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1. シアナの食事事情



話の展開ちょっと変えました。(ちょっとか?)







「ん〜!」

痛いくらいに空いていたお腹に、温かいスープが染み渡る。

スープには、人参やじゃがいも、鶏肉が入っている。いずれも柔らかく煮込まれており、あまりの美味しさに涙が出そうだ。

「おいしい、しあわせ……」

口からは自然とエストニアス語が出てしまう。


病人食のようにも見えるそれは、シアナが嫁ぐにあたり、ミランダがアルメリアに提示したレシピのうちのち一つだ。


ミランダは、シアナの嫁入りが決定した後に即行で、なんと宮廷薬師の資格を取得し、他に事情を知る宮廷医たちも巻き込んで、シアナの偽の診断書の制作に当たってくれた。

……のは良いのだが、ミランダはシアナに恨みでもあるのか、『シアナに食べさせてはいけないもの一覧』などと言うふざけたものも作り上げ、アルメリアに提出。極端にシアナの食事を制限してきたのだ。

お陰でシアナが食べさせてもらえなくなったものは、小麦や加工肉、きのこ類や乳製品など、挙げ出したらきりがない。


こんな嫌がらせをするためだけに、宮廷薬師に出世したとは考えたくないが、ミランダならあり得る。


ミランダが「どうせ病弱なふりをするのなら、このくらいはしなくちゃね。おーっほっほっほ!」とわざとらしく高笑いをしながら煽っている様子がありありと想像できて、無性に腹が立つ。


(あんの鬼師匠め。今度会ったら覚えてろよ…………。まあどうせ少ししか食べられないから良いんだけどさ。それにこのスープは美味しいから、師匠が提案した他の料理も美味しければ、許してやらんでもない。)


シアナが幸せを噛み締めている様子を、ナディアが微笑ましそうに見ているような気もするが、本当に美味しくてそれどころでは無かった。


器があっという間に空になる。元来シアナは少食なたちだが、今はお腹が空きすぎて、きっちりおかわりまでした。


「これならしっかり食べられます!食事はしばらく毎日これでも良いくらいです。とても美味しかったと伝えて下さい。」

空になった食器を下げてくれるナディアに、シアナはにこにこの笑顔で声をかけた。


「それはようございました。」

ナディアが食器をワゴンに乗せて出ていく前に、ふと足を止める。


「シアナ様、あの。荷解きでしたら、ご自分でなさらずとも、お手伝い致しますよ?」

ナディアは開きかけの荷物の方に、ちらりと目を向ける。

どうやら気付かれてしまったらしい。

「そうですね、後で一緒に手伝って下さい。」

取り敢えず、見られるとまずい物は片付けたので、続きは後でナディアに手伝ってもらうことにする。


ナディアは一礼して部屋を出て行った。



〜・〜


「ナディア、お茶を淹れて頂けませんか?」

食後に一息吐きたくなって、ナディアに声をかける。

温かくて良い香りがして落ち着くので、シアナはお茶が好きだ。花嫁行列の道中はお茶はしなかったので、久々にゆったりくつろぎたくなったのだ。


しかしそれを聞いたナディアが、戸惑ったように小首を傾げてしまった。

「あの、勘違いでしたら申し訳ありません。シアナ様は、紅茶は飲めないと伺っていたのですが……。」


(ああそうだ、紅茶も駄目なんだった。…………前言撤回、師匠許すまじ。)


「ええと、残念ながら紅茶は飲めないんです。ですのでハーブティーをお願いしたいのですが……。」

「……はーぶてぃー、でございますか?」


「あ、ええと……、薬用や食用になる、香りの良い植物で淹れたお茶のこと、です。」

『ハーブティー』をアルメリア語でなんというのかが分からず、考えながら説明する。


ナディアは少し考えるような様子を見せた後、困ったようにおずおずと返事をしてくれる。

「申し訳ありません、アルメリアでは、薬用になる植物でしたら、医師や薬師、修道院や教会などが取り扱う分野なのです。『お茶』と言われると、一般的には『紅茶』のことを指しますね。」


言語の問題だと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

ナディアの反応から察するに、アルメリアではハーブティーはあまり親しみのないものらしい。


エストニアスでは民間療法としてハーブが使われていたし、貴族の間でもハーブティーは紅茶と同じくらい普通の物だったのだが……。


アルメリアではハーブティーが飲めない。これは今後の課題だな、と思いながら、シアナは微笑んだ。

「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず。」


(師匠、今度会ったらただじゃ置かないから!)



〜・〜


ナディアに手伝ってもらって、なんとか荷解きを終えたシアナは、ふと疑問に思っていたことを口にする。

「気になっていたのですが、私はまだ、ナディア以外のメイドの方に、お会いしていないんですよね。」


すると、ナディアが少し気まずそうな顔になった。

「実は……シアナ様のお世話をするメイドは、私以外は未だ選定中でして。」

シアナ付きのメイドは今のところナディアだけなのだそうだ。

「……ということは、ナディアが1人で私の世話をするということですか?それは、いくらなんでも過重労働すぎると思います。」

あまりにも驚いてそう問えば、ナディアはだいぶ言葉を濁しながら説明してくれた。


なんでも、シアナに付く人員は志願制だったらしいのだが、お世話係のメイドに関しては、ナディア以外に志願した人がいなかったらしい。

「ああ……そういうことですか……。」

シアナは色々と察した。シアナの良くない噂を聞いて、嫌厭したという事だろう。


『我儘で癇癪持ち』という噂は、どうやらシアナがま思っているよりも根強く広まってるみたいだ。


(これ、絶対誰か意図的に言いふらして回ってるよね。ナディアに過重労働させる原因になったそいつ、見つけたら絶対ぶっ飛ばそう。)


どうやらシアナは、ナディアのことを随分と気に入ってしまったようである。


シアナが何やら不穏な空気を纏っているのを感じ取ったのか、少し勘違いしたナディアが慌てて弁明を入れる。

「ですが、ご心配には及びません。掃除、洗濯、炊事などを請け負う裏方のメイドは沢山おりますから、不自由はないかと。」

それを聞いて、シアナは少し安心して、頬を緩めた。

「それなら良かったです。というか逆に、それらも全てナディアがやるのは、ナディアが潰れてしまいます。」


「ええ、ですから、何も問題はございません。それに、引き継ぎ地点で出迎えた者達が、今からでも改めてシアナ様付きのメイドに志願しようかな、と話していたのを耳にしました。人手不足が解決するのも時間の問題です。」

いまいち会話が噛み合っていない気もするが、シアナの周りの空気が軟化したのを感じ、手応えを感じたナディアは、そのまま畳み掛けるように続ける。


「そうなの!?」

数時間前に別れたばかりの、旅の間に良い関係を築けていたメイドさん達を思い出す。

「彼女達なら大歓迎です。皆さん良い方々でしたし、安心できます。」


「私も同感です。あまりにも志願者がいなかったところを、皇太子殿下が身分やお人柄を考慮してお選びになりった方々です。」

同意を示してくれるナディア。

だがそのあとに、小さな声で付け足すようにぽつりと呟く。

「……人員不足が解消されれば、私はシアナ様付きのメイドから外されてしまうかもしれません。」

そう言ったナディアの表情が少し翳ったのを、シアナは見逃さなかった。


何か事情があるようだが、それがどんな事情であろうと、皇太子妃であるシアナが望めば、ナディアの雇用の継続など容易い。

そう考えたシアナは、ナディアの発言に関して特に追及しなかった。


「どうせなら、自分のメイドは自分で選びたいですね。」

他国から来た女にもそのくらいの決定権はあるだろう。

シアナは羽ペンを手に取り、羊皮紙の上に滑らせた。皇太子宛に選任権を譲ってもらいたい旨を書す。

皆様お忙しいでしょうから、自身のメイドの選定であれば病弱な私でもお手伝い可能です、という文体で、文を書き上げた。


シアナは、ふと気になって、ナディアに質問する。

「ところでナディアは、どうして私のメイドに志願したんですか?」

「ああ……えっと、それは……。」


何やら言いにくそうにしているので、「率直にどうぞ?」と茶化してみると、「……お給料が良かったからですね。」という返事が返ってきた。


シアナは「まあ!」と、口元を隠して上品に笑ったが、心の中では大爆笑した。













シアナさんとナディアさんの仲がちょっとずつ良くなってて嬉しいです!


シアナさんのためだけに、あっさり宮廷薬師の資格を取得したミランダさんは、だいぶ凄い人の予定です。

今のところわりと常識人っぽいですが、面白い性格してます。というか、今後そう出来れば良いな、、、







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