ライダーはいる……ってな」


(仮面ライダースピリッツより/滝 和也)


  ◇◇◇


 痛みが無い楽しむことだけが目的の世界でも、恐怖が存在することを彼らその時知った。

 息を切らせ、採石場を走る四人の人影。前方を走る一人、怪人が半泣きの表情で後ろを振り返る。

 一体なぜこのような事態になったのか、ただ初めたばかりのネトゲのイベントを、初心者仲間と観戦しようとしていただけなのに。


――な、なんでこうなったんだよ……ッ!


 怪人の外装を持つ逃亡者には、今の状況がよく理解できない。わかっていることは、死亡すれば本当に死ぬ可能性がある事、そして、


――なんでアイツら追いかけてくるんだ!?


 確実に自分達を殺そうとするプレイヤーがいる事実、しかもかなりの高レベルの。

 追跡者の一人、黄色のゴツい外装のライダーが腰元に手を伸ばす。

 ゆっくりと抜き出された拳銃が、逃亡者達へ銃口を向けた。


「ヒ、ヒィ、」


 恐怖の悲鳴より速く、背後からの光の弾丸が飛来、怪人の頭部に一つ、胸部に二つ着弾。()ぜる。

 音も無く、犠牲者が倒れて転がる。後ろを走っていた仲間の初心者が駆け寄るが、抱き起こすより早く、その姿が分解、ロスト。

 無慈悲なまでの、弱者の死に様だ。

 足を止めた三人に、強者二人が距離を置いてバイクを停車。ゆっくりと、降りる。

 青い外装のライダーは、気だるげに三人を眺める。細いシルエットは白昼の幽鬼を想起させた。

 拳銃を二丁とも抜き放ち、黄色い外装のライダーが構える。がっしりとした体型は、人型の岩にも見えた。

 言葉は無く、呵責(かしゃく)も無い。ただ退屈な作業の様に、引き金に指をかけた。


「……ッッ!」


 必死で頭など急所判定のある頭部をかばう三人。だがこのステータス差でどれほどの効果があるか。

 乾いた発砲音が岩の荒野を走る、しかしそれは正面ではなく、真横からだ。

 撃ち込まれた光弾の位置は、弱者の額ではなく、強者の足元へ。


「――やめなさい! 君達の行動は殺人に繋がる可能性がある、今すぐそのグループから離れるんだ!」


 岩山に、赤い男が立っていた。

 無差別回線、最大音量の声でライダー二人へ呼び掛けている。

 灼熱の紅に巻かれる白のライン。流線型を主線としたデザインのヘルメット。ゴーグルは黒。

 右手に抜かれるは、メカニカルかつ子供に受けそうな形の拳銃。

 レンジャー物に置ける、「レッド」の男が追跡者と対峙する。


――……助け、なの?


 混沌の状況の中、それが真の救済なのか。弱者達にそれを正確に判断できる材料はない。

 ただ運命に流されるだけだ。


 二人組の内、蒼いライダーが岩山より下りる安田を見上げる。しかしもう片方、黄色のライダーは特に意に介さず、拳銃を初心者達に向けたままだ。


「おい、聞いているのかっ!」


 更に叫ぶレッド=安田、だが銃口が即座に彼へ向く。


「チッ!」


 発砲音、光弾がレッドの足元へ着弾。石を砕き煙を上げる。


「……警告だ、邪魔すんなオッサン。そのレベルと二体一でまともにヤレると思ってんのか?」

 精一杯ドスを効かせているが、まだ若い青年の声だ。やはり高いレベルのプレイヤーとの戦闘はリスクのほうが気にかかるらしい。

 青のライダーは変わらず、立ったままレッドを凝視。喋りさえしない。


「死ぬ可能性があるんだぞ! バカな事を言ってないで……」


「これがただのイベントで、死んでない可能性だってあるだろうが! 生き延びたら一億だぞ、引くわけねぇだろアホか!」


 仮に死ぬ事が嘘であってなら、一億の賞金も嘘である可能性が高い。たがイエローのプレイヤーは最も自分に取って都合がいい可能性を取った。

 死ぬ事は嘘で賞金は真実。そう思うことで殺人をPKとして肯定し、賞金を取るための「これは殺人では無い」という免罪符に変えたのだ。


「わからない以上、無闇にPKをしてはならない! あの卵男(エッグマン)の思うツボ……」


 イエローの脳内で、あの理解を拒絶する嗤い声がフラッシュバック、恐怖を呼び戻した。


「ぅうるせぇッ! ヤツの事は言うなぁッ!」


 飛来する無数の弾丸。とっさに防御体勢を取るレッド。

 だが、前方に飛び込んだ黒が、弾丸を全て受け止めた。


「……木島くんっ!?」


 黒のライダー、ステークの両腕装甲から煙が上がる。やはりレベル差は厳しい、弾丸は強力だ。だがステークは戦闘体勢のまま、一歩も退かずレッドの隣に立つ。


「……おかしいっスよ、こんなのおかしいじゃないですか、安田さん」


 前方に敵を捉えたまま、ステークが呟く。かすかに、足が震えていた。


「……レンジャーのくせに、赤一人だけなんて、そんなのおかしいですよ。だから」


 それでも、戦うと決意した。逃げないと決めた。後悔はしたくない、だから、今は、


「しょうがないから、今日は俺がブラックやりますよ、安田さん?」


「……君は本当に、付き合いがいい男だな、木島くん。

――私はいい相棒を持ったよ」


 二人と対峙する青と黄。周囲を濃厚な闘争の空気が漂う。

 間違いなく、殺し合いが始まる。残酷なほどに正義も悪も無い、生存のための闘いが待っている。

 避ける術は無い。ぶつからなければ生き残れない。


「木島くん、君はレベルの低い青の方を相手してくれ。私は黄色を抑える。初心者達が逃げれればそれでいい、無理はするなよ?」


「はい、わかりました安田さん!」


「……木島くん、一ついいかな」


 冷たく、声を絞る安田。声にやや怒気が含まれている。


「いいかいっ! この姿(レンジャー)時は、安田じゃなくて『レッド』と呼んでくれッ! とても大事なことだ、わかったね!」


「え?、あ、はい、わかりました……レッドさん」


 反応に困りながら返事をする木島。安田は明らかに本気だ。

 ともあれ、戦いの幕は切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ