表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/80

第七十七話 ーーあなたの声がほしい —ジョイの視点—

静かな夕暮れ、キッチンの向こうでミオの笑顔が揺れていた。彼女の笑顔はいつも美しくて、僕は何度でもそれを見たいと思う。


だけど、僕はそれを口にできない。

「好きだよ」――その言葉は、心の中で何度も反響するのに、なかなか声にならない。


僕は子どものころから、言葉よりも行動で愛を示すことを学んできた。

父は言葉少なで、でも背中で家族を守っていた。僕もそんな男でありたいと思った。


でも、ミオは違った。彼女は言葉を求めている。僕が黙っているせいで、彼女は寂しい思いをしているんだろう。


そんなことは分かっている。だけど、どう伝えたらいいのか分からない。



ある晩、ミオが僕の前で言った。

「黙っていてもいいの。でも、たまにはあなたの声が聞きたい」


その瞬間、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。

自分の沈黙が、彼女を孤独にしていたなんて。


僕は小さく息を吸い込み、重い口を開いた。


「……好きだよ、ミオ」


言葉はぎこちなく、声も震えていた。けれど、そこに僕の真実が詰まっていた。


彼女の目が潤み、微笑んだ。

その瞬間、僕の心の中に閉ざされていた扉がゆっくりと開いた気がした。



翌日、僕はひとりで街外れの丘へ向かった。

ミオが通っていた、リュミの星霊盤の小屋を訪ねる勇気はまだなかった。


だけど、星を見上げると、何かが僕の胸を暖かく包み込んだ。


「言葉は窓だ」――リュミの言葉が、ふと思い出された。


僕はこの先、もっと自分の声を届けようと思った。

行動だけじゃなく、言葉も。


ミオが望む“声”を持つ夫になりたい。



数日後、家に帰るとミオが待っていた。彼女は静かに僕を見つめて、こう言った。


「あなたの声、聞かせてくれてありがとう」


僕は照れくさく笑いながら、腕を伸ばし彼女を抱きしめた。


「これからは、もっと話すよ」


ミオの笑顔が、まるで星のように輝いた。


僕の声はまだ拙いけれど、二人で歩くこの道に光を灯すだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ