姿かたちは変わらずとも
少年はそれはもう走った。恥ずかしさで込み上げる涙をものともせず、ただ必死に走った。
草原も、森の道なき道も。
もとより行く宛などなく戻る宛もない。
そうして辿り着いた川。
その川は幅3mほどの緩やかで底の浅い川であった。
濁りなく澄みきっており、小さな魚が泳いでいるのが見える。
周囲には背の低い草や花が咲いており、少年にとっては置かれた状況も相まって「天国かここは」といった具合。
「飲めなくても飲むぜ!俺は!水をよぉ!
下流の人がいくら怒っても!洗うぜ!服をよぉ!この走って汗も染みたゲロくせぇ服をよぉ!!!」
何を威風堂々と孤独に宣言しているのか。
少年も自身の情緒がおかしくなっているのを理解しているが、それはもう飲んだし、それはもう洗った。
人心地つき、少年は今置かれている状況を振り返って、悲しくも独り言を吐露していく。
「確か俺は死んだっぽいんだよな?
そして転移術?かなんかで呼び出されてこの世界に来て。
で、その時にあのガチャガチャうるせぇ女神?だかに、よくわかんねぇうちに詫び特典を渡されているはず。
でもどうすりゃそれを把握できるんだ?
胡散臭ぇけど貰えたんなら何を貰ったんだか知りてぇ。」
思いの外、沈んでいる訳でもない様子の少年。
しかし釈然ともしていない模様。
数刻、少年は「ステータスオープン!」だの「ファイアーボール!」だのと叫び、何も起きないのを把握して独り恥ずかしさと虚しさで四つん這いで項垂れた。
……川を覗き込む形で。
「俺。なにも変わってねぇじゃん。」
少年は泣いた。
ほのかに転移するとともに自分の容姿も変わっているのではないかと。
しかし川に映った自身の顔は、記憶の通りに下の上から中の下の間のやや整わなかった尊顔であった。
嗚呼、悲しきかな。
続け。