第6話 坑道の国について気づいたこと(後編)
この国のことを少しずつ理解し始めるうちに、
どうしてドワーフがこうも誠実で、頑固で、火を大事にするのか――
その理由もなんとなく見えてきた。
どうやらこの国は、ずっと昔から外部に頼らずに生きてきたらしい。
山脈に穿たれた坑道を少しずつ広げ、家族ごとに穴を繋ぎ、
気がつけば“国”と呼べる規模になっていた。
そんな歴史を持つ場所らしい。
もとは、山を転々と移動しながら暮らす小集落だったようだが、
地熱のある場所を見つけたことで定住が始まり、
そこから鍛冶と採掘の文化が一気に発展したらしい。
まるで火山の心臓の上に国ができたようなものだ。
暮らしは厳しく、常に岩崩れや酸欠の危険があった。
だからこそ“仲間を絶対に見捨てない”という風習が生まれた。
鍛冶師が俺を拾ってくれたのも、ドワーフとしては自然なことだったのかもしれない。
前世でひとりで抱え込みがちな性格をしていた俺にとって、
そんな文化はちょっと眩しい。
日常の風景も、前世とはまるで違う。
火床の赤い光が家々を照らし、
子どもたちは岩の棚を遊び場にし、
大人たちは朝から晩まで槌音を響かせる。
金属と石、熱と煙。
それがこの国の“日常の匂い”なんだろう。
ただ、その生活を支えるものがひとつ、確実に減っている。
木炭だ。
火を起こすための燃料が、いまやこの国の喉を締め始めている。
木炭の不足の裏には、ドワーフとエルフの長い歴史がある。
昔、ドワーフは森の木を使いすぎた。
火と鉄の文明を育てるためには木こりが必要だったのだろうが、
エルフたちにとって森は“ただの資源”ではなく、
彼ら自身の身体の一部みたいなものだ。
エルフの国は、この山脈の向こう側に広がる深い森にあるらしい。
美しく、静かで、魔力の流れで生態系が守られている場所だそうだ。
その国から見れば、木を切る技術だけ発達したドワーフは“荒っぽい隣人”なのだろう。
いまでは両国の関係が完全に途絶えたわけではないが、
昔のように自由に木材を得られる状況には程遠いという。
森を守るエルフの矜持と、火を守るドワーフの生き方が、
長い時間をかけて摩耗し、今のぎりぎりの均衡になった。
そのせいで、この国の鍛冶職人たちはよく難しい表情をしている。
火床の火を大きくできない。
大仕事もできない。
ただ日々を繋ぐための作業だけが続く。
そこに追い打ちをかけるように、この国の外には
“死の大地” と呼ばれる荒野が広がっている。
岩は裂け、風は乾いていて、毒の匂いが混じる。
生き物はほとんど育たず、地下に潜れば魔物が出る。
赤子の鼻でも分かるくらいに、外から吹き込む空気には陰りがあった。
あれは、人が生きていい場所の匂いじゃない。
どうやらこの国は、その死の大地を避けながら掘り進むうちに、
もう広げる余地がなくなりつつあるらしい。
地上にも出られず、地下にも進めず。
燃料も少ない。
希望は薄い。
――そんな空気を感じるたび、鍛冶師や研師の夫婦が見せる小さなため息が切なく思えてしまう。
赤子の俺にできることはまだ何もないけれど、
せめて泣いて彼らを困らせすぎないくらいの協力はしたいと、本気で思った。
この国の光景を見ていると、胸の奥がじんと熱くなる。
鉄の国で生まれ直したこの人生、
ここからどう動くのかはまだ分からない。
ただ、彼らに対して自然と湧き上がる敬意がある。
そんな国で、俺の第二の人生は始まっている。




