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天才が召喚される前のこと

 この前、赤羽さん(私的な話なので幹部呼びはしていない)と模擬戦をしたとき、お兄さんの話を聞いたのだが、どうも嘘くさい。部活で助っ人に出て全ての大会で優勝するなんて馬鹿げている。そう東京にいうと、予想しなかった答えが返ってきた。


「それ、マジだよ」


「嘘でしょ。というか何で知っているのさ」


「赤羽兄弟は僕と同じ世界で時系列も同じところに生きていた人間だったからね。よくドキュメンタリーとかで特集されていたよ。あの人たちには人外という言葉がとても似合っていたよ。天才すぎるがゆえの悲劇がね」


「詳しく聞かせてよ」


「食券1枚」


「お前、がめつ過ぎるにも程があるぞ」


「食券1枚」


「…………コーラとサイダー2本づつ」


「さてと、これから話してやろう」


 ……チクショウ。







 赤羽兄弟は兄、宗一と弟の修次の双子だった。兄の宗一は幼少期から神童と言われており、野球は、安打製造機とか守護神だとか言われてサッカーもドリブルで相手を抜きまくってボールを一切奪わせず、ゴールを決めてしまったそうだ。バスケに至っては、漫画だとしたら序盤から白けてしまいそうになるほどで、ボールを投げるだけで決まってしまったそうで、今も昔でも、とんでもない存在だった。

 身長は日本人にしてはとても高く2メートルは余裕で超えていた。

 高校時代、陸上はやったことがなかったのに部員不足で生徒会の規定に引っかかり実績作りのために助っ人として駆り出された際には100メートル走で世界はまだ9秒9 くらいの時代だったのにもかかわらず8秒54という馬鹿げた記録を地方大会の予選で叩き出し、全国大会の決勝の時には8秒00にまで縮めていた。申請の関係などで世界記録には認定されなかったものの当時の陸上界に激震が走ったのは言うまでもない。

 彼はスポーツの名門高校である、高村東高校にいたがその中でも彼を誰も超えるどころか足元にも及ばなかった。

 よく聞く話の中には彼がスポーツの道を歩むことによってその道を諦めてしまった人も多かった。

 まあ、彼に噛み付いた怪物たちはそういう者たちとは違う諦めの悪すぎる者だったのだが。

 剣道の話はもう聞いただろうから省くが、彼は武道にも苦手な物がなかった。柔道では礼と受け身の練習を除いたら半月で先生に勝ってしまったんだ。弓道でも体幹が強すぎてブレがあまりにも少ないせいか弓を触ることを許されてから一番最初に皆中して、その後も外すことは一度もなかったんだよ。

 先生はもう教えることがないと言って彼はほぼ放置されていたそうだからこの時から孤独というものを知っていたんだろうね。

 高校を卒業して進んだのはプロ野球の世界だったけど、打率の記録が10割という狂った記録のせいで敬遠しまくって逃げようとするピッチャーが最初はほとんどだったけど盗塁も速すぎて刺せなかったからいつの間にか三塁にいるなんてこともあったよ。だからついにはどうせ変わらないと言うことで敬遠されることはなかった。




 勝てなかった。人間には勝てる存在ではなかった。何人もの天才が神の前に消え去った。


 悲しいかな、宗一さんは誰も相手をしてもらえなくなった。つまらないからというわけではない。怖いからだった。死にたくない、ただ、それしかなかった。努力の意味が分からなくなってしまった。強くなればなるほど、人が離れていった。


 サッカーをやったとき、ボールが弾け飛んだ。轟音を立てて跡形もなく消えていて、気づいたらキーパーの片足が折れていた。もう、彼は人間ではなかった。


「俺はスポーツをやらせてもらえないのかな」


 そう言って弟を羨ましがっていた。力のない弟を憧れのように見ていた。


 チートはゲームの世界だと全てを失う。ドーピングと同じもので、一生その世界には戻れない。異世界でも、物理世界でも、チートの辿る運命は差別と軽蔑と失望しかないのだ。


 追い詰められた彼は精神を病んだ。大好きだった野球を辞めて、今も、病院に入院しているそうだ。






「一言で言っていいか。俺よりも強いって」


「よく漫画でもチートを見るけど、現実に目の前にボールを蹴っただけで人の大腿骨を折れるようなやつと戦いたくないのは分かる。でも、努力で手に入れたものは全て無駄ではなかったはずなのにそういう感じに扱われるのが切ないな」


「チートが欲しいなんて軽く考えた折れが浅はかだった」


「そういえば、総会にはチート使いはたくさんいるからな」


「そんなにいたっけ?」


「総長は難しいけどチートというより呪いか、まあ同じようなもんだ。相手の精神を破壊するまで自分は死なないという能力で、確かスキル名は……『無限挑戦』だったと思う。これは自分が死んだらもう一度前の時間に戻って記憶を持ったまま戦えるんだよ。相手も記憶しているのが大変だけどね」


「勝てないじゃん」


「精神破壊とは、自害のことだ。だから総長も精神疾患で病むことがあるからギリギリの勝負になってしまうんだよね。それも自動でスキルが強制的に発動するから回避できない。総長はもろ刃の剣で戦っているんだよ」


「最高で何回甦ったの?」


「確か、7800億回だったはず。メンタルズタボロだよ。それとあとその記憶は全て頭に焼き付いているから一生7800億回その人を殺した記憶を背負い続けるっていっていたよ。」


「どういうこと?」


「記憶ってのは記憶媒体が紙だとしたら鉛筆で書けば文字が埋まった時は消しゴムで消して書けばいいよね。あの人も同じで普段はそうなんだけど、タイムリープ時の記憶だけはボールペンで記憶されるんだ。7800億回の記憶もそこにある。だからよくフラッシュバックが起きて身を病むんだよ」


「本当に呪いだな」


「南さんも強いけど宗一さんと似た面があるし、同じように自分の身の丈に合わない能力は身を滅ぼすんだよ」


「そう考えると幹部勢はすごいな」


「名に恥じない存在だよ」


「俺も力に目覚めたりしてな」


「それだけはねーよ」


「まあ、今考えても捕らぬ狸の皮算用かな」


「……お前の性格からして()だけはないな。それはそれとして奢りはどうした?」


 あっ…………そうだった。俺の給料から結構消えていくな…………。


「よろしくな!」


 悪魔だ……。











 総長室にて


「斎藤、大西の様子はどうだ」


「今のところ正常です。ただきっかけが与えられると極めて危険なため要観察といったところかと」


「そうか……まだ排除の必要は無いなら良い。あいつも悪意があるわけではないのだから排除となるときついんだよね」


「総長、いざとなったら……」


「わかってる、あいつの能力は世界に影響を与えるのだからな」


 そのためにスカウトしたのだ。他の国への影響を最小限に抑えるために。覚醒されれば生き物には歯が立たない。大西の精神系の能力は無自覚だ。下手に教えると暴走しかねない。


『敵意喪失』この能力をどうしたものかと、今日も徹夜になることをだるくなった。

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