君と二人で 2
「書けたあぁー」
見た目がものすっごぉーく古びた小さなアパートの一室に響く男の声。近所迷惑だ!と返したくなるほど迷惑極まりない声量だ。
やっと作品が書けたという解放感が胸一杯に広がる。妹の喜ぶ顔が見れると思うと嬉しくてつい笑みが零れる。
さっそく妹に見せなければ…!
そう思い机の上に置いてある携帯を取り素早くメールを打つ。
メールを送るとすぐに返事が返ってきた。
今日はバイトがあるから明日の午後に取りにくる。俺は明日の午後からも講義があるがそんなのどうでもいい。明日は四日ぶりに妹に会えるのだ。休むに決まっている。
そんな感じで二時間しか寝ていないにも関わらず朝からハイテンションで愛用のチャリ(命名:八代さん二号)に乗り大学へ向かった。
自転車をこいで一時間もしないところに俺の通う大学はある。
大学に入っても相変わらず小説馬鹿な俺は大学に入っても成績が悪く…
なんて事はなくて実は妹に「どうせまた本しか読まないんでしょ」と言われ小学校の教科書を渡された。
はいはい、と受け流した俺に妹は教科書だって霞月の好きな文字がたくさんあるのにと言われ文字フェチな俺はその一言で渡された教科書(全教科ニ〜六年生)を三日で読破した。
懐かしかった!随分と勉強になった。何せ今まで8×7は58だと思い込んでいたから。
それから休みの間に中学、高校の教科書を読んだ。
問題集やテキストだって文字あるじゃん♪てことで妹の参考書を借りて読んだりもした。
国語の教科書の太宰治とか森鴎外とか大好き!ヘッセが載っているのを見つけた時は感動した。
だがしかし、数学と理科の計算が壊滅的にできないという事を悟った。
一度読んだ本は大体の内容なら忘れることがないのがちょっとした自慢だが計算だと応用もしなくてはならないからどうしてもダメだ。
だから今日も同じ大学に通う知り合いに教えてもらう予定だ。はじめは一人に教えてもらっていたが俺があまりにも計算が出来ない所為か…何時の間にかローテーションを組んで教えてくれる人が増えていた。
やっと大学に着いた。本館と離れた別館に着くにはまだ時間がかかりそうだ。
ちなみに本館は第一から第七棟で成っていてかなり広い。
お蔭でチャリで移動してんのにすっげー疲れる…一応運動してるはずなんだけどなぁー
別館には主にサークルの部室などがある。…サークルって部なのか?部活じゃないから部室って云わないか?サークルに所属してねーから分かんねぇや。
本当はいくつかのサークルに所属はしていたがどれも飽きてすぐに辞めてしまった。本命の本関係のサークルも全部試しに入ってみたはいいものの…どれも数日で辞めた覚えがある。
だからサークルのメンバーの名前を一人も覚えなかったり本格的な活動をする前に抜けたためサークルがどういうものなのかイマイチ分からない。
俺の通ってるサークル(定期的に行ってはいるけど入ってはいない)はまともじゃないから全くと言って良い程参考にならない。
話は戻って、別館には部室(?)の他には特別室や研究室がある。周りが木など自然に囲まれているため採取とか何かと便利だからそこにあるらしい。よく分かんねーけど。
本館から離れているのに別館には人が多い。
理由は単純に別館で行われる講義が面白いから。俺は別館でやる講義を受けたことが無いからよく分からないが解り易い上に面白いで評判のよさは大学に通っていれば誰の耳にも入るぐらいだ。
なんでもある教授が助手の事が気に入らなくて1日講義をその助手に任せると云う嫌がらせをしたらしい。実際そんな事して大丈夫か?と思うがそれは置いとくとして
翌日、教授が大学に来て自分の助手が学生にどれ程の悪態をつかれているのか聞き耳を立てていたところ、なんとその教授の期待を見事裏切り講義は絶賛された。そしてやはり助手が嫌いな教授は一人で勝手に張り合い、助手に負けじと愉快な講義をしようと努力した。その結果、その教授の講義は面白いと絶賛されるようになった。
良い話と云うわけでもないし面白い話と云うわけでも無く
…何とも言えない話だ。
そんなエピソードを思い出しながらチャリをこいでいると別館に到着した。