第二話 神様、チートあるなら教えといてくださいよ
俺の名前はワンド。
元は女餅世一という名で生きていた転生者だ。
ある日頭のおかしい女に刺し殺され、死んだ後に神様がこのワンドという生を与えてくれた。
そしてそれから五年が経過したある日、大きな問題に直面した。
「これは!お父さん、お母さん、息子さんは素晴らしい才の持ち主ですぞ。」
教会にて神父さんが興奮気味に話す。
こんなことになった原因は数日前に遡る。
「ワンド、お誕生日おめでとう。」
「もうこんなに大きくなって。子供の成長は早いわね。」
俺、ワンドは五歳の誕生日を迎えた。
そこまでは問題ない。問題はその後。
「今日はいっぱい楽しもう。そのあとは街の教会で初鑑定だ。」
俺の今世の父親、ギースは言った。
「こんなにかわいいんだもの、きっといい結果だわ。」
母親、マリーも続く。
この世界、五歳になった子供は教会で鑑定というものを行うのが慣例だそうだ。
この結果によってその子がどのような分野のことを学ぶべきかがわかり、親が環境を整えるらしい。
ちなみにギースは農業向きの結果で、マリーは料理人向きの結果が出たそうだ。
この結果によって例外はあるが、だいたいの職業は決まるらしい。
そんなこんなで誕生日の翌日から馬車に揺られ数日、俺たち家族は教会に到着して今に至るわけだ。
鑑定結果は以下の通り。
───────────────
ワンド Lv1
適正職業:魔導士
〈スキル〉
・全属性適正
/ゼウスの加護/
/ヘルセの加護/
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鑑定が完了して、俺が思ったことはマズいの一つ。
知らない間に加護をつけられてたことはいい。
問題はそれが鑑定結果に出てしまったことだ。
おそらくだが、神からの加護が同時に二つなど前代未聞だろう。
そう思いどう誤魔化そうか考えている時だった。
「坊っちゃん、鑑定は終わったかい?」
前世の俺の体でも見上げないと顔が見えないくらい高身長な神父が優しい声音で言い、そっと鑑定結果が映し出された半透明な石板を抜き取る。
「これは!・・・」
そうして両親に俺の鑑定結果はバレるのだった。
俺が
(研究施設にでも連行されんのかなー。)
などとSF映画でありそうな展開を想像していると
「職業適正、魔導士ですって?!?!」
嬉しそうなマリーの声が教会内に響く。
「ま、マジか・・・」
オーバーリアクションなマリーとは対照的に、ギースは口をあんぐりさせる。
それから神父は、将来有望だとか何だとか、収まりきらない興奮とともに俺を褒めちぎる。
べ、別にそんに褒められても嬉しくないんだからね!
って!やってる場合じゃねー!
一体どうなってるんだ?
「神父のおじさん。」
俺が小さな手でローブを引っ張ると「何んだい?」と俺の身長に合わせて屈んでくれる。
「何がそんなにすごいの?」
そんな疑問に神父はニっと口角を上げ、説明を始める。
「坊っちゃんの結果にあった魔導士はすごく珍しいんだよ。まぁ、魔法が使えて魔導士になる冒険者の人はいるけどね。」
なるほどつまり、センスで魔導士になれる人間が珍しいから、こんなに興奮してたのか。
「他にも全魔法適正は、誰でも使える無属性以外にも基本属性、火・水・風・土・雷の魔法と治癒・回復魔法、全てを使えるんだ。例外として特殊魔法って呼ばれるその人にしか使えない魔法もあるんだけどね。」
そこからは、やっぱり坊っちゃんはすごいね。
とただ褒めるだけの時間に変わった。
スッと話すことに夢中になってる神父から鑑定結果を抜き取る。
五歳児の体にはやや重いそれをそっと床に置き、細かい説明がないか探す。
そして、/ゼウスの加護/をタップした時だった。鑑定結果が書かれていたはずの石板には全く別のことが記載された。
───────────────
・ゼウスの加護
神ゼウスからの贈り物。
加護を受けた本人しか認知不可。
以下のスキルを追加。
・神眼:動体視力が良くなる、千里先まで見通せる、スキル・ステータスを見れる、魔力の流れを見れる
・叡智:あらゆる物事を理解できる
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もう一度、ゼウスの加護をタップすると元の鑑定結果へ戻ったので、次は/ヘルセの加護/をタップする。
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・ヘルセの加護
神ヘルセからの贈り物。
加護を受けた本人しか認知不可。
以下のスキルを追加
・操水:視認できる範囲の液体を自由に操れる
・創水:魔力に関係なく水を作り出せる、一度に作り出せる量は体内水分量の五倍まで
───────────────
・・・。
「なにこれ?」
まず最初に出てきたのはそんな感想。
他の人から認知不可というのは余計な心配をしなくて済むので助かる。
だが、それより気になるのが、追加されるスキルの方だ。
厨二病が考えそうな名前に、小学生が思いつきそうな『ぼくがかんがえたさいきょーすきる』。
ヘルセの加護に至っては、変なバランス調整が入っている。
チートならとことんチートさせてください、お願いします。
「ワンド、どうした?」
床に向かってぶつぶつと呟いていると、ギースが声をかけてきた。
慌てて石板を元に戻すと、次はマリーが
「そろそろ宿に行くわよ。」
と言い、俺は精神的に疲れながも、宿まで歩くのだった。
翌朝、俺は目覚める。
昨日はあの後、想像よりも疲れていたのかすぐに寝てしまった。
今日は人生初の大きな街でのお出かけだ。
俺の生まれは田舎というにはやや大きく街にも近い村だ。
近いと言っても馬車で数日かけないといけない距離だが…
元の世界とは違い、都市のような大きな街でないと道が鋪装されていないので、数日の旅も一苦労だ。
電子機器などがないこの世界で娯楽は読書くらいしかないので、嫌でもこの世界の常識は知れてしまう。
「パパ、ママ、おはよう。」
朝から俺を挟んでいちゃこらしている夫婦に挨拶を一つ。
二人から「おはよう」と返された後、こそっりスキルを発動。
(【神眼】)
すると、昨日見た説明の通り、二人のステータスとスキルが見えた。
ギースはいつも畑仕事をしているため、筋力が高めだ。
マリーの方は、専業主婦なので、器用さの数値がすごい。
スキルの使用をやめようと念じると、【神眼】の効果が消えた。
それと同時に、少し目が疲れる。
チートスキルの反動か、体がスキルに対応しきれていないかのどっちかだろうが、少なくとも常時発動しとくようなものではないとわかった。
それより…
この親はいったいどれだけイチャつけば気が済むのだろうか?
「ママ、お腹空いた。」
正直気分だけで言うとお腹いっぱいだが、元気あふれる五歳児の体に朝食抜きはきつい。
「あら、ごめんね。」
マリーはそう言うと、ギースの頬にキスをしてから俺の手を引き宿屋の一階にある食堂に向かう。
ギースもその後を少し眠そうに着いてきた。
「おはようございます。」
食堂に着き、俺は宿屋の女将さんにぺこりと頭を下げる。
「あらま、挨拶ができてえらいわね。」
「そうなんですよ。うちのワンドはいい子なんですよ。それに頭も良くて…」
女将さんが俺を褒めると、マリーがえっへんと見事に実った二つの果実を突き出し誇らしげに語り出す。
それを聞く女将さんはさすが接客業をやっているだけあって、嫌な顔一つ見せずに話を聞く。
女将さんの相槌の上手さから、マリーの語りもギアを上げていく。
「マリー、そろそろ朝ごはんを食べよう。」
「あ、わたしったらつい!ごめんなさいね、長々と話しちゃって。」
終わる気配がないことを察したギースが声を掛けると、マリーは顔を赤くしながら口を閉ざす。
「いいんだよ。うちにもこのくらいの娘がいるから気持ちはわかるよ。」
気さくな笑顔を見せる女将さんに、ギースとマリーは笑顔を返す。
それからまた少し両親と女将さんが話した後、俺は席に着いた。
「この宿は綺麗だし、女将さんもいい人だし、いいところだな。また鑑定の機会があればここに来よう。」
ギースはメニューが書かれた木版を見ながら呟く。
「もう、あなたったら、気が早いわよ。」
そんなギースに顔を赤らめながらマリーが言葉を零す。
子供の前なのだからイチャイチャは控えてほしいものである。
念の為もう一度言っておく。鑑定は五歳になった子供に親が教育方針を決めるために受けさせるもの。
ギースは「また」と言い、現状俺に兄弟はいない。
まあ、つまりはそういうことだ。夫婦仲がいいのは子としても嬉しいのだが、少々イチャイチャしすぎなのが偶に傷。
「パパ、僕、これ食べたい。」
ギースの隣に座る俺は、木版に掘られたメニューを指差し、ギースに伝える。
それからギースとマリーも注文を決めると、さっきの女将さんを呼ぶ。
「あいよ!」と元気な声と共にメモ用紙を持った女将さんが来た。
注文を終え、少し待つと料理の美味しそうな匂いと共に、二つの影が厨房から出てくる。
一つは女将さんのもの、もう一つは隣の影よりも遥かに小さい。
「はい、おまたせ!」
「・・・」
ギースとマリー、二人の前に皿が置かれ、そのクオリティに二人は目を見張る。
適正が料理人のマリーが目を見張るのだ。美味しそうではない、絶対に美味しいのだ。
そんな料理を前に、俺は自分の料理にも胸を躍らせる。
「えっと…」
しかしなかなか机に現れない料理。
俺は女将さんの後ろにお皿を持って隠れる少女に目を向ける。
「ほら、挨拶しな。」
女将さんが促すと、少女は顔をちょこっと出し
「ソフィア…です。」
と一言。
「あはは、ごめんね。ちょっと人見知りな子なんだよ。今日は歳が近い子がいるから余計に緊張しちゃってるみたいだね。」
ソフィアと名乗る少女の手から皿を受け取った女将さんは、料理を俺の前に置きながら言う。
「そうなんですね。ほら、ワンド、お前も自己紹介しなさい。」
「ほら」とギースに背中を軽く叩かれ、俺はその口を開く。
「ワンドです。よろしく。」
手を出して握手を求める。
今でも女の人は苦手だが、ヘルセやマリーのお陰でこうして握手をできる程度にはなった。
さらに相手が小さな子供であれば何も問題ない。
「っ!」
しかし、俺に問題がなくてもソフィアにはあったらしい。
その手から逃げるように厨房へと戻ってしまった。
「あらら。あの子も本当は仲良くしたいはずなんだけどね。また今度話してあげてくれるかい?」
やれやれと女将さんは俺に微笑みかける。
「はい。」
そうして女将さんも「じゃ、冷める前に食べちゃいな!」と言って、厨房へと姿を消した。
ちなみに料理は見た目通りとても美味しく、俺たち家族の胃袋は完全に掴まれた。
時は流れ、現在俺たちは襲われていた。
いきなり何を言っているのか。
まず俺は攫われた。街の観光としてマリーと買い物に出かけていたのだが、少しはぐれた瞬間ガラの悪い男二人に拉致された。
そして目の前に転がるは二人とその仲間の死体、計五体。
死体なんて前世を含めて初めて見る俺だが、そんなことはどうでもいい。
なにせ俺たちも、そうなりかけているのだから。
【ゴブリン】が一匹、目の前にいる。
背丈は小学高学年くらいだろうか。俺たちよりだいぶデカい。その手には、目の前に流れる血と同じものが付着した棍棒が握られている。
「い、いや…」
隣で怯えた声がした。
俺とは別に攫われていたソフィアが、目の前の光景に恐怖し、腰を抜かしていた。
精神年齢で言えば高校生の俺はともかく、普通の子供であるソフィアは泣いていないだけ強い。
「どうすれば…」
俺は考える。戦って勝てるとは思えない。けれど、逃げるとしても子供の足で、さらに腰を抜かした少女を引っ張って走っても追いつかれる未来しか見えない。
(【神眼】)
とりあえず、この最悪な状況から抜け出すために戦力差を知る、そんなことを考えた俺はスキルを発動。
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・ゴブリン(個体名なし) ♂
種族:ゴブリン
筋力:340
物理耐性:低 魔法耐性:最低
俊敏:200
魔力:1
〈スキル〉
・威圧:自身に恐怖を抱くものの行動を制限する
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・ソフィア Lv1 女
種族:人間
筋力:30
物理耐性:最低 魔法耐性:最低
俊敏:100
魔力:5
〈スキル〉
・回復魔法
・治癒魔法
・再生魔法:破損部分を修復させられる(生物・無生物に適応)
・蘇生魔法:死後10分以内の生き物を蘇らせられる
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なんだこれ?なんかスゴいスキルあるんだけど。
多分だけど、補足がついてる魔法が神父さんの言ってた特殊魔法ってやつなのだろう。
それが二つも、しかも両方結構なチートスキルな気がする。
『グギャー!』
俺が視えたスキルに唖然としていると、ゴブリンが叫び出した。
耳を塞ぎたくなるその声で俺は我に返る。
いくらソフィアの魔法がチートでも回復系のスキルじゃ戦えない。
逃げるにしても身体能力では完全に負けている。
そんな絶望的な状況で俺の目に映るのは、いつの間にか足元まで広がる男達の血なのであった。
次回に続く
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