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魔法百貨堂 〜よろず魔法承ります〜  作者: 野村勇輔(ノムラユーリ)
ふたりめ

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第2回

   2


 その夜、わたしは真帆さんに言われた通り、購入したハンカチをしっかりと胸に抱いて夜を明かした。もちろん、類人くんのことを想いながら。


 それはとても容易いことだった。わたしの気持ちは常にあのキラキラと輝く彼に寄り添っていたから。


 ハンカチからはほのかにバラのような香りがして、その優しい香りに抱かれて、わたしは素敵な夢を見ながら眠りに落ちた。


 夢の中で、わたしは類人くんとデートをしていた。


 近くのアウトレットモール、そこに併設された小さな遊園地で、わたしと彼は仲良くメリーゴーラウンドに乗っていた。


 星の瞬く夜。周りには他に誰も居ない、二人だけの時間。


 それは、とても幸せな夢だった。


 朝になって目が覚めた時、このままもう一眠りして同じ夢を楽しもうと思ってしまったくらいに。


 でも、それはダメ。この夢を、わたしは正夢にしなくちゃいけないんだから!


 眠たい目をこすりながら頑張って起き上がると、制服に着替えて鏡の前に立つ。


 髪を奇麗に梳かし、軽く色つきのリップを塗る。

 派手にならないように、自然な可愛らしさを演出するよう心掛けて、目元もチェック。


 うん、ばっちり。


 わたしは頷くと、逸る気持ちを抑えきれず、駆け出すように家を出た。





 授業中、わたしはずっと類人くんの事ばかり考えていた。


 気付くと彼のことをぼんやり見ていて、目が合いそうになるたびに慌てて顔を逸らした。


 彼があまりにも眩しくて、直視することができなかったから。


 やがて放課後の訪れとともに、わたしは彼から遅れること五分、そのあとを追うように校庭に向かう。


 すでに彼の活躍を見ようと何人かの女子が集まっていて、よく見える場所は占拠されていた。


 仕方がなく、わたしはそこから少し離れた場所に立ち、遠目に彼の活躍を眺めた。


 昼間の気怠そうな彼からは想像もつかないような躍動感。俊敏な動きで敵をかわしつつシュートを決めた彼の笑顔はとても輝いていて、その瞬間に湧き上がる黄色い歓声に混じってわたしも声をあげた。


 しばらくして、休憩の号令がかかる。わたしは彼の元へ駆けて行ったけれど、やっぱりそこには人集りができていて。


 わたしはただ、その様子を遠目にぼんやり見ていることしかできない。


 その時だった。


「はいはい! アンタたち邪魔しない! そんなんじゃ休憩にならないでしょ、関係ない人は帰った、帰った!」


 パンパンと手を打ちながら、担任の山畝(やまうね)美智(みち)先生がやってきた。


 その言葉に、類人くんを取り囲んでいた女子たちが渋々といった様子で去っていく。


 それを見届けてから、不意に山畝先生と視線が交わる。先生はニコッと笑い、小さく頷いた。


 わたしはペコリと頭を下げ、それから類人くんの方へ駆け寄る。


 実は魔法百貨堂の真帆さんを紹介してくれたのは、何を隠そう山畝先生だ。


 山畝先生は若くて美人で、そしてとても優しくて、わたしはどんな事も先生に相談している。


 もしかしたら、実の両親よりも信頼しているかも知れない。


 たぶん、今のわたしを見て、敢えて彼女たちを彼から遠ざけてくれたんだろう。


「る、類人くん!」

 声を掛けると、

「あぁ、柴田さん」

 彼は煌めく笑顔を向けてくれた。


「ぶ、部活、頑張ってるね。その、さっきのシュート、かっこ良かった……」


 頑張って、言葉を紡ぐ。


「そう? ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ」


「ら、らら、来週の土曜、し、試合、だったよね…… がが、頑張って、ね……」


 落ち着け、落ち着けわたし!


 そんなどもりながら口にしたわたしに、けれど類人くんは馬鹿にするでもなく、

「うん、もちろん。俺ら、絶対勝つから見ててよ!」

 太陽の輝きすら比較にならないほどの笑顔に、わたしも大きく頷いた。

「う、うん!」


 そんな彼の額から、頬を伝うように汗が垂れる。


 わたしは反射的に例のハンカチを取り出し、

「汗が……」

 と言いながら、その汗をハンカチで拭って。


 その途端、わたしも彼も目を見開き、思わず動きを止めてしまう。


「あ、あぁ、あ、こ、これ、は……」


 取り繕う言葉が出てこず、言葉にならない声を漏らしてしまう。


 ああ! なんて事をしてしまったんだろう! ただハンカチを渡すだけでよかったはずなのに、わたしはなんて大胆なことを……!


 さすがにひかれたかなぁ、なんて思っていると、

「あ、ありがとう。あとは、自分で拭くからさ……」

 類人くんはそっとわたしの手からハンカチを受け取ると、額や頬を拭き始めた。


「……なんか、いい匂いがするね。花みたいな……?」

 呟くように彼は言う。


 けれど、わたしは恥ずかしさのあまり全身が熱を帯びていくのを感じながら、ただ黙って足元の地面を見つめることしかできなかった。


 やがて、

「休憩終了! 次行くぞー!!」

 顧問の先生が叫ぶように言って、

「あ、行かなきゃ!」

 と類人くんは立ち上がり、駆け出す。


 わたしは顔を上げ、ぼんやりとその後ろ姿を眺めていたら、不意に類人くんが振り向き、笑顔で言った。


「ハンカチ、ありがとな! また洗って返すから!」


 天にも昇る気持ちで、わたしは空を見上げる。


 神様、山畝先生、真帆さん、ありがとう!

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