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ながく生きていれば
「きいてねえのに、わかるのか?」
おどろいたヒコイチをむいて、ザルの水をきった年寄が、それを持ったままよると、板の間にこしかけた。
「 ―― このババも、キナン町の下駄屋の奥様じゃないにしろ、ながく生きておるんでな、いろいろとみききすることが多いのよ」
《下駄屋の奥様》とは、ようはヤオビクニの『先生』のことだ。
「なかでも、奉公先で、ようおかしなことがあってなあ」
ばあさんは、フキのすじをとってむきはじめる。
「きくか?」
「そりゃあ、 ・・・きく」
フキを一本わたされた。
――――――