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あの黒猫
「 そうか、なにも・・・・ おい、ちょっとまてよばあさん。その、『だれにもいうな』ってはなしを、どうしておれにしやがった?」
ああ、だからな、とばあさんは坊ちゃまに買ってもらったという気にいりの湯呑に口をつけた。
「 ―― いままで、話せるあいてがなかなかおらんでな。それにすっかりむかしのはなしで忘れかけておったんじゃが、トメヤさんのあの《黒猫》が、街中であの《ネコマタ》とおなじ目で人をみよるし、キナン町の下駄屋の大旦那さんの《奥様》が、あの《黒猫》を抱いていなさるのも、このまえお見掛けしたんでな。 ―― ありゃあ、《ネコマタ》じゃろう?」
「あのな、さっきもいったが、《ネコマタ》とはちょいと違ってな。 まあ、西堀のご隠居も承知の上で、世話してる猫なんだが・・・」
どうにも、なんといっていいのかこまる。
このばあさんの口のかたさは信用してるが、あれの『中身』が、死んだはずの乾物屋の旦那だとおしえてもいいものか・・・。




