第一話、「ステーク」2
「知ってるかな、夢っていうのは、呪いと同じなんだ。呪いを解くには夢を叶えるしかない。
けど、途中で夢を挫折した者は、一生呪われたまま……らしい。
あなたの罪は、重い。」
(仮面ライダー555より/ホースオルフェノク)
◇◇◇
20XX年、発達した新インターフェイス技術は、軍事目的からの更なる洗練と強化を経て、ついに一般の民衆にその恩恵を甘受させた。
身体感覚と操作を直結、タイムラグなく、より直感的にヴァーチャル・リアリティー内のアバターを操作できる新インターフェイス技術は、遂にVRMMORPGとして多くの人々に受け入れられていく。
そして乱立していく様々なVRMMORPGは、差別化のための多種多様化した要求に応えるいわゆる「ニッチ」向けの物が増加していく。
そして、青年 木島が選んだゲームはその中でも「特撮オタク」向けの方向性を持つ作品だった。
◇◇◇
「男として生まれたからには、『ヒーローになりたい』と思わなかったやつはいない」
それが木島の持論だ。
そして、木島はそれに従った。
幼き頃の夢を叶えるため、少年の頃から必死にヒーローになる道を探した。
その中で「真の正義の味方はいない」、「真っ当な正義感だけでは世の中では生きられない」ことを学んだ。
だがそれでも夢を諦めきれず、青年はある施設の門を叩く。
「スーツアクター養成所」そこで彼はいつか子供のころに見たヒーローになろうとした。せめて、あの頃の自分のように、子供に夢を見せる仕事がしたい。ただその一念で。 やがて熱意を認められ、入門となる。次々とカリキュラムを受けながら、いつか自分がヒーローになる日を待ち続けた。
だが、その日は来なかった。
――俺だって、やってみたいけどさぁ。
取り外したベルトのバックル――「変身」のためのアイテム――を握り締め、木島は過去を噛み締める。
――俺じゃ無理なんだよなぁ。
スーツアクターの練習中、木島は同期生との高所からの着地に失敗、左足を粉砕骨折している。
怪我自体は時間はかかったが、完治はした。だが、スーツアクターとして最も必須のものは治らなかった。
共に落ちた同期生は腰椎を損傷、下半身不随となり、木島もまた高所恐怖性になってしまった。
事故の責任その物は木島にはない。だが、スーツアクターの夢を立たれた同期に対しての自責の念を抱えたまま木島は「跳べない男」として、夢を諦める。
スーツアクターを諦めた木島は、サービス開始直後から始めていた「ヒーローアンドヒールVSオンライン」にただひたすらのめり込んだ。失った夢を、埋めようとするように。
両親はすでに他界、身内は叔父夫婦ぐらいしかいない木島にはゲームのみが寄りどころとなる。
実際、ゲーム内はゲーム内通貨とキャラクターレベルさえあればおよそあらゆる「特撮ヒーロー」を再現することが出来た。
その中で木島は「マスクドライダー」を選んだ。初期に選べる「基本ヒーロー」の一種だが、今なお毎年新作が作られるため、非常に人気が高い。なお基本ヒーローには他にもレンジャーなどがおり、レベルが上がれば上位ヒーローの「ギガント」や「スペースDK」などにもなれる。
さらにはゲーム内通貨により、多種多様な必殺技やマシンも購入出来る。キャラクターデザインも、撮影会社の協力で既存のヒーローからオリジナルまでも幅広く選択が出来るのだ。
木島は、子供の頃に考えていたオリジナルライダーにこだわった。ゲーム内でモンスターとして表れる怪人を狩り、必死にアイテムや通貨を稼ぎ続けた。
気がつけばレベル95になっていた。カンストのレベル制限は150である。 はっきりいって、同じ時期に初めたプレイヤーの中ではかなり低い。
基本的に経験値は二の次で金ばかり追い続けた結果だが、稼いだ金の大半は購入資金と、ヤラレ役の仕事をする怪人のプレイヤーへの報酬で消えていた。とにかくこの「ステーク」の外装には貢いでいる。
高く跳躍するなど、自分には扱えない必殺技もついつい装備させてしまった。
――バイクとか装備とか結構高いんだよなぁ、……これ売れないかなぁ?
立体ディスプレイで自分の保有スキルを確認。「獲得資金増加レベル3」や「腕力強化レベル4」などの必須や死にスキルがずらずらと並ぶ。視線はその最奥へ。
初期スキル:正義レベル1
レアスキル、らしい。