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先輩の伝説と秘密

 この総会支部に入れてもらってから、一か月くらいたった。師範(総長)からのとんでもないシゴキを受けてから同じく一か月たつ。そのお陰か成績の上り幅がすごいことになっており下二官から下一官に上がるのには一週間もかからなかった。この昇格の速さは南始(みなみはじめ)という人以来二番目の記録らしく


「下二官だから書類雑務を押し付けて二時間眠れるようになると思ったら、夢幻になってしまったよ。やっぱり邪悪な思想を持っていると天罰が落ちるものなんだな」


 と、かつての同僚(今の部下)がぐちぐち言っていた。


「というか総長のお気に入りだったから上がれたんじゃないか?」


「そりゃそうだ」


「……もっと否定するかと思った」


「人に気に入られる人物にならなかったらそりゃ昇進できないさ」


「そういうことね」




 食事中にこんな他愛もない会話をしているとふとした疑問が突然浮かび上がってきた。


「そういえば、自慢じゃないけど僕は史上二番目の速さで下一官に昇進したでしょ」


「自慢だな」


「じゃあ、史上最速の昇進をしたのは一体どんな人だったのかな?」


「「俺だ」」


 突然後ろから声がしてきた。流石に後ろ蹴りはしなかったが、心臓に悪いからやめてほしい。


「総長、突然話しかけられると心臓に悪いですからやめてください」


「俺には何にも言わないんだな」


「あなたもです」


 後ろにいたのは現総長の東条進と誰かだった。


「……あなたは」


 階級章を見るに星七つあるから上二指揮官以上は確定だな。


「南始、幹部だ。よろしくな」


 どの世界でも近い階級の人とごはんを食べるのは変わらないみたい。僕は何かと結構階級が上の人と縁が深いのは偶然かな……


「俺のことが知りたいのか」


「はい」


 ここで「いいえ」なんていったら何があるか分からない。下手したら降格かもと思い内心ビビりながら南幹部の伝説を聞くはめになった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 南幹部の伝説は凄まじかった。この世界に召喚されてきたそうだが初っ端からぶっ飛んだことをしていた。

 ・召喚士をフルボッコ(丸腰で)

 ・国最強の騎士団に一人で壊滅的な打撃を与える

 ・召喚の元凶である国王を脅し後世に渡って召喚させないという文書にサインさせる

 ・召喚の原因となった戦争に一人で出向き一国の軍隊を()()で全滅


「こんな程度のことしかやっていないのに何でみんな恐怖するのだか」


 そんな性格だからみんなドン引きしたのでは……


「コイツ、マジで強くてな。当時は魔王より恐れられていたよ」


「ちなみにこの世界の魔王の強さは……」


「南の千分の一にも満たないと思うよ」


 だからこいつだけは敵に回すな……と小声で総長が言ってきた。聞こえたら殺されてもおかしくない発言だったから本当に聞かれなくてよかったとあの時は思う。


「失礼なことを聞くかもしれませんが南幹部の強さはどれくらいのものなのでしょうか」


 この質問には南幹部が答えてくれた。


「魔法は全種類扱えるよ」


 僕は飲んでいたコーヒーを吐かぬよう必死に耐えた。その代償に肺に大量の水分が入ってきてとんでもなく辛かった


「ゴホッ!ゴホッ!……うぇ……それってゴホッ!ゴヒューゴヒュー!とんでもnッゴホッ!」


「「「落ち着いてから話そうか」」」


 五分後


「魔法を全種類扱えるのは神のみだと教えられてきたのですが……」


「まあ、それぐらい貴重な存在ではあるがな」


 この世界には魔法という概念がありその特性は人によってばらばらではあるが大体は火、水、地、風

 の基本系統と光、闇、時、空の特別系統に分かれる。たまにどの系統にも属さないイレギュラーの存在もあるがこの八つの系統の魔法の歴史がかなり深いということは言うまでもなかった。

 その中でも一般常識として扱える系統は普通多くなればなるほど貴重な存在になっていくというものがある。確率として基本系統を二つ扱えるものは二十五パーセント。三つ扱えるものは十パーセント。すべて扱うことのできるものは五パーセントほどだ。

 特別系統にもなると未だ複数保有の記録が残っていない。特別系統にもなると体がそれ専用の物でなければ扱うことができないからだ。


「そんなに大変なものを複数保有しているあなたが信じられないです」


「見てみるか?」


「………………大丈夫です」


「すげー悩んだな」


 見てみたくもなるが食堂でそんなことをやったらここの管理責任者に叱られる。ここは心を鬼にして耐えねば……


 ちなみに大西誠は王立学校の魔法呪文学を専攻していたから悩んだのは尚更だった。


「剣技も未だにコイツとは勝てたことはないな。負けたこともないがな!」


 最後の方を結構強調していた。当たり前か、誰も負けを簡単には認めたくない。


「ずっと引き分けているのですか?」


「木刀が振る前に折れちゃうから……」


この人達にまともな答えを期待していたのが間違っていた。そりゃ振る前に木刀が折れたら話にならない。


「ただ、その熱風で死にかけたよな」


「あれは本当につらかった。気付いたら病室の天井が見えていたもの」


ああ、戦い自体は成立していたのね。


「ちなみにどうやって勝つつもりで」


こんな発言をした瞬間地雷を踏みぬいたと一瞬で確信した。


「どうって、鍔迫り合いの瞬間に膝を緩めて相手が前のめりになった瞬間に横へ逃げてわき腹を一突きさ」


「いやいや、前のめりになったら横へ剣を振っていたよ」


「そんな無茶だろ」


「あるいはドスで腹を貫かれた瞬間に首元をえぐる」


「だとしたら右、いや左に避けて首を嚙み千切っていたよ」


「肩には鉄板を仕込んでいたのを忘れたか」


二人とも笑顔だが対立しているのが見なくとも分かるほどのオーラを発している。


「ああなると数時間は言い争っているんだよな~」


「そうそう、こうなってくると業務に支障が出かねないのに。一体誰が地雷を踏みぬきやがったのか」


マズイマズイ。このままでは大戦犯として扱われかてしまう。どうにかして話題をそらさなければ……




「ところで、最速昇進記録は東条さんも保有しているんですね」


「あぁ、当然の記録ではあるがな」


「どういうことですか」


「俺は、この東方諸国連合総会の創設に関れるぐらい優秀だったから、総会支部に異動したときにすぐに昇進できたんだよ。ここは実力や多様な才能を持ったものが徹底的に採用されていくからね」


自分で優秀というのはどうなのかと思いつつ、この人達のぶっ飛んだ発言にもう慣れてしまっている自分が恐ろしい。


ここで言う東方諸国連合総会とは現実世界でいう国際連合のようなもの。それを作ったのは尊敬に値する……と南幹部は言っていたが、もう僕には何が何だか分からなくなってきた。


「そんなにすごい組織をどうやって作ったのですか……」


「別に作ったわけではないけどね。あっ、そろそろ昼食の時間も終わりだ。そろそろ業務に戻るぞ。さっきの話の続きはまた暇があったら話すよ」


「了解です」


そう言って職場に戻ろうとすると


「大西君、君はここに少し残りなさい」


南幹部が突然止めてきた。


「君に言いたいことがあるのだが……聞いてくれるか?」


「……はい!」


「聞いて驚かないでほしいのだけれど……君の隣にいる同僚の子、荒木田敬(あらきだけい)……元勇者の従者だよ」


「………………え」


「……黙っててごめんな。いつか君を驚かせようと思って」


「まあ気づかなくても当然だ。歴史で目立つのは勇者ばかりで従者が目立つ機会なんてほとんどないからね。むしろ扱いが不遇だなんてことも多いし」


「僕の仕えてきた勇者はそんな人は誰もいなかったけどね」


「………………ちょっと待ってください。理解が追い付けないのですが」


「君の昇進は同僚の中でもぶっちぎりだったから増長しないように()()にはお目付け役になってもらっていたんだよ」


「………………彼女?」


「あれ?気づいていなかったのか?というか言っていなかったのか?」


「そうなんだよね……上手く男装していたからバレなかったよ」


荒木田の顔をよく見ると確かにそんな雰囲気がするが……


「ジロジロ見てどうした。恥ずかしいからやめてくれ」


顔を赤くしていた。何を照れているのかよくわからなかったがここは正直に答えた。


「変装がすごいな~と思った次第であります」


「そう直球で褒められても照れるな。あと敬語じゃなくていいって。今は君の部下なのだから」


「部下って……というか本来の階級はどうなんですか?」


「幹部だよ」


「………………僕の周りには階級の高い人ばかりがいるような気がするのですが……」


そういうと南幹部はこういった。


「偉くなったら毎回俺らと顔を合わせることになるんだ。予行演習と思って」


「こんなに凄い予行演習はないと思いますよ」


これだけは、はっきりと言うことができた。


「そんな君に命令がある。荒木田もだ」


「「はい」」


二人そろって返事をした。そして僕らは南幹部の命令に耳を疑った。


「明日、魔王討伐に行くぞ」

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