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秘密を知るのは
「 旦那様がじつはどこかに女を囲ってるだとか、奥様のほうも役者と茶屋でかくれてあいびきしてるとか、どこに金をかくしてるとか、ね」
はじめのころの猫の気味の悪さはいつのまにか消え、つぎには人の秘密をきかされる怖さがきたが、しだいに、
―― いつも頭をさげている相手の『秘密』を知る、楽しさをおぼえた。
「 ―― 傘屋にあがったときも、さきに猫がお店のなかをみててね。どんなもんなのかを教えてくれる。 大旦那さまが唄のお師匠にいれあげるようになっていったのも知ってたさ。 でもねえ ――― 」
オウメは、オタキが息をつくように間をとったとき、そんな大旦那様のことを知っていても、オタキにはどうすることもできないと言うのかと思った。
それなのに、オタキはなんだか、楽しそうにわらいだし、さっきからどこかとおくをみたままの目は、オウメをとおりすぎている。




