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第8回

   8


 定時に帰宅だなんて、いったいいつ振りだろうか。


 こんな明るい時間から帰宅の途についている自分に、何とも言えない罪悪感を覚えつつ、足早に自宅へ向かう。


 率先して取り組んでいた企画があったが、例の魔法百貨堂を紹介してくれた同僚に昼間の事を話すと、

「あなたの分も私が頑張るから、早く帰ってあげなさい」

 と背中を押してくれた。


 彼女にはいつか何らかの形でお礼をしなければならない。


 歩き慣れた道は沈みゆく陽の光に照らされ橙色に染まり、空には次第に藤色が広がっていく。


 その何とも美しい風景に感動しながら歩いていると、気付くと自宅の前だった。


 玄関を抜け、ダイニングに向かう。


「あ、おかえり! どうしたの? 今日早いじゃん!」


 久しぶりの、息子の出迎え。


「ただいま、大地」


「おかえりなさい、あなた」


 紗季は俺が昨夜作ったカレーを火にかけながら、そう口にした。


 机の上には先日買ってきたワインとグラス、そしてあの魔法のバラの花束が飾られている。


 ……なるほど、こういうことか。


 あの女店主、もしかして最初からこれを見越していたんじゃないだろうな?


「なぁ、紗季」


「ん? なによ」


 振り向く紗季に、俺は言うべきことを言うべく、口を開く。


「この間は、本当にすまなかった。これからは、なるべく早くうちに帰るように努力するよ。休日も可能な限り出勤は控える。その分、家族で出かけよう。今しかできないことを、家族でするんだ」


 その言葉に、紗季はくすりと馬鹿にするような笑みを浮かべながら、

「まぁ、クビにならないよう、ほどほどにね」


 そうだな、と俺は苦笑し、そしてもう一つ、紗季に言うべきことを思い出した。


「あとな、紗季」

「なに?」


「その、なんだ――」

 俺は何となく恥ずかしく思いながら、それでも頑張って、その言葉を口にする。


「愛してるよ」


 紗季は見慣れた微笑みを浮かべながら。




「――知ってる」







 *ひとりめ・おしまい*

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