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どうしてくれましょう
どうやらお師匠に一方的に惚れていた大旦那は、ほかの男が寄らないようにと、早々に仲が《できた》と、できてもいないうちにいいふらしていたようで、五十ほどもいた通いの弟子の男たちは、そろってやめていったという。
「どうしてくれましょうかねエ?」
奥にとおした女はねっとりとした声で、うなだれている大旦那と、眉をよせる若旦那をみくらべた。
「ひどいいいがかりじゃないか」
いいはなった若旦那のことばを、「 いいがかり? 」となぞったおんなが首を引き、部屋の中をぐるりとみまわしおえると、「 ―― そうでございますか。それじゃあここまでのことを、ヨミウリ屋にでも、売りにいきましょうか」と襟をなおした。
しかたなくも、大番頭と若旦那は、それなりの金をもたせて、女とはきっちりと縁切りをさせるつもりだった。
ところが、大旦那が『それではかわいそうだ』と縁切りをしぶり、それにつけこんだように女の方も、『もらった金はいつか尽きましょう?』と、大旦那にねだるようなめをむけた。