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第十四話 ーー影を追う者の祈り

街はずれの丘に、小さな占い小屋がある。

その日、リュミのもとを訪れたのは、革の鎧に身を包んだ若い男だった。


「……占い師だな?」


低い声と、鋭いまなざし。けれどその瞳には、焦りと苦悩が滲んでいた。


「ええ、どうぞ。中へ」


「俺はディラン。王都の衛兵だ。今、ひとつの事件を追っている――その手がかりを、占いで探れないかと思って来た」


「事件……?」


「街で起きてる盗難だ。貧民街を中心に、すでに五件。同じ手口で、同じ夜に。被害は小さくない。でも、目撃者はいない」


リュミは静かにうなずき、魔道具《星霊盤》を手に取った。


「犯人の姿は、どこにも記録されていない。でも……“音”はあったんだ。ある老人が、“低く口ずさむような声”を聞いたと証言している」


リュミは、星霊盤の上に手をかざす。衛兵の瞳が動く。


「これで、犯人がわかるのか?」


「……いえ。占いは、答えそのものを教えてくれるわけではありません。でも、今“何を見落としているか”は、示してくれるかもしれません」


星霊盤が、微かに揺れた。


淡い青の星が、夜の帳をすり抜けるように、静かに旋回している。だがその軌道には、他の星たちとは異なる、ひどく不安定な“震え”があった。


「この星……誰かに気づかれたくないと願いながら、どこかで“気づいてほしい”とも思っているようです」


「矛盾してるな」


「……そうですね。でも、そういう人はきっと、迷いの中にいます。誰かを傷つけることで、自分を保っているのかもしれません」


ディランの拳が、静かに握られる。


「追いつめて終わりじゃない。俺は、罪を裁く前に“その人間”を見たい。……どうしてそうしたのか、知りたいんだ」


リュミは少し目を見開き、微笑んだ。


「それなら、あなたの星は正しい場所に向かってます」


星霊盤の示す“影の軌道”をたどり、ディランは調査を続けた。

やがてたどり着いたのは、小さな廃教会。そこに潜んでいたのは、十代半ばの少年だった。


「俺を……捕まえに来たのか」


少年は、震える声で言った。だが彼の手には、盗まれた品と共に、幼い弟妹たちのためのパンがあった。


ディランは剣を抜かなかった。


「罪は罪だ。だが、話を聞かせてくれ。お前が何を守ろうとしたのか。どうして、盗む以外を選べなかったのか」


少年は、はじめて涙を流した。


後日――


再び訪れたディランは、リュミに頭を下げた。


「……あの子は、今保護施設にいる。盗品は返還され、罪は償うことになる。でも“声”をかけられてよかったって、そう言っていた」


「それは、あなたが“影の奥”を見ようとしてくれたからです」


「リュミ……ありがとう」


星を読む少女は、穏やかに微笑んだ。


人の闇は、星にすら見えないことがある。

でも、それを照らそうとする心があるなら――

たとえ犯人を追う道でさえ、誰かの“始まり”になることがあるのだ。


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