恋の呪文は……エロイムエッセサイム!?
免責事項
※本作品はR-15推奨です
※「ちょっとダンスィ!」要素を含みます
※もっと言えば若干のおすけべ要素も含みま......す?
草木も眠る丑三つ時。
私立中学の二年生である葉加瀬比呂は、自室にて怪しい儀式を行なっていた。
「エロイムエッセサイム、エロイムエッセサイム」
床には模造紙に書いた大きな魔法陣と、オカルト好きの父の書斎から拝借してきた書籍が数冊。
『なんだ、厨二病か』と侮るなかれ。
古代、魔術は学問であった。覇権をとる前に科学が発達したことで衰退したが、それはプログラミングに似ており、実はあともう少しで実用化される段階まできていたのである。
そして葉加瀬比呂はエリート中学でトップの成績を誇る俊才で、プログラミングも大得意。
彼は、その明晰な頭脳でオカルト書籍から『共通のパターンや法則性』を見つけ出し、自ら魔術コードを書いた。
そして本日遂に、人類史上初の魔術実用化に成功しようとしている。
「さあ、出てこい……『色気』について教えてくれる悪魔!」
召喚魔法陣が光る。光は球体となり、その中には人影が
ズッコンバッココン、ズッコンバッココン(効果音)
そして出てきたのはムチムチボディの美しいサキュバス……ではなく、モテないだんすぃが親近感を持つ顔をした、男の悪魔であった。
「ブフォ!拙者を召喚したのは貴殿でゴザルかwww」
「おお、成功した。まあ、プログラミング通りだから当然といえば当然なんだけど。」
悪魔はアモデウスと名乗った。
「気軽にアモちゃんと呼んで下され。」
「ダウナー系の芸能人みたいなニックネームだね。」
もしくはじぇじぇじぇの人
人類初の悪魔召喚にしては、シリアスや偉業感が足りない対面である。
「あと、そのゴザル口調はなんなの」
「拙者、忍をリスペクトしてござる。[忍とは『刃』の中に『すけべ心』を持つもの]って下りとか、カッコよくて堪らんでごさるよ。」
「それ逆じゃなかったっけ!?」
あと、すけべはどこからきた。
「して、葉加瀬氏。どのような経緯で拙者を望んだのでゴザルか」
「うーん、話せば長くなるんだけどね……」
◇
「ダメだ、名前呼びしてくれるような仲のいい男友達ができない。中学になる頃には運動よりも勉強できる奴が人気者になると思って、努力してきたのに……」
「うーん、それついてはハカセくんが賢すぎて、あと真面目で大人でもあるから、皆一歩引いちゃってるだけじゃないかなぁ。」
過日の放課後、教室には頭を抱える葉加瀬比呂と、お下げ髪の同級生がいた。小学校から一緒の可愛い女の子だ。
「それに僕、モテないし…ねぇ委員長、クラスの女の子達と、どんな男に惹かれるかとか、話したことってある?」
「え、えっと…耳戸さんは『ちょっと悪い奴』、島さんは『色気のある人』とか言ってたかな。」
「なるほど……ところで委員長、僕には皆目見当がつかないんだけど、悪くて色気のある人になる方法って、分かる?」
「さあ?」
この情報を聞いて、葉加瀬は思った。
(なら、わかる人に聞こう。勉強と一緒だ。よし、『悪くて色気に詳しい奴』を探し出して、弟子入りしよう。そのためには……)
そうして思考に没頭していたもので、お下げ髪委員長がうっとりした目で彼見つめて
「ちなみ私は賢くて大人っぽい人が好きかな……な、なんちゃって」
とか言ってたのに全然気づかず、フラグを一つ無駄にしていた。
◇
「そんなわけで、『男友達との親交を深める』と、『女子からモテモテになる』のふたつを切望した僕は、まずは女子からのモテを実現するべく、色気に詳しい悪魔を召還したって訳さ!」
二兎を追う者は一兎も得ず
ひとつ、ひとつだ。
ふたつ、とかファンタをかましてはいけない
「賢いのかアホなのか分からんでゴザルなぁ。でもその意気やよし!初回サービスとして特別に無料で協力してあげるでゴザルよ。」
「ありがとう……と言いたいとこだけど、そんなうまい話ってある?逆に騙されていないか心配になるよ」
「勿論、ノーリスクではござらんよ」
アモちゃんは語る。
宝くじに当たった人間が最終的に不幸になることもあるように、力を手にするのはリスクが伴うと。
叡智を得た一方で楽園を追放されたアダムの例もある。何かを得る一方で、知らないうちに失う未来もあるやもしれない。
それを理解して、覚悟しておいて欲しい。
そして上手くいっているときこそ、見落としがないか注意してほしいと。
「……よし!それをわかった上で協力をお願いするよ。それで、そもそも色気って何なの?どこにあるものなの?」
葉加瀬の質問に「グッドクエスチョンでごさる」とアモちゃんは答え、核心を伝える。
「いいでござるか、葉加瀬氏。キーワードは『色即是色』でゴザル。」
「もしかしてバカにしてごさる?」
色気があるっていうことはつまり色気があるってことなんですよ。
聖水ぶっかけてやろうか?
「ござらんござらん!モテ要素である『色気』というものは、元をただせばみんな『エロ』が原材料なのでごさる。そして『エロ』は本来、何にでも存在するもの。」
「ファンタジー作品で、『実は万物に魔力が宿っている』とかそういう感じ?」
「おお、理解が早くて助かるでござる。もちろん物により含有量に差はありもうすが」
思ったより理論的だった。
ちょっとローファンタジーっぽくなってきて、ワクワクする。
「ただ、万物に宿るエロを知覚・掌握し、色気などに変換するには本来、相応の修練が必要なのでござるよ。巷で言われる『色気のある人物』とかは、人生経験を積むうちにそれを半ば無意識のうちにできるようになった、才能ある人なのでござる。」
「魔力を感じて、水や炎に加工できる人は一部しかいないみたいな感じ?」
「エグザクトリーでござる」
アモちゃんはなおも講義を続ける。
それを3行で纏めるとこういうことだった。
・色気や艶っぽさは加工物
・その原材料はエロ
・色気を纏う前に『エロの認知』が必要
「理論はわかったけど、エロの認知ってどうするの?なんにでもエロさはあるって言われても、正直さっぱりなんだけど」
「こうするでごさる」
そう言うとアモちゃんは葉加瀬の後ろにまわり、
ぬるぽ
「がぁ!?」
何かを挿入れてきた。
「うわ、なになに?怖いし異物感が凄い、抜いて抜いて!」
「大丈夫大丈夫、エロが認知出来るように、一度拙者のエロ感覚器官をすこーし繋げただけでござる。怖くない怖くない。」
ちゃーんと壊れないように加減しているから。
先っちょを、ちょっと挿入してるだけだから。
ちなみに人が人を騙すときは、同じ言葉を2回繰り返す傾向があると言う。
「これで今、葉加瀬氏は『エロい目』で万物を見れる状態になりもうした。今なら、様々なものに宿るエロさが分かるはずでござるよ。その証拠にほら、その腰につけている物をじーっとみてみるでごさる」
「万一の護身用に準備していたコレのこと?」
聖水
「な、何だろう。神聖な物のはずなのに、ちょっと淫靡な感じがしてきたよ......」
「そうでござろう、その調子で今度はそこの机の上を見るでござる。」
ノーパソ
うなぎパイ
ティーバッグ
「うわあー!すっごくエロく見えてきた!か、感じる~」
「そうでござろう、そうでござろう。まだまだイクでござるよぉ」
その後、葉加瀬はAV機器を活用し、一晩中様々なものを視聴し『エロい目』を鍛え続けた。
そして遂に補助をうけること無く自力で『6Pチーズ』のような食品、「奥飛騨」などの地名、「PayPay」などの金融用語、果ては「TKB-072」のような銃火器にまでエロを感じられる次元に至る。
「お見事!すべての物事がエロさを内包していると悟ったでござるな。さて、これで無料サービス『色即是色を体得する』は終了でごさる。このまま有償サービスに進んでもよいが……とりあえずこの状態で一度生活してみるのをお勧めするでごさる」
「どうしてだい?」
「有償サービスはハイリスクだし、今のままでも充分に生活は潤うはずだからでござる」
アモちゃんは語る。急に「色気」や「艶」を纏った場合、それをコントロールできないと、性犯罪者やヤンデレに眼をつけられ危険に巻き込まれることがあると。
「あと、代償としては後ろの穴の処女を」
「よし分かった!有償サービスは受けない!」
食い気味に断る葉加瀬に、アモちゃんは軽く笑う。
「それでは、名残惜しいがそろそろお別れでござるなぁ。最後にアドバイスを一つ、修業によって身につけた力は、自分の利益だけでなく周りの皆を楽しませるために使うのが—―」
—―幸せになるためのコツでござるよ
そう言い残し、ゆっくりと消えていった。
「変な悪魔だったなぁ……」
でも、ありがとう
そう口の中で呟く葉加瀬。
登り始めた朝日が窓から入り、彼をゆっくりと照らしはじめていた
◇
「ほらね、鉛筆ってエッチだろ?」
「な、なるほど〜!」
「流石は『H・エロ博士』だな」
「次はコイツをエロくして下さいwww」
悪魔召喚の日から1ヶ月、葉加瀬比呂は悪魔から授かった叡智を出し惜しみすることなく、クラスの皆に伝え続けた。
その結果、かれの交友関係は大きく広がって、今では男友達から下の名前で呼ばれるどころか、ニックネームで呼ばれるまでになっている。
葉加瀬は思う。
今回、『女子からのモテ』という当初の目的とは違う形になったが、何も失うことなく、手に入れたものは大きかったと。
悪魔召還、ビビっていたけど、アモちゃんはいい奴だったし、終わってみれば楽勝だったな、と。
そうやって調子に乗ったから、彼は過日、アモデウスが言った言葉を忘れていた。
曰く
—―力を手にするのはリスクが伴う
—―それを理解して、覚悟しておいて
—―上手くいっているときこそ、見落としがないか注意
だから葉加瀬は気づけない。
「ほんっっと、ダンスィって、バカばっか!群れて下品な話して、サッイテーね!」
「ハカセ君、変わっちゃったなぁ......悪い方に。彼だけは孤高で知的でカッコイイと思ってたんだけど。」
「最近の彼のことはどう思うの?委員長」
「あんな汚物、もうどうでもいいわ」
密かに彼を慕い、キラキラ輝いていた女子達の瞳が汚物を見る時のそれに変わっていることに。
—―叡智を得た一方で楽園を追放されたアダムの例もある
—―何かを得る一方で、知らないうちに失う未来もあるやもしれない
下ネタで絆を深め『俺たち卒業してもズッ友だよエンド』に向かって突き進む葉加瀬比呂。
しかし一方で、あの日何もしなければ近日中に実現していた、
『女子にモテモテハーレムエンド』
その未来は、たった今、消滅したのであった。
よろしければ、この後、未だ穢れを知らない☆を染め上げつつ
貴殿の色即是色を、感想欄にご一筆頂けますと幸いです
目指せ、KENZENで楽しい感想欄!
5/18 追記
よろこびのこえ
沢山のポイントをありがとうございます。
お陰様でローファン短編で日間一位に
そして感想もありがとうございます
ぬるぽ
5/25追記
お陰様で新作できました↓ 同一シリーズからも読めます
壁に耳あり正直メアリー
https://ncode.syosetu.com/n1106kn/