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第一話、「ステーク」1

「変 身 ! !」



(仮面ライダーシリーズより/全ての仮面ライダー)


 風が、凪ぎ、ぬかるむ。

 闇の底で闘争が幕を開けた。都市の熱風をかき分け、異形が動く。


 ヴ ァ ア ア ゥ ウ オ オ オ ――……ッッ!


 唸り、咆哮。筋肉が膨れ上がり、血管が生々しく這いずる腕、鉄槍の如く尖った五指の爪が薙ぐ。

 黒い影が跳びすさった直後、背後の薄汚れたビル壁が切り裂かれ、崩壊。

 薄暗闇の路地裏、照らされるは異形の肉体。大きく発達した両の腕、対応するヒッティングマッスルが搭載された肥大する背中からは湯気が上がる。そして、両端から牙の飛び出たイノシシを想起させる顔面。

 しかし、異形の野獣の両眼には、人の魂の光をたたえていた。

 それは、人の形をした(イノシシ)だった。


「セイッッ!」


 野獣に対峙するは、黒の人影。牽制のジャブから、右ロー、顎を穿つ左ストレートの流れるような連撃。


「ゴゴッ!」


 鈍く唸り、野獣が後退。太く逞しいその肉体に、人影の攻撃は確実にダメージを与えている。

 漆黒の空、不意に厚き雲の狭間から月の光が刺した。人影が、都市の裏側よりその真の姿を表す。

 暗黒の装甲、表面に走る血管の如き朱のライン。

 輝く純白の巨大なマフラーが、風の澱む路地裏でたなびく。

 そして、頭部をヘルメット状に覆う仮面には、昆虫を思わせる複眼パターンの二対のゴーグル、二対のアンテナ。

 まるでドクロのようにも見えるデザインは、肉を削ぎ落とした人間の本質を突きつける鋭い酷薄さを持っていた。

 黒の魔人が、都市の闇の中で野獣と相対する。


「ダァ、ダァレダァ、ギザマァッッ!」


 吠え声と共に人成らざる声で野獣が問う。


「……俺か? 俺はなぁ」


 答えより速く、野獣が距離を詰めた。巨大な肉塊が、コンクリートを踏み割り疾駆。ドクロの魔人へ、牙を鳴らし喰らいつく。


『dead end mode set ready!』


 朱の光を放つ、ベルトのバックル。そこから響く無機質な声。

 ベルトから伝わる破壊の光が、右足へ向かう。収束した赤光(しゃっこう)が煌々(こうこう)と輝いた。

 足を広げ体を開く、姿勢を落とし構える。

 野獣の突進、その重撃にカウンターの照準を合わせ、攻撃本能を解き放った。


「――――ッッ鋭!」


 魔人の体がコンパスのように真横に回転、軸足の裏から煙が上がる。

 轟速の右回し蹴り、シャープな軌道で吸い込まれるように野獣の左胴へ。


『――ignition!!』


 バックルが咆哮、同時に右足の光が炸裂。


  ゴ ッ ! !


 路地裏で爆音と閃光が乱舞。野獣の巨体を派手に吹き飛ばし、ビル壁へと叩きつけた。超重量に壁が陥没、巨体が埋まる。


「……俺の名、か」


 野獣を撃破した体勢のまま残心を崩さず、魔人が呟く。

 それは、守護する者。それは、闘う者。それは、打ち貫く者。

汝、その名は、


仮面(マスクド)ライダー――――ステーク」


 闇をまとい、魔人は都市の影へ消えていく。



   ◇◇◇


「いっやぁぁ、どーもありがとうございましたユッキーさん!」


 ペコペコと頭を下げながら、マスクドライダーステーク――ユーザー名:ヒダ ナオト 本名:木島(キジマ)直正(ナオマサ)――は先程蹴り飛ばした野獣――外装名:エレキック・ボア ユーザー名:ユッキー――に近づいていく。


「いやいやオタクもなかなかアクションにキレがあるね! ヤラレ役冥利に尽きるよ」


 ガラガラと瓦礫をかき分け、巨体が上がる。野獣はその双眸を木島に向けた。

 近づきながら、魔人の体から光が発生、外装が空間へ溶ける。 表れるはTシャツとジーンズのラフな格好。黒髪、黒眼のこれといって特徴のない日本人として標準的な青年=特に大きくイジっていないキャラクターメイクの印。


「やっぱユッキーさんに頼んでよかったですよ、噂通りのヤラレっぷり!」


 満面の笑みで野獣を讃える木島。立ち上がる野獣=ユッキーと軽く握手。


「いやいや、ゲーム上とはいえ、一応お金貰ってるからさ、満足してもらえりゃ嬉しいよ。……あ、最後のキック、もっと派手めなやつでも良かったんじゃない? ポーンと高く飛んでもさぁ」


 太い右腕を空へ跳ね上げるイノシシ。その仕草を、先程とは打って変わって苦い表情で見つめる木島。


「あー、俺的にはその……地に足つけたアクションのほうが……」

「あ、あんま派手じゃなくて、泥臭いやつの方が好み? まぁ、その辺はやっぱり人それぞれの趣味だね」


 気さくな調子を崩さず、ユッキーが話を続ける。


「CGのド派手な必殺技もいいけど、地道なアクションもスーツアクターの腕が出るから……」


「あ、あのー……」


 盛り上がるユッキーに、済まなそうな声をかける木島。


「実は、そろそろ例のイベントが始まるんで、おいとましますね」


「え? ああ、ヒダさん、例のGM主催イベント行くの? 僕も行こうかと思ってたけど、これから仕事でさぁ、じゃがんばってね!」


 獣面を歪ませ、爽やかな笑顔を送るエレキック・ボア。その体が徐々に透けて透明化、虚空に消える=ログアウトのエフェクト。

 同時に背景である夜の路地裏も崩壊。0と1の情報の羅列に還るビル、ゴミ箱、アスファルト。

 後には殺風景な真っ白い部屋に木島が一人、佇むのみ。


「……派手なヒッサツワザ、俺だってやりたいけどさぁ――」


 白の空間=レンタル制のパーソナルイベントスペースで、木島の己にしか聞こえない呟きが響く。


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