フーコの冒険
フーコの冒険
わたしはフーコ。リスさんの仲間のジリスなんだ。尻尾がふさふさのリスさんは木の上で生活しているけど、わたしは地面に穴を掘って生活している。でも、今は優しい飼い主さんの家で、快適なケージの中で暮らしているの。
今日もケージの中の回し車で爆走していると、飼い主のナオくんとユウちゃんが頑張れと応援してくれている。わたしは、その声援に応えるために、さらに爆走していた。
平和で幸せな毎日だった。
そんなある日、わたしはユウちゃんに抱っこされて窓際で日向ぼっこしていた。窓を開けて網戸にして、わたしに日差しと外の風があたるように気遣ってくれている。ポカポカとした日差しが気持ちよくてわたしはふと何時もは思わない事を思っていた。
外の世界はどうなっているんだろう?
わたしは窓から見える外の世界をぐるっと見回した。
広いなぁ……。
わたしが今住んでいるケージもかなり大きな物にしてくれてあるけれど、窓から見る外の世界はその何倍も何十倍も大きな世界だった。
外に出てみたい。
わたしは、その誘惑を抑えられなかった。
ごめんなさい、ユウちゃん。
わたしはユウちゃんの抱っこから飛び降りると、網戸に爪をかけてカラッと開いて外に飛び出した。窓は重くて開けられないけど、網戸ならわたしでも開けられる。ユウちゃんは慌ててわたしを呼んで、外に出てきたけどわたしは素早く身を隠していた。
ドキドキする。
わたしは初めての外の世界に興奮していた。ユウちゃんはわたしの名前を呼んで歩き回っているけど、わたしは物陰から物陰に走って移動していた。こう見えてもわたし、足は速いんだ。いつも、回し車で爆走してるのも伊達じゃない。それに体力もある。一日に何キロも走る事が出来るんだよ。わたしはユウちゃんに見つからずに、なんだかみどりの草が生えている所まで来ていた。途中、地面がカチカチに固いところがあって走り難かったけど、ここは柔らかくて走りやすいよ。どうやら公園というところみたい。わたしは嬉しくてこの広い場所を思い切り走り回っていた。
気持ちいいなぁ。
ぽかぽかした日差しを浴びて思い切りダッシュする。わたしは夢中で走っていた。そして、走り疲れて座っていると近くで、ふーっという唸り声が聞こえた。わたしのすぐ近くに大きなネコさんがいた。ネコさんはわたしを見て、嬉しそうな眼をして、ペロペロと口の周りを舐めている。
えっ、わたしはネズミさんじゃないよ リスだよ。
わたしはピューピューと鳴いて必死に説明するけど、ネコさんの眼にはわたしがネズミさんに見えるみたい。口を開けて飛びかかってくる。
わたしはリスなのぉ。
ダッシュで逃げながらわたしは言うけど、ネコさんに聞いて貰えない。わたしは走るのが得意だけども、ネコさんも走るのが得意だ。それに、体の大きさが違う。わたしは、あっという間にネコさんに追い付かれてしまった。
ユウちゃん、助けてぇ。
わたしはユウちゃんの抱っこから逃げ出してしまった事を後悔していた。
「ブチ、ご飯だよ 」
大人の人の声が聞こえて、私を追いかけていたネコさんは、その声のした方へ喉を鳴らして走っていった。わたしはしばらく公園の遊具の陰に隠れていたけれど、もうネコさんは戻って来なかった。わたしはホッとしたとたんお腹がすいてきた。わたしも朝ご飯を食べたきり、ご飯を食べていなかった。いつもなら、ナオくんかユウちゃんが、もうお昼ご飯を用意してくれている時間だ。
この草、チモシーとは違うけど食べられるかな。
わたしは草を噛ってモグモグと食べてみた。食べられなくはないけど、いつも食べているチモシーや栄養満点のペレットとは全然違う。それに、お水もないよ。わたしは、帰ってユウちゃんに謝ろうと思った。ナオくんとユウちゃんはわたしを大切にしてくれていたのに、わたしは勝手に飛び出してしまった。ごめんなさいと素直に謝ろう。わたしは、そう決心してナオくんたちが住んでいるお家のお部屋に戻ろうとした。地面の上から固い石みたいな道の上を歩いて行ったけど、ナオくんたちのお家が見つからない。
ええっ、どおして。
わたしは夢中で飛び出してきたために、帰る為の目印を何もつけていなかった事を後悔した。クンクンと匂いを嗅いだり、耳を澄ませて聞いたりしてもわたしの知っている匂いも声も聞こえない。そして、日が暮れてくると気温がどんどん下がってきた。
うう、寒いよぅ。
わたしは寒いのは苦手だ。あまり寒いと冬眠しちゃって、そのまま起きれなくなっちゃうかも。わたしは道の隅をチョロチョロ歩いて憶えている匂いや音を探したけれど見つからなかった。
どうしよう、こんな固いところじゃ穴も掘れないよ。
わたしは前足の爪で道をカリカリと削ってみるが、びくともしない。仕方なくさっきの草の生えている公園まで戻って穴を掘って中に入ろうとしたけど、もう寒くてわたしの体力は限界だった。なんとか、草の所までは戻って来たけれど、もうそこに穴を掘る力も気力もなかった。
眠くなってきちゃった。
わたしは地面の上に横に転がったまま意識が遠くなっていった。
……ごめんなさい。
わたしが最後に思ったのは暖かいケージの中で回し車を爆走している自分の姿だった……。
* * *
「……ーコ、フーコ 」
わたしが気が付くと、柔らかいタオルの上で暖かい手がわたしの体を優しく撫でていた。懐かしい匂い、懐かしい声。わたしはハッっと顔を上げた。そこには懐かしい顔がわたしを覗き込んでいた。
「こんなところにジリスがいる訳ないから、絶対フーコだよ 」
ユウちゃんはそう言ってるけど、ナオくんは冷静に答えていた。
「でも、他の人が飼っているジリスかも知れないよ 」
ナオくんの言うことも尤もだ。わたしは頑張って体に力を入れて後ろ足だけで立ち上がる。そして、前足を組んで首を傾げた。
「フーコだ、間違いなくフーコだよ 」
「うんうん、フーコだね もう、あまり心配させるなよ 」
いつも、二人が可愛いと言ってくれるポーズ。わたしのその姿を見て二人は確信してくれた。わたしはタオルにくるまれて暖かいケージが待つお部屋に、ナオくんに抱っこされて帰っていった。
「ピューピュー 」
「フーコもごめんなさいって、謝ってるよ 」
「わかったよ、フーコ お腹空いただろ 帰ったらフーコの大好きなポリポリのブロッコリーあげるからな 」
「あげ過ぎないでよ 太っちゃうから 」
二人の会話を聞きながらわたしは幸せに包まれていた。少し離れただけで、自分がこれまでどれだけ大切にされていたのか身に染みてわかった。ごめんなさい、もう二人のそばから離れないから。抱っこされながら初めて見るお外の夜空は、とても綺麗だった。
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