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4. 皇太子殿下は良くない噂で有名です。しかし、私にも悪い噂があるので、一切問題ないですね。



帝国が派遣してくれた人員は、とても多かった。王城の人員の軽く五倍はいる気がする。

馬車も、ここまでは2台で来たのだが、帝国側はなんと6台も用意してくれたらしい。


シアナは内心、え?こんなに要る?と思いながらも顔には出さず、帝国の人員たちの前に進み出る。


今まで好き勝手に生きてきたシアナだが、ただ遊び暮らしていただけではない。

王族としての知識、教養、礼儀作法に関しては、それなりにできる方だと思っている。


儚さを演出するために、終始、少し顎を引き気味にして、口には二部の笑みを浮かべる。

声はか細く抑え気味で。

おしとやかで美しい、そして風に吹かれたら飛びそうな、か弱そうな雰囲気を全面に押し出す。


実際は見た目とは裏腹に、とんでもなく神経を使っているが、それはお首にも出さない。

あたかも普段からこんな感じですよ、というくらいに自然な様子で。


「お初にお目にかかります。この度、アルメリア帝国の皇太子妃となりました、シアナと申します。」

綺麗なアルメリア語でそう言うと共に、ふわり、と音がしそうなほど優雅な、お得意のカーテシーを披露した。



〜・〜


馬車は軽快な音を立てて、帝国の広大な領地を進んでいく。

馬車の座席は深く、クッションの効いた上質な革張りで、小国の宮廷ではお目にかかれないほどの快適さだった。

道も整備されていて、揺れがほとんどなく、帝国の国力の一端を感じさせる。


引き継ぎが行われてから、半月が経った。その(かん)、帝国の人員と共に旅をする内に、帝国のメイドさんたちや護衛の人たちとは、だいぶ仲良くなれたように思う。

最初の方は警戒されていたが、なんとか病弱設定を信じてもらえたようで、徐々に打ち解けて、最近はちょくちょく気遣ってくれるようにまでなってくれた。


シアナの隣には、ナディアと名乗った女性が控えていた。

帝国がシアナに付けてくれたメイドの内の1人で、年齢はシアナより少し上に見える。

洗練されたメイド服を身にまとい、茶色の髪は綺麗にまとめられていた。

表情は常に控えめだが、その茶色の瞳の奥には利発そうな光が宿っている。


ナディアは帝国の人員たちの中でも、最初からあまり偏見を持った様子を見せずに接してくれた、数少ない内の1人だった。尤も、ただ淡々としているだけなのかもしれないが。


「ナディア。」

シアナが声をかけると、ナディアは静かに膝の上に組んだ手をわずかに動かし、控えめに返事をした。

「はい、シアナ様。」


シアナは、いつものようにか細く、いかにも病弱な王女らしい声で尋ねる。

「私は、噂では『我儘で癇癪持ちな病弱女』となっていますでしょう?お国の方々もきっと、私のような者が皇太子殿下のお妃になることを、良く思ってはいませんよね……。」


不安げに眉をひそめてみせるシアナに、ナディアは落ち着いた声で答えた。

「そのようなことはございません。シアナ様が素敵な方であることは、この短期間だけでも十分に理解できました。シアナ様であれば、皆快く受け入れて下さるかと。」


「そうだと良いのですけれど……。ところで、私の結婚相手の皇太子殿下は、一体どんな方ですか?」


アルメリア帝国の皇太子、レイノルド・シュテルンは、残酷非道な策謀家として知られている。

数年前、アルメリア帝国現皇帝が病に倒れ、表舞台に顔を出さなくなってから、政務を1人で担い、周辺国を非情なやり方で次々と征服していっていた。

血も涙もないような戦法をとるため、『戦場の悪魔』『人の皮を被った化け物』とまで言われている。


シアナは、そんな悪評のある皇太子が、自国民からどのように評されているのかが気になった。


「他国にとっての殿下の印象は、あまり良いものではないと存じます。」

ナディアが言葉を選びながら、静かに語る。


「そうですね、冷徹で非情な支配者という印象が強いです。」

シアナは静かに相槌を打つ。


「皇太子殿下は、軍事国家であるアルメリア帝国において、8年前に初陣を飾り、称えられてきました。」


シアナは身を乗り出しそうになるのを寸前でこらえ、病弱なふりをするために、そっと背もたれに体を預けた。


「しかし、皇太子殿下があまりにも優秀すぎて、その冷酷さを恐れる声があるのも事実でございます。特に、敵対する者に対しては容赦がないと。その決断は常に合理的で、そこに感情は一切入らない、など。」


ナディアの表情は、あくまで平穏だったが、その言葉からは、世間が抱くレイノルド皇太子への畏怖がひしひしと伝わってきた。


「苛烈な統治者としての顔がある、というのは事実だと思います。なんでも、殿下は一切の無駄と非効率を嫌い、無能な臣下は躊躇なく切り捨てられるとか……」


シアナはそれを聞くと、むしろ安堵したように、微かに口角を上げた。病弱なふりのため、大きな笑みにはしない。


どうやら皇太子殿下の悪い噂は本当らしい。


冷徹で合理的な皇太子。それが本当なら、感情を排したその性質は、シアナの『平和な隠居生活』を保証してくれるだろう。


シアナは再び窓の外の景色に目を向け、小さく微笑んだ。



〜・〜


「シアナ様―、帝都が見えて来ましたよ。」

馬車の外から、護衛騎士の一人が声をかけてくれる。

人懐っこい笑顔をしているその人、ウィルは、ナディアと同じく最初からシアナに対して普通に接してくれた人だ。


ウィルの言葉に、シアナは馬車の窓から顔を出した。

「わあ!」


石造りの巨大な城壁が、広大な街全体を取り囲んでいる。

深い歴史の息吹を感じる落ち着いた街並みでありながら、整備が行き届いており、城塞都市とは思えない程に開放的で賑わっている。


帝国の宮殿は、その中でも一際異彩を放っていた。異なる時代に増築されたらしく、多様な建築様式が見事に融合し、不思議と調和している。規格外の大きさと、厳粛さや重厚さが感じられた。



引き継ぎが終わってからここに辿り着くまでに、既に一月半程が経っていた。

その間ほぼ病弱の演技をしながら過ごしていたシアナは、だいぶ疲弊していた。



王宮から引き継ぎ地点までの悪路に比べると、帝国内の道は、道幅が広く、きちんと整備されていた。にも関わらず、通常でさえ一月前後かかるのは、それだけ帝国の領地が広大だということに他ならない。



一月半程を共に旅したメイドさん達や護衛の人達とは、ナディアを除いて、一旦お別れになるらしい。元々それぞれの持ち場があり、そこから駆り出された形だったそうだ。


ナディアは引き続き、シアナ付きのメイドを務めてくれるという事で、シアナは心強く思った。


なお、シアナの病弱なふりに関しては、今のところ大成功を収めている。

なんと、たまに息をついたりした時に、甲斐甲斐しく世話をしてくれるメイドさんまで現れたのだ。ほんとは元気なんだけどな、と逆に罪悪感が湧いてくるぐらいには、旅をした人達の間では、シアナの病弱設定は盤石になっていた。


荷物を部屋に運び込んでくれたりと、最後までお世話になった。

皆宮殿で働いているそうなので、またどこかで会うだろう。



〜・〜


宮殿の奥まった一室で、シアナは皇太子レイノルドとの初謁見を待っていた。


そこは応接室のような場所らしい。部屋の調度品はすべて豪華で完璧に整えられているが、どこか無機質な印象を受ける。


ナディアが仕上げた銀色の髪は、普段よりも丁寧に梳かれ、上品なティアラがわずかに光を反射していた。

顔には薄く化粧が施され、身に纏った豪華なシルクのドレスは、銀の刺繍が入っている。

王国から持ってきたドレスは、『身体に負担がかからないように』という理由で軽いものばかりを持ってきたため、このドレスも例に漏れず、裾の広がった重いドレスではなく、腰から下にさらりと流れるシルエットの、薄くて軽いものだ。


ここまで来る道中、体調を崩しているフリをするためにほとんど食事を摂らず、水分も控えていたため、顔色は自然と青白い。


(よし、完璧だ。この顔色なら、わざとらしくしなくても良い。)


シアナは胸の前で両手をそっと組み、息を吸う。


扉が重々しく開かれ、1人の男が姿を現した。












ようやく結婚相手が登場。良かった…….。

苗字のシュテルンは即興で決めました、名前決めるのが1番苦手、困った時はドイツ語だー。(適当)


ウィルさんを一瞬しか出せなかったけれど、これからも出てくるはず、、、


あまり上手く纏められなかった……。いつか再挑戦して修正を!






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