3. 皇太子妃の優雅な日常
架空の薬草とか作るのめちゃ楽しい!!!
シアナさんが大興奮して心の中でたくさん語ってますが、
さらっとで大丈夫です。↓
広大な庭園へ足を踏み入れたシアナは、ナディアを連れて、ゆったりとした足取りで小道を辿っていた。
なんとか優雅な表情を保っているが、心の中では大興奮である。
庭園には、真ん中に美しい彫像の噴水があったが、シアナの目は、彫像でも水景でもなく、その足元の緑の絨毯に釘付けだった。
(なんて、なんという……。)
咲き誇る様々な花々に混じり、食用や薬草に使える植物がいくつかある。
心臓が高鳴り、優雅に組んでいた指先に力が籠った。
この庭園は、ただ美しい花を愛でるためだけに造られたのではない。一流の薬師が厳選し、手入れを施していることが見て取れた。
彼女の視線が、歩道の縁に群生する、青白い光を放つ小さな花に向いた。
(あれは……ルナフォリウム。あんなに見事な株が群生しているなんて!故国では湿度の高い森の奥でしか滅多に手に入らないのに!)
シアナは心の中で歓喜した。その効能が頭の中で即座に浮かび上がる。
(陰干しで完全に乾燥させれば、最高の鎮静剤になるのよねー。不眠に苦しむ人でも少量使えば眠りが良くなるし、激しい頭痛が和らぐ。エストニアスでは貴重すぎて三徹して限界の時くらいしか飲めなかったでけど、これだけあればこっそり採取して常備しても問題無いかしら?)
碌でも無いことを考えながら、彼女の視線は次に、太陽を受けて真紅に輝く小さな実をつけた灌木に移動した。
(あの赤い実、ソリスラクリマだわ!)
彼女は思わず一歩近づき、触れるのを我慢した。
(実を潰して傷口に直接塗りつけるだけで、並の出血なら即座に止まる。それに、強力な解毒作用のある『竜の息吹』と組み合わせれば、胃腸への負担を抑えながら体内に留める結合剤として使える。あの二つを特定の比率で煎じれば、毒による内部の激しい痛みが和らぐんだよな。あれには何度も救われた、懐かしい……。)
また少し移動して、再び足を止める。ナディアが後ろから、「シアナ様、あちらは毒性の強い『影覆い』です。触れませんように。」と注意を促した。シアナは内心で、毒だなんてなんてもったいない、と思いながら、その黒紫色のキノコ状の植物をじっと見つめる。
(『影覆い』は、確かに麻痺毒だけど、精製すれば薬になるのよね。すり潰して、他のハーブの根と合わせてじっくり煮詰めることで、純粋な鎮痛成分だけを抽出できて、神経毒や、全身が痙攣する悪性の毒を中和してくれる。)
シアナはどんどん踏み込んで、さらに庭園の奥、いつの間にか人目につきにくい場所へと進んでいた。
「シアナ様、あの、あまりそちらへは……。」
ナディアが静止をかけるが、シアナには届いていない。
そして、古い石壁に囲まれた、ほとんど使われていない荒れた温室を見つけた。ガラス窓は曇り、蔓が絡まりついているが、内部は外気から遮断されている。
「ナディア、ここは?」
シアナは漸く自分がだいぶ奥まで来てしまったことに気付いて、ナディアの方を振り返る。
「こちらは、皇妃様が生前に使われていた温室です。今は使われておりません。」
好奇心に駆られて扉を開けると、ほこりっぽさの中に、一定に保たれた穏やかな空気が満ちていた。壁際には水槽の跡のようなものがあり、日当たりが良い部分と、常に日陰になる部分が明確に分かれている。それに、外から見るよりもずっと広く見える。
(……ここ、ハーブを育てる環境に丁度良いんじゃないかしら?最初は少しお手入れが大変そうだけど……。)
湿度、温度、日当たりなどにおいて、ここはハーブを育てるのに最適な環境だった。
「……育てたいな。思い切って皇太子に相談したら許可もらえるかな?」
エストニアス語で呟いたシアナの目には、お転婆な光が宿っていたが、幸い後ろのナディアには何も気付かれなかったようだ。
〜・〜
それからさらに数日が経過した。病弱なふりをしつつ、少しずつ宮殿内の構造について情報を集めていく。
途中レイノルドと偶然顔を合わせる事もあったが、特に変わったことはなく、挨拶をする程度だった。
一度具合が悪いのを装って、部屋に閉じ籠ってみた。1人でゆっくり休みたいと言うと、ナディアは渋々下がってくれた。
病弱なお姫様のふりは、たまにする分には楽しいのだが、ずっとしているのはどうしても疲れる。
限界が来る前に休むことは、とても重要なのである。
結局、宮廷内をじっくりと隅々まで回るのに6日を費やした。これで見れるところは全部見た。
散策を終えて、夕食を済ませ、入浴まで完了すると、就寝である。
「ナディア、今日もありがとうございました。また明日。」
「おやすみなさいませ。シアナ様、良い夢を。」
ナディアが下がった後は、シアナが1人になる貴重な時間だった。仮の姿を脱いだシアナは、最近すっかり特大ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねることが日課になっていた。
ひとしきり飛び終えた後は毎晩、その日に回った宮殿内の記憶から、ざっくり地図を作成する。その日に見た限りで覚えている場所や地形を地図に書き起こす以外にも、考えたことや気づいたことを全て書き出す。
帝国の宮殿の警備は、王国とは比べ物にならない厳しさだった。さすがに簡単には抜け出させてもらえそうにない。
だが、警備とは、基本的に外からの侵入や攻撃に対しての防衛が最優先される。内側からの脱出に関しては、今の時点でいくつか綻びを見つけることができた。
——そう、シアナは早速帝都へ繰り出そうと考えていた。
ここ数日の散策は、主に地理を把握し、宮殿から抜け出す経路を見つけるのが目的だった。
ルンルンでマッピングをしているこの王女は、実際のところ、病弱とは程遠い、お転婆な娘なのであった。
抜け出す上での最大の懸念事項は、皇太子レイノルドにシアナの正体がバレないかどうか、ということだが、謁見時の様子から、レイノルドはシアナのことを『管理しやすい無害な人質』と認定し、『利用価値のない病弱な王女』として、放置することにしたと考えられる。
黙って宮殿を抜け出したことが露見すれば、戦争が勃発する可能性が高いが、要はバレなければ問題ない。そして、さほど関心を持たれていないシアナの行動がバレる可能性は低い。
シアナにとって、これほど好都合なことはなかった。
抜け出す方法として1番簡単なのは、下働きに紛れ、下級使用人区域から街へ出ること。
掃除係や洗濯係などの下級使用人は、城内を動き回っていても不自然ではない上に、人数が多ので、身分証明を求められないことが多い。いちいち確認していてはきりが無いからだ。
それに、下働きには平民や貧民街出身の者も多い。身分の低い使用人の動きはさほど注意を払われ無いので、顔も覚えられにくいだろう。
ただ、下級使用人区域から脱出するにあたり、問題点が1つ。『皇太子妃シアナ』の状態では、下級使用人区域へ立ち入ることができない。
シアナは、先日見つけたあの扉——下級使用人区域に通じていると仮定している——を、1人でこっそり見に行く計画を立てた。
ナディアを欺くのは少しだけ良心が痛むが、アルメリアの市井への憧れの方が、遥かに大きい。
バレたら王国が滅ぶこともあり得るというのに、楽しそうに脱出経路を考えるシアナのメンタルは、やはり鋼鉄で出来ているのだろう。
しばらく書けないかもしれません。
ゆるゆる執筆ですが頑張って完結目指します!




