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《さわぎ》
夜のそとはまだそれほどの寒さでない時期で、オウメははだしの足をすりあわせながら、庭の木の茂みにかくれていた。みあげた屋根のむこうの月が、みるたびにちがうところにいる。
と。
ぎゃあああああああ
家の中からひどい叫び声があがり、オウメはおもわず立ち上がった。
だが、店の中にもどるなとオタキにいわれている。
庭の裏木戸からとびだして、隣の家の裏木戸をたたき、なにがおこっているかはわからないが、たすけてください、と大声をあげた。ひとがでてこないので、庭へはいり、戸板をじかにたたいて、またさけんだ。
ようやく、となりの小間物屋の旦那がおどろいて顔をだし、「たすけてください!」とオウメがさけんだとき、 ぎゃあああああ、 というさけびごえがして、ふりかえると、店からは火がたちあがりはじめていた。




