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もめた
「大旦那さまが、あの女のところに通うのがうわさになっちまったから、若旦那や大番頭さんに、縁をきれっていわれてさ、それに怒った大旦那さまが、それならいっしょに暮らすっていいだして、まあ、もめにもめたのさ」
オウメといっしょに掃除をしている女は、おこったように廊下にある柱を拭く。
息子は、あんな女を家にいれるわけにはいかない、と死んだ母親の位牌を食事のたびに持ち出して毎日影膳をつくらせるようになり、大番頭は、店の金をお持ちになるのはこれより禁じます、とそろばんをはじいた。
すると、『お師匠さん』とよばれていた女がふらりと店をおとずれて、大旦那さんがあたしとの仲をいいようにいいふらしたせいで、ほかの弟子がやめてしまい、暮らしがなりたたないんですよ、と店先で息をついてみせた。