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さしがね
大旦那がいい気になるのは当然で、旦那衆のあつまりで、さきばしったことを口にするようになったのも、しかたがない。
そうして、息子の耳にそれが届いたころに、いくなととめられて稽古に通えなくなった大旦那のかわりに、菓子やなにかを師匠にとどけていたのも、《若番頭》だった。
「 ―― 大旦那にたのまれて、しかたなく、あの女のところに行ってるんだなんていうからそれを信じてたのに・・・」
オタキは、暗い目を、オウメのずっとむこうの、だれかにむけている。
「・・・あの女が店にのりこんできたときに、あたしにはすぐにわかったよ。あれは、あのひとの差しがねだってね。 ―― だから、そのあとで、ああなることもわかってたさ・・・」




