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女の『先生』を見たのは
女の先生も、『蓮池の 』から出てまいりますので。。。
なので、このばあさんがまえに、ダイキチといっしょに暮らす女の『先生』のことを『どこからきなさった』と聞いてきたときには驚いた。
めずらしくも他人のことをそんなふうにきいてきたのは、『まえにおみかけしたことがある』からだと言う年寄に、ヒコイチは、『そういうこともあるだろう』などとかるく受け答えたのだが、そのときにはまだ、『先生』がヤオビクニで年をとらないことも知らず、『おみかけした』のは、ばあさんが十二ほどのこどものときだったとは、知らなかったのだ。
まあ、あとになって、『先生』のことを、どうはなそうか迷って、けっきょくすべてをはなすことになったときにも、この台所の板の間でヒコイチとむかいあったばあさんは動じずに、きゅうと目をとじて何度かうなずき、「 ―― おみかけしたのはわしが十二で奉公にでた年だわ」と言っただけで、さいごにヒコイチをにらむと、「このことは、ぼっちゃまには言うな」とはなしを締めた。