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1. 街娘の正体



連載に挑戦です!更新は不定期……

自分のペースでゆっくり書いております。

至らない点があるかもしれませんが、

温かい目で見守って下さると嬉しいです♪





石畳の通りに朝陽が差し込み、街はゆっくりと目覚め始める。

まだ薄暗い路地には、夜の間に積もった生活の残り香と、パンを焼く香ばしい匂いが混じり合い、木骨造りの家々が、少しずつ傾きながら軒を連ねている。

窓辺には色とりどりの花が飾られ、通りを行き交う人々の目を楽しませるかのようだ。


賑わい始めた街の中を、1人の小柄な街娘が走り抜けていく。

歳の頃は13、4。

化粧っけはなく、少し吊り目なこと以外は特筆することのない地味な顔立ちなのに、どこか人目を引くのは、その翠色の瞳のせいだろうか。

頭頂部で1つに括った長い髪は、ありふれたミルクティーのような茶色だが、癖がなく真っ直ぐ。

左肘にバスケットを下げ、編み上げブーツを履いていて、くるぶし丈のエプロンドレスを物ともせずに走っていた。


「おや、おはようシアン。今日も元気だねぇ!」

「おはようございます!お陰様で!」

通りすがる知り合いの人達が、すれ違いざまに声をかけ、少女もそれに答える。


「相変わらず足が速いねぇ!」

「怪我には気をつけなよ!」

シアンと呼ばれたその少女は、足は動かしたまま器用に身体を捻り、右手を振り挙げて「はーい!」と元気の良い返事をするのだった。



〜・〜


ここ、エストニアス王国の王都にある、平民街の広場は、街の中心にある井戸の周りに広がっていた。

ここでは毎朝、近隣の農家や職人が品物を持ち寄って売りに出す。いわゆる朝市が開催されているのだ。


広場には、すでに多くの人々が集まっていた。

活気ある声が飛び交い、交渉する声や笑い声が混じり合い、街全体が生きているかのような賑やかさに包まれる。


教会の鐘が鳴る。

ある者は手を止めて黙祷し、またある者は無言で空を見上げる。

特に気にせず品物の整頓を続ける者や、一時(ひととき)目を伏せる者など、反応は様々だ。



市場を散策していたシアンは、やがてあるお店の前で足を止めた。

年季の入った木の看板には、雑な文字で「古物商」と書かれている。


シアンの目は、店頭に並んだ、深い藍色の布地に繊細な銀の刺繍が施された小さなポシェットに向いていた。


「ねえ、おじさん!」

シアンは、店の番をしている、ひげ面の恰幅の良い男に声をかけた。年の頃は50は超えているだろうか。

男は口の中で何かを転がしながら、面倒くさそうに顔を上げた。


「これ、いくら?」

シアンはポシェットを指さす。


男はそれをちらりと見て、鼻で笑った。

「お嬢ちゃん、目が肥えているね。それはな、遥か東方の絹を使った逸品だ。その銀糸の輝きを見てみろ。5ユリスだ。」


シアンは顔をしかめた。ユリスというのは、この国で最も流通しているお金の単位だ。

「5ユリス?冗談でしょ!確かに素敵だけど、古いし、東方なんて絶対嘘だわ。ほら、この留め具のところ、少し緩んでるし。せいぜい2ユリスがいいところよ。」


男は少し驚いたような顔をして、口の端をニヤリと上げた。

「おやおや、見る目があるだけでなく、口も達者ときたか。だが、東方製は本当だ。留め具は直せばすぐに使えるだろう。それに、この刺繍の細かさは見事だろう?3ユリスでも赤字だ。」


シアンはポシェットを手に取り、裏側まで丁寧に検分する。

「うーん……たしかに縫い目は丁寧ね。でもね、おじさん。私、叔母さんにどうしてもこれを贈りたいの。お願い、3ユリスで手を打ってちょうだい。私、おじさんの店の近くでジャムを売ってるおばあさんの手伝いしてるんだから。おじさんもジャムよく買いに来てるでしょう?」


男は腕を組み、唸るような声を上げた。

「ぐむ……お嬢ちゃんが働き者なのは知っているが、3ユリスは勘弁してくれ、せめて4ユリス。4ユリスなら、手間賃くらいは残る。」


シアンは少し考える素振りを見せ、すぐに明るい笑顔になった。

「分かった。じゃあ、間を取って、3ユリスと、私が摘んできたハルイラベリー1籠だとどう?おじさんのおやつくらいにはなると思うんだけど。」


男は目を丸くしてシアンを見た。そして、大笑いした。

ハルイラベリーはこの辺りでは見つけるのが比較的難しい種類の野苺で、他の木の実より高い値段が付く。


「ハッハッハ!参った!本当に恐れ入ったよ。いいだろう、3ユリスとハイラルベリー1籠で結構だ。持って行きな!」


シアンは嬉しそうに頷いて銀貨を取り出し、ハルイラベリーが入った籠を男に渡した。

「ありがとう、おじさん!叔母さんもきっと喜ぶわ!」


ポシェットを受け取ったシアンは、満足げに微笑むと、再び歩き出した。



〜・〜


市場を抜けて、シアンは石畳の路地に面した小さな家にやってきた。

看板に細かな彫刻で、天秤と薬草のリースが描かれており、薬草店だという事が伺える。

古風でありながら親しみやすい印象の、こぢんまりとしたお店だ。


重厚なオーク材でできたドアに手をかけ、ギィッと押し開けると、カランコロン、と軽快な音が鳴り響く。

頭上の真鍮製のベルの澄んだ音は、このお店の雰囲気と良く合っていた。

「こんにちはー。師匠、いるー?」


店内は、乾燥した薬草や樹脂の匂いで満たされていて、窓から差し込む光が壁一面の木の棚を照らし出す。

棚には、色も大きさも不揃いな陶器や、分厚いガラスの小瓶がずらりと並び、手書きのラベルが古文書のように見える。


天井近くの梁からは、乾燥したラベンダーやセイヨウオトギリソウなどの、薬草の束がいくつも吊るされており、それらが作る影が、この場所の秘密めいた雰囲気を深めていた。


店の奥に、表面が滑らかになった大きな木製のカウンターがあり、オイルランプの柔らかな光の下、真鍮の秤や、乳鉢と乳棒、そして厳重に閉じられた革張りの分厚い書物が、何冊か重ねて置かれているのが見える。


カウンターの奥に、分厚い本を見ながら書き物をしている、20代後半くらいの女の人がいた。


腰まであるウェーブのかかった柔らかい赤髪で、影を落とす長いまつ毛の間から、新緑色の目が覗く。

黒くて長いローブを羽織っており、さながら物語に出てくる若く美しい魔女のよう。


よほど集中しているようで、シアンが入ってきたことに気付いていない様子だ。


彼女はしばらく書き物を続けていたが、やがて一段落ついたようで、ふと顔を上げた。


「あら、いらっしゃい。第2王女シアナ様(・・・・・・・・)?」

女は、鈴のような軽やかな声で、目の前の少女にそう言った。


「もう師匠、揶揄うの辞めてってば。せっかく髪まで茶色にして変装してるんだから。それとも師匠は元伯爵令嬢ミランダ様(・・・・・・・・・・)って呼ばれたいの?」


「ごめんなさい、冗談よ。だからそんなに怒らないで。」

気安い関係の2人は、顔を見合わせて笑った。




「それで、シアナはまたお忍びで来たのよね?最近2日に1度は来てるんじゃない?いちおう王女様なのに、そんなに頻繁に抜け出して、本当に大丈夫なのか心配になるわ。」

ハーブティーを淹れながら、ミランダがぼやく。


「全然大丈夫。お父様に許可はもらってきているし、私は病弱ってことになってるから、逆にお城に居てもすることが無いんだよ。」

シアン改めシアナは、茶菓子を用意しながらそう返した。


ミランダはシアナの亡き母の妹、つまり叔母である。

没落した伯爵家のご令嬢だったが、今では庶民として薬草店を営んでいる強者(つわもの)だ。


名前の呼び方に関しては、シアナは勝手にミランダのことを『師匠』と呼んでいる。

たまに薬草学を教えてくれるから、というのもあるが、一番の理由はミランダの自由な生き方に憧れたからだ。人生の師という感じだろうか。

ミランダは師匠呼びに対して特に文句は言ってこないので、ずっとそのままである。意外とこの呼ばれ方を気に入っているらしい。


ハーブティーと茶菓子を2人で楽しむ。

「あ、そういえば、これ師匠に。この前ブローチを仕舞うポシェットが欲しいって言ってたでしょ?これさっき市場で値切ってもらったんだ。」


シアナは先程市場で購入したポシェットのことを思い出し、ミランダに差し出した。


「覚えていてくれたの?嬉しいわ。それにしても市場で値段交渉する王女様って、なんだかすごく逞しいわね……。」

ミランダが呆れ顔でポシェットを受け取る。

だが、その目が一瞬で丸く見開かれた。

「待って、これ東方の絹じゃない!?掘り出し物だわ!どこのお店の?」

どこかおっとりのんびりした雰囲気だったミランダが、興奮したように身を乗り出す。


「え、東方の……って、あれほんとだったんだ……。ジャム屋さんの近くにある古物商のおじさんが朝市で出してたんだけど。」

ミランダに喜んでもらえて、シアナは本来銀色である髪の毛先を、指に巻くようにくるくるといじった。


それがシアナの照れ隠しの仕草であることを、ミランダは良く知っていた。



〜・〜


シアナは、側室の娘ではあるが、いちおうこの国の第2王女である。

とはいえ、母は既に亡くなっており、後ろ盾もない。王位継承権も早々に剥奪してもらっている。その立場は限りなくお気楽なものだった。


まるで当たり前のように街娘の格好をして市井をほっつき歩いているが、これでも実は、世間的には『病弱』で外に出られないこととなっている。


エストニアスの第2王女は『病弱』で、人前には滅多に顔を出さない。そのため『実は我儘で癇癪持ち』だと実しやかに囁かれている。


幸か不幸か、その噂を厭ってシアナに結婚を申し込む者はいなかったし、無理に政略結婚をしなければならない相手もいない。


お世辞にも良いとは言えない噂も、嘘の病弱設定も、シアナにとっては煩わしい全てのものを遠ざける最高の盾であった。


書庫に篭って本を読んだり、市場を歩いたり、街の人と世間話をしたり、子供達と戯れたり、師匠のところに遊びに行ったり、野山や森に出掛けてみたり。

やりたい時にやりたいことをする、自由な日常。


そんな気楽な人生が、これからもずっと続いていくと思っていた。




その日常が大きく変わる転換期は、すぐ側に迫っている。











ミランダさんのおうちのような場所に住んでみたい……


情景描写力が低いので想像しにくいかもですが、文章力上がるように頑張っていきたいです!

取り敢えず書いてから修正していくスタイルで。







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