お供のつぶやき
大旦那の見込み通り、稽古に連れて行っても、けっして余計なことは口にしないし、お師匠に色目もつかわなかった。
が。
いっしょに歩いているときに、ぽつりと「大旦那さまをお待ちしているとき、あとからヤマシロヤさんのご主人がいらしたので、きょう《も》、ご挨拶いたしました」という。
大旦那は、そうかい、といちどききながしてから、「・・・ヤマシロヤさんは・・・前もきてたかねえ」とききかえす。「もう、五度はお会いしております」という返事で、大旦那はほかの男たちのことが気になりだす。
そうすると、むこうも《ねらい》は同じだと気づき、お師匠に土産をもってくるようになり、その土産を毎度持たされるお供がこんどは、「 大旦那様がいちばん上等な品をおくっているのですから、お稽古をながくしくれるようお師匠さまにおねがいしてはいかがでしょう?」といってみる。
気をよくした大旦那はそれを間にうけ、少しずつのばしてもらい、お師匠もむげにできずに、こころもち時間をのばして稽古する。
すると、「 こんなに熱心にお稽古をつけていただいているのは、大旦那さま だけ でございましょうね 」と、帰り道で感心したような顔をする。




